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第七十五話

「おい、ありす。お前急に終わらせるなよ。まだ全然内容的にも盛り上がってなかったじゃねぇか」


 盛り上がらないのはお前のせいだろ。

 子供を手放すばかりしやがって。

 

 紅蓮はため息を吐いて続ける。

 

「はぁー、もうやめだ。……でも、それなりには楽しかったな」

「ならよかった。俺も結構楽しかったよ」


 それから少しの間、沈黙が続いた。

 

 体感で二分ほど経った頃。

 急にお腹が鳴った。

 小さくて短い音だったため、二人にはバレていないはず。

 にしてもお腹が空いてきたな。


「そういえば、そろそろ昼食の時間だよな? 食堂に行けばいいのか?」

「は? そんなものあるわけねぇだろ。ウチの組織は朝と夜の一日二食だ」


 紅蓮がそんなことを言った。


「えっ、そうなのか?」

「ああ。だからみんな朝にがっつり食べておくんだ。でないと一日もたないからな」


 マジか。

 昼ごはんがないのは結構きついな。

 今まではずっと一日三食が当たり前だったんだ。

 目覚めて二週間ほどは不規則な生活を送っていたけど。

 それだけで今までのリズムが崩れるはずはない。


 昼になったらお腹は空く。

 ……我慢できるといえばできるけど。

 割と辛い。

 焼き鳥とか。

 手羽先をがっつり食べたい。

 

 不思議なことに、朝食を食べなければ昼にお腹が空くことはない。

 だけど朝がっつり食べてしまうと、午後からものすごい空腹感に襲われるんだよな。

 これって俺だけかな?


 学校でもよく午前の最後の授業は、お腹を鳴らさないためにいろいろと工夫していたものだ。

 鳴ったら恥ずかしいからな。

 色々とネットで調べたりして頑張っていたんだよ。

 背筋を伸ばすとか。

 みぞおちを抑えるとか。

 最終的には、授業中にチョコチップ入りのスティックパンを食べていたっけ。

 見つかって先生に笑いながら注意されたのはいい思い出だ。

 他にもチューイングキャンディーとか、飴も食べていたけど。

 それらはバレたことないな。

 おそらくスティックパンが無謀だっただけだ。

 見つからずに一時間の間で一袋完食できる奴がいれば、ぜひ会ってみたいものだ。

 

「ふぁ……」


 あくびが出た。

 風や温度が眠気を誘ってくる。

 今なら数分あれば眠れそうだ。

 仕事中に寝るというのは罪悪感があるけど。

 ま、ちょっとくらいなら。


「眠れねぇし。そろそろ掃除に戻るか」


 そう言って紅蓮は貯水タンクの外へと出ていく。


「……」


 俺は眠たくなってきてたんだけど。

 もしそれを伝えたところで、昼寝を続けようという結論になるとは思えない。

 この三人の行動は、全て紅蓮の気分によって決まるのである。

 出会って間もないけど。

 そんな気がする。


 さてと。

 心を入れ替えていこう。

 別の階も掃除しないといけないし。

 大変だぞ。


 その後、俺たちは晩御飯の時間まで清掃活動に勤しんだ。

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