第百十七話
あっ、でもちょっと待てよ。
もしかすると。
「そういえば。初めて出会った時に、狼に追いかけられていたありすさんを俺が助けました」
狼をヘッドショットしたやつ。
あれはマジで緊張した。
今思えばよく命中したよな。
「確実にそれじゃん。そんな出会い方をしたら、そりゃちょっとは気になるよ」
確かに想像できなくはない。
でも。
「……そろそろ、本人がいない時に探るような真似は止めましょう。なんかありすさんに申し訳なくなってきました」
「ふふっ。良い子なんだね、君は」
「そんなことないですよ」
「そんなことあるよ」
「そんなことないです」
「次は私から質問いい?」
「あ、はい。何でもどうぞ」
「この組織内で一番気になっている子は誰?」
ま、ありすさんかな。
だけど言うつもりはない。
恥ずかしいし。
「今はまだいません」
「あー、嘘ついた」
なんでわかるんだよ。
「ついてないです」
「どうせありすちゃんでしょ?」
「いやぁ……」
合っているだけに否定しにくい。
「あの子かわいいもんね。あれでコミュニケーションが取れたらめちゃくちゃモテると思うなぁ」
「……」
「それとも紅蓮ちゃん?」
「絶対にないです。多分今後もないと思いますよ」
「ふふん。ありすちゃんの時と反応が全然違うね」
やばいミスった。
完全にやらかしたな。
「それは……その」
「ま、若い子の恋愛に干渉して邪魔したりする気はないから安心して」
「……はい」
でも実際のところどうなんだろう。
俺は確かにありすさんに好意を寄せている。
それは間違いない。
だけど……なんていうのかな。
未だに鈴を忘れられない自分がいる。
好きな人は誰かと聞かれて、真っ先に出てくる顔は幼馴染だ。
もういない。
それはわかっているのに。
全然頭から離れてくれない。
寝る前にありすさんの顔を思い浮かべようとすると。
すぐに鈴が出てくる。
上書きしようとしているみたいな。
「……」
はぁ。
悩みたくないから。
このことについてはあまり考えないようにしたい。
それから俺と華瑞樹班長は、雑談をしながら門番を続けていった。




