第百十八話
初めて人が帰ってきたのは、昼前のこと。
「おーい、朧月! お前が門番やってんだろ? 早く開けやがれ」
外からそんな声が聞こえてきた。
紅蓮だな。
この言葉遣いは紅蓮以外に考えられない。
「あらっ。紅蓮ちゃんが帰ってきたみたいね」
「そうですね」
「じゃ、一連の流れを見せるから、よく見ててね」
華瑞樹班長は扉の小さい穴から外を見る。
「どちら様ですか?」
「ウチだ。いちいち聞かなくてもわかるだろ」
「あら~、紅蓮ちゃんだったのね。かわいいから開けてあげる」
「うるせぇ」
華瑞樹班長は、鍵を開けた。
ガチャッという音が響く。
音からしてマジで頑丈そうだよな。
ゆっくりと扉を開いていく華瑞樹班長。
「ささっ。魔獣がやってこないうちに早く入ってね」
「言われなくてもわかってるっつーの」
外には紅蓮以外にも何人かいた。
全部で五人。
紅蓮とありすさんはわかるけど。
他三人の男性は知らない。
見たことがある程度だ。
他三人は、木のはしご? みたいな道具を引きずりながら中へと入ってくる。
それぞれ一匹ずつ魔獣を乗せているようだ。
狼。
軍隊鳥。
角が生えた猪。
おそらく紅蓮とありすさんは三人の護衛役だろう。
仮に魔獣が出てきたとして。
ありすさんが戦えるのかどうかはわからないけど。
初めて出会った時も逃げていたしな。
三人の男性は建物に向かって行く。
魔獣を引きずりながら、よくハキハキと歩けるな。
すごい体力だと思う。
紅蓮とありすさんはここで立ち止まる。
手伝いに行かないのだろうか。
あのはしごみたいなやつから魔獣を降ろさないといけないだろ。
「どうだ朧月、門番は暇だろ?」
紅蓮が笑いながら聞いてきた。
「そうだな、特にやることないし。時間が経つのが遅く感じる」
「ははっ。だろ? ウチが一番嫌いな仕事うちのひとつだぜ」
一番嫌いな仕事が複数あるのかよ。
「そっちはどうだ?」
「おう、順調だ。ありすは相変わらず一発も撃たないけどな。……お前マジでなんのために銃を持ってんだ?」
「……だって」
「おい、紅蓮! サボってないでついてこい」
男性の一人が振り向いて言った。
「わかってるって! 今行く」
そう言って歩き出す紅蓮。
ほんと誰に対してもタメ口だな。
それが紅蓮だけど。




