第二話
ゆっくりと歩き出す。
一歩、一歩……慎重に。
少しでも気を抜くと転びそうだ。
ここまで身体が弱ることなんてあるのだろうか。
「もしかすると……」
本当にもしかしての話なのだが。
百年くらいずっと眠りっぱなしだったとか言わないよな?
作り話とかでよくあるじゃん。
いや、そんなわけないか。
だとすればもう老衰で死んでるだろうし。
可能性があるとしても数年くらいかな?
「……ん、ちょっと待てよ」
その場に立ち止まった。
慌てて自分の身体を見下ろす。
両手のしわが増えていないかを確認。
更に顔を触ってみる。
「ふむ」
どうやら記憶にある高校二年生の俺のようだ。
絶対にとは言えないが。
何十年も経っているわけではないと思う。
だとすると。
なぜこんなにも身体の様子がおかしいのだろうか。
周りのカプセルへと視線を向けた。
いろんなコードが床の下へと繋がっている。
ただのベッドではない。
最新のカプセルホテルでもないだろう。
「……まさか、人間を冷凍保存して歳をとらせないための機械じゃないよな?」
そう言いつつ、再び歩き出す。
冷凍保存。
あり得ない発想ではあるが。
今自分で言って少ししっくりきた。
そうすると辻褄が合う。
俺は何年間も冷凍保存されていて、ついさっき目が覚めた。
今まで長いこと眠り続けていたため。
身体の至る所が弱くなってしまっている。
そのせいで記憶も曖昧ってことか?
「じゃあ俺は、なぜここにいるのかという理由を知っているわけか」
全く思い出せないけど。
少しすれば勝手に思い出すかもしれない。
まあ、そもそもこの考えが仮説だし。
合っているかどうかは知らないけどな。
にしてもみんなはどこだ?
見た感じカプセルは全て開いている。
仮に冷凍保存説が正しかった場合。
全員俺よりも早く目覚めたということだ。
バラバラの時間に目が覚めたのか。
それとも俺のカプセルだけが不具合のせいで、指定された時間に開かなかったのか。
それはわからないが。
とても不安だ。
「というか、よく考えるとさ」
普通の日常において、冷凍保存をしないといけない状況なんてないよな?
地球に巨大な隕石が落ちたり。
地球にわけのわからない生物が侵略してきたり。
そんなイレギュラーな事態にならないと、こんな大勢の人を冷凍保存したりしないと思うんだけど。
まあそもそも隕石が落下してきたらカプセルごと潰されるか。
天井に視線を向ける。
傷ひとつない。
つまり隕石落下説は低いというわけだ。
「……あぁ。考えれば考えるほど、わけがわからなくなるな」
とにかくずっと頭が痛い。
頭のなかで除夜の鐘が鳴っているみたいだ。
起きたばっかりなのに、睡魔が襲ってきている。
だけどまだ寝ちゃだめだ。
床の上で裸で寝たら確実に体調不良が悪化する。
ただでさえコンディションは最悪なのに。