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第百十四話

 玄関前で待つこと三分ほど。

 

 階段の方向から華瑞樹班長がやってきた。

 彼女はこちらを見ながら微笑む。

 

「ふふっ。きちんと時間前集合できてるね」

「あ、はい」


 俺もきたばかりだけどな。

 

「準備はOKかな?」

「大丈夫です……あっ」


 ちょっと待って。

 ふいに思い出した。

 

「どうしたの?」

「えっと……急ぎではないんですけど、食堂で鞄と水筒を受け取ってなかったです」

「あー。じゃあ取ってきてもいいよ」

「いいんですか?」

「水筒がないと水分補給ができないし、私のを分けてあげるわけにもいかないでしょ?」


 そう言って笑う華瑞樹班長。


「まあ、そうですね。じゃあちょっと行ってきます」

「待ってても暇だし。私も一緒に行くよ」


 というわけで一緒に食堂へ移動した。

 机の上に、鞄と革の水筒がひとつずつ置かれている。

 

「……それにしても、頬と顎が青あざになってるけど、大丈夫?」


 机と机の間を歩きながら、そう聞いてくる華瑞樹班長。

 

「痛いですけど。我慢できないレベルではないので、問題ありません」

「へぇ、強いのね」

「いえ、そんなことないですよ」

「謙遜しなくてもいいのに。……でも、旋風班長も何考えているのかな? 普通新人相手にそんなことしないでしょ」

「これでも手加減してたみたいですけどね。……そもそも俺が模擬戦での勝ちを優先して旋風班長の攻撃を無視した感じですし」

「そっか。でもその判断ができるのは普通にすごいと思う」

「あ、ありがとうございます」


 そこで机の目の前に到着した。

 この黒い鞄。

 よく見るとこれにも【泡沫組】の刺繍が入ってある。

 腰に着けるタイプの鞄だろう。

 

「かっこいいですね」

「でしょ? 基本的にみんなコートの下で着用してるけど、別に使い方は自由だよ。ナイフとか保存食とか革の水筒とか、わりと小さい物ならいろいろと入れられるから」


 へぇ、なるほどな。

 

「じゃあ俺もコートの下に着けます」


 そう言って、コートのボタンを外した。

 ウエストの太さに合わせて鞄のベルトを調節していく。

 あまりきつく結びたくないから。

 ちょっと余裕があるくらいにしておこう。

 

 魔獣と戦う前とかだと、きつくしておいた方が邪魔にならないだろうけど。

 今日は門番だし。

 

 パチッという音を立てて、鞄を装着した。

 

「……」


 いや、こうしてみるとさ。

 黒い半袖シャツ。

 黒いコート。

 黒い長ズボン。

 黒い鞄。

 ついでに髪も黒色。

 

 真っ黒!!

 

 ここまでくるともう、まっくろくろすけやん。

 あの別名がすすわたりのやつ。

 

 それは置いといて。

 革の水筒を手に取る。

 

「あの……冷水器で水を入れていいですか」

「もちろんいいよ。そのための水筒だし。門番の作業はそんなに急ぎでもないから」

「すみません」


 その後水筒の中身を補充した俺は、華瑞樹班長と共に建物の外へと移動した。

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