第八十五話
難しい質問だな。
正直俺にもわからん。
「なんというか……数式を覚えたり知識を取り込むときに、その、どう言えばいいんだ? スポンジに水を垂らすみたいな。……その時にスポンジを握らないようにするっていうか。俺も何言ってるかよくわからないんだけど。そんな感じかな?」
「?」
首を傾げる大志。
無理もない。
俺ですら理解できていない。
でもこれ以外に表現する方法がないし。
「大志お前。今の理解できなかったのか? めちゃくちゃわかりやすかったぞ? 多分次回のテストでありすにすら勝てる自信があるぜ。朧月ありがとよ。これでようやく最下位から抜け出せそうだぜ」
紅蓮がそう言ってウインクした。
大志は首を横に振り、すぐに返答する。
「嘘つけ。お前の脳みそでわかるわけないだろ。見栄を張るな、見栄を」
「はぁ? お前も似たようなもんじゃねぇか」
「俺はお前よりかはできる」
「じゃあ今度のテストで勝負しようぜ。……負けた方はその日の晩飯抜きってのでどうだ?」
「晩飯抜き……って、そんな条件飲むわけねぇだろ。死ぬわ」
「いつも最下位のウチに勝てる自信がねぇのか?」
「いや、そういうわけじゃあ……」
「はぁー。あそこだけじゃなくて男としても小さい奴だな。てめぇ」
「わ、わかったよ! そこまで言うならやってやる。……だがそんなこと言って大丈夫なのか? 鎬が一番苦手な勉強での勝負だぞ?」
「おう、任せとけ。苦手な物を克服してこそ世界最強に近づくってもんだろ」
こいつは何を目指しているんだ?
「じゃあ俺だって負けねぇからな。……まあ、馬鹿同士頑張ってみようぜ」
「ははっ。馬鹿同士っつっても、それは大志だけだけどな」
「少なくともお前よりかはいい。……それよりも、今日はちょっと危険な任務になるかもしれないし、三人で無事に帰ってこようぜ」
三人?
大志と紅蓮とありすさんのことか。
「えっと、確か朝礼で狩り班が機械蜘蛛の討伐に行くって言ってたけど、三人もついて行くのか?」
そう尋ねると、紅蓮が頷いた。
「おう。今日は狩り班の手伝いをすることになったんだ」
「……」
あんな奴と戦うって……。
大丈夫なのか?
正直人間が太刀打ちできる気がしない。
「何心配そうな顔してんだよ。ウチが死ぬとでも思ってんのか?」
「まあ……俺は直接あいつを見てるから」
「安心しろ。ウチ一人でも倒してやるぜ。だからお前はのんびり勉強会でもしてればいいんだよ」
紅蓮がいつもより大きく見える。
本当に大丈夫な気がしてきた。
「気を付けてな」
「おう。任せとけ。ウチら三人がいたら敵なんていねぇ。そうだよな、大志とありす」
「……えっと、その」
「おう。俺も組織のために全力で戦ってくるぜ」
みんなの顔が頼もしく見えた。
同時に俺が小さいことを実感する。
呼ばれていないということは。
役に立たないと判断されているってことだろう。
俺も行きたかった。
だけど。
安全な場所にいられるという安心感があるのもまた事実。
そんな自分が嫌だ。
もっとみんなの役に立ちたい。
胸を張ってこの三人に並びたい。
みんな。
無事で帰ってこいよ。
待つことしかできないのが悔しいけど。
今一番大事なのは。
自分ができることを精いっぱいすること。
だから俺は勉強を頑張りつつ、組織の人たちの安全を願うことにしよう。




