第七十三話
片方の貯水タンクの下にはありすさんと紅蓮。
もう片方には俺が寝転がっている。
紅蓮の提案により、この組み合わせになった。
まあ誰の目から見ても妥当だろうけど。
紅蓮が言った理由がどうにも納得いかない。
俺みたいな野獣と一緒に寝たくないらしい。
別に男女で寝る場所を分けるのには文句ない。
だけど、俺が野獣だという意見は絶対におかしい。
俺は男子のなかでも大人しい方だと自負している。
【理性の化け物】
みたいな二つ名がついていてもおかしくないレベル。
あそこが大きくなったからと言って襲うわけではないしな。
あぁー欲を言えばの話だけど。
ありすさんの隣で寝転がりたかったなー。
「お~い、朧月。もう寝たか?」
紅蓮の声が聞こえてきた。
「いや、まだ起きている」
「あまり眠たくないから、眠くなるまでなんか面白い話でもしてくれ」
またそんな無茶ぶりを。
面白い話と言われても……。
急には思いつかねぇよ。
俺は芸能人みたいに、すべらない話を持っているわけでもないし。
トーク力があるわけでもない。
まあ適当に話していれば、そのうち紅蓮が話し始めるだろ。
「そういえば知ってるか?」
「いや、知らねぇ」
「まだ何も言ってないんだけど」
「お前が聞くことなんて大体想像がつく。で、何の話だ?」
結局俺に聞くのかよ。
想像がつくんじゃないのか?
「まだ何を話すか決まってない。えーっと、なんかいい話題ないかな……」
「なんだそりゃ。お前、なんでも普通以上にこなせるんじゃないのか?」
「ま、適当に場を繋げたりはできるけど、紅蓮を楽しませるレベルの会話は無理だな」
「なんでもいいから話せって。ウチが文句を言うはずねぇだろ?」
文句を言うビジョンしか浮かばないのはどうしてだろう。
「むかしむかしあるところに、おじいさんとおばあさんがいました」
「ほう。で、そいつらは何をしていたんだ? 山で芝刈りか? それとも川で洗濯か?」
俺が言おうとしていたことを先に潰すな!
お前さては桃太郎知ってるな。
なんか癪だし。
違う路線で行くか。
新しく話を作ってやるよ。
「おじいさんとおばあさんは毎日農作業をしてのんびり過ごしていました。そんなある日のことです。家の前に一人の赤ん坊が捨てられていました」
「そいつが鬼退治に行くのか? それとも亀に乗って海底のお城に行くのか?」
だから先読みするな。
「どっちにも行かねぇよ。……というか提案なんだけどさ。みんなで順番に話をつなげていってみないか? どうせ暇だし、リレーみたいな感じでさ」
我ながらいい提案。
すごく面白そうだ。
「おぉ、朧月にしては面白そうなこと言うじゃねぇか。乗った! ありすももちろんいいだろ?」
「……う、うん。……けど、できるかな?」
「別に変な物語でも構わないって。どうせ朧月の展開の方がおかしくなるだろうし」
「……」
おい。
聞き捨てならないな。
俺は昔から想像力に長けているんだぞ。




