第十一話
やがて紐を巻き終えると、ポケットからカロリーメイトの箱を取り出す。
なるべく取っておきたかったが、お腹が空いた。
今思えばりんごピオーネ以降何も食べてなかったしな。
少しして。
結局一箱の半分である二本を食べた。
超絶美味かった。
空腹は最大の調味料って最初に言ったの誰だよ。
その通りじゃねぇか。
初めて納得できたわ。
正直今までは、空腹よりも胡椒とかのほうがいいに決まってんだろ! とか思っていたけど。
環境に恵まれたガキの戯れ言でした。
爵位に表すなら。
空腹が公爵だとすれば、胡椒なんて男爵だ。
「もっと食べたいけど……我慢しよう」
今後食料が手に入る保証はない。
おそらく俺は果実以外の食料を手に入れることができないだろう。
魔獣を仕留めようとしたら、むしろこっちがやられそうだし。
魚も素手で捕まえるのは至難の業。
「はぁ……早く人里に下りないと」
これで残りの食料は、カロリーメイト二箱と二本。
本数だけで表すなら十本だ。
非常に心細い。
というか。
やっぱりカロリーメイトを食べたら喉が乾くな。
幸いペットボトルのなかには川の水がたくさん入っている。
ゆえに、もったいぶる必要はない。
どうせ飲み干しても明日また補充できるし。
「飲むか」
ポケットのなかからペットボトルを取り出して水を飲む。
「……ん?」
なんていうか。
今飲んでみて思ったけど。
川感があるな。
川を見つけた時は高揚感とかもあっておいしく感じた。
でも今、口に含んだ瞬間、川の水だなぁって思った。
風味がちょっと違う。
臭いというか……違和感がある?
「ないよりは何百倍もいいけど」
そうだ。
水の味で悩むなんて贅沢過ぎだろ。
360度植物に囲まれていた時、どれだけ不安だったか。
「人間とは欲深い生き物である。手に入ればその上を欲しがる」
はたしてそれでいいのだろうか。
いや、よくない。
だから今後一切、水の味について文句を言うのは止めよう。
「……あぁコーラ飲みてぇなぁ」
そう言いつつ、ペットボトルをポケットへとしまった。
あ、そういえばさ。
寝る前に筋トレをするとか言ってたけど……。
「完全に忘れてたな」
けどまあ、今日は仕方ないだろ。
もう暗いし。
紐でぐるぐる巻き状態だし。
というわけで筋トレは明日からにしよう。
目を閉じる。
体がものすごく重たく感じる。
今日はずっと動いていたからな。
これならすぐ眠れそうだ。
「アオォォォン」
どこからかそんな遠吠えが聞こえてきた。
同時に眠気がどこかへ吹き飛んでいった。
「おい、いい加減にしろよ」
せっかく人が気持ちよく眠りにつこうとしているのに。
怖くて目が覚めるんだよ。
静まれ、くそ狼。
ぶち殺すぞ。
どうせ木に登ることすらできない犬のくせに。
いっちょ前に偉そうな遠吠え上げやがって。
お~ん?
言われっぱなしでいいのか?
悔しかったらここまで登ってきてみやがれ、四足歩行。
「……もうやめとこう」
なんか本当に登ってきそうだ。
変なフラグが立っていないといいけど。
「立ってないよな?」
マジでやめてよ?
今狼が登ってきたら、俺すぐに逃げられないよ?
そのまま食べられちゃうよ?
いや、だめだ。
「自分を追い詰めるのはやめよう」
本当にもう寝るからな。
 




