第七十一話
そう言うわけだから。
鬼ごっこに集中するとしましょう。
せっかくやるんだ。
楽しんで、なおかつ勝利する。
それが俺の美学だ。
あれ?
そう言えばありすさんってどこに行ったんだ?
考え事に集中しすぎて見失ったな。
「……朧月。そんな所に隠れてんじゃねぇよ」
紅蓮がタンクの下に入ってきた。
転がって近づいてくる。
まずい。
逃げろ。
反対方向へ転がり、外へと出た。
どうしよう。
別の場所に逃げるか。
いや、走ったところで逃げる場所はない。
急いでもうひとつのタンクの下に入る。
これが最善だ。
再び転がって奥へと進む。
なんかこうしていると。
おむすびころりんみたいだな。
うん、よくわからないけど。
「お前、ちまちまと腹立つなぁ」
当然ながら追いかけてくる紅蓮。
「戦略だと言ってくれ」
「あほか! ただの逃げじゃねぇか」
「戦略的撤退だ」
「ムカつく。……もし捕まえたらこのイライラをぶつけるから覚えてろよ」
うわぁ。
絶対掴まりたくねぇ。
再び外へと出た。
素早く辺りを見渡すが、ありすさんの姿はない。
マジでどこに行ったんだ?
下に落ちたんじゃないだろうな。
タンクの周りを走り、最初に入っていた方へと潜る。
困ったな。
ありすさんがいないんじゃ、標的がずっと俺になる。
「おいてめぇ。男らしくしろってんだ」
声のした方を見てみると、紅蓮の足が視界に入ってくる。
どうやら潜って追いかけてくる気はないらしい。
「チッ、仕方ない。朧月は面倒くせぇから、ありすの方にするか」
そう言って紅蓮は別の方に向かって走り出す。
よし。
これで一安心だな。
だけど一応紅蓮の足を目で追っておくか。
ありすさんを探すと見せかけて、俺の方にくるかもしれないし。
紅蓮は貯水タンクの周りを移動している。
なるほど。
これ、反対側からくるパターンじゃね?
絶対そうだ。
俺は騙されないからな。
仮に違ったとしても。
警戒するに越したことはない。
とその時、
──突然紅蓮の足が見えなくなった。
「……は?」
なんでだ?
突然消えたんだけど。




