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第七十四話

 紅蓮が口を開く。

 

「次はウチでいいか。えっと、家の前に一人の赤ん坊が捨てられていたんだっけな。それじゃあ……。おじいさんとおばあさんは赤ん坊を拾い、しっかりと親のもとへ返しに行きました。どうやら隣の家の若夫婦がおすそ分けの玉ねぎと間違えて置いてしまっていたようです。……ほら、次はありすだ」


 どうすればそんな間違いをするんだよ。

 というか拾って育てろよ。

 本当の親を探すのは良いことだが。

 物語的に違うじゃん。

 

「……えっとね。おじいさんとおばあさんは、いいことをしたため……神様がご褒美として二人の目の前にクッキーの扉を出現させました。どうやら開けるとすごいところへ行けるみたいです」


 クッキーの扉って。

 さすがありすさん。

 かわいいな。

 

「ありすは本当に甘いものが好きだよな。クッキーの扉って」


 紅蓮がツッコんだ。

 次は俺の番か。

 さてと、どうしたものかな。

 せっかくだしファンタジーに寄せていくか。

 

「おじいさんとおばあさんの二人は、クッキーの扉を開けました。すると視界にはお菓子の国が広がります。ビスケットの地面。チョコレートの家。オレンジジュースの川。そして、ケーキのお城。二人はとりあえず遠くに見えるケーキのお城に向かって歩き出しました」


 続いて紅蓮が話していく。

 

「甘ったりぃなぁ。……おじいさんとおばあさんがお城に到着した瞬間、激しい地震が起こりました。そのせいでお菓子の世界が崩壊し、元の世界に戻されました」


 おい!

 せっかくいい世界観を作ったのに。

 ま、紅蓮らしいといえば紅蓮らしいが。

 

「……おじいさんとおばあさんは、家に戻りました。それから……えーっと。お腹が空いたのでご飯を食べました。……それから夜、布団に入って眠ろうとしたその時。突然ドアがノックされました」


 ありすさんが悩みつつも言った。

 ふむふむ。

 誰かが訪ねてきた感じか。

 もう一度赤ちゃんに出会う展開にしてやろう。

 

「おじいさんがドアを開けると、再び一人の赤ん坊が地面に置かれていました。周りには誰もいません。赤ん坊がドアをノックできるとは思えないので、きっと誰かがいたはずです」


 紅蓮は間髪入れずに繋げていく。

 

「夜中なのにも関わらず、おじいさんとおばあさんは赤ん坊を親のもとへ返しに行きました。今度の赤ん坊は二つ隣の夫婦の子どもでした。どうやらおすそ分けのにんじんと間違えて置いてしまったようです」


 そんなわけあるかっ!

 さっきと同じ展開じゃねぇか。

 

「……それで……良いことをしたおじいさんとおばあさんは、再び神様からのご褒美をもらえることになりました。今度は好きなお願いを叶えてもらえるそうです」


 好きなお願いか。

 叶えてもらえるお願いを無限にしてくれ!

 というのは物語的に面白くないし。

 あっ、良いのがあるぞ。

 今度は紅蓮に邪魔されないはずだ。

 

「二人は悩んだ末、自分たちの子どもが欲しいと望みました。実はおばあさんは体質的に若い頃から子供ができない体だったのです。神様はさっそく布に包まれた赤ん坊を授けてくれました。その赤ん坊はなぜか光り輝いています」


 紅蓮は一度「チッ」と舌打ちをし、

 

「おじいさんとおばあさんは、その子を仕方なく育てることにしました。十数年後。立派に育った子供は旅に出ることにしました。再び二人にのんびりとした日常が戻ってきました」


 お前は赤ん坊に何か恨みでもあるのか?

 全然展開が盛り上がらない。

 というか出だしに戻っている。

 ここからありすさんがどう始めるのだろう。

 

「……それからおじいさんとおばあさんは、幸せに過ごしました……」


 終わっちゃった!

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