第八話
辺りがオレンジ色に染まっている。
もう夕暮れだ。
あれからかなり歩いたと思う。
ペットボトルの水はもうすでに飲み切ってしまった。
手に持っていた果実も、大分前に出くわした狼を足止めするのに使った。
食料は残りカロリーメイト三箱のみ。
「腹が減ったけど、カロリーメイトを口にしたら喉が渇きそうだし」
せめてもう一度りんごピオーネの木があればいいのだが。
あれ以降全く見ていない。
それどころか、果実のなっている植物が一切ないのだ。
毒がありそうな見た目の草や、普通の木など。
一番割合が多いのは、わけのわからない形をした植物だ。
牙の生えている赤い花を見つけた時はびっくりしたな。
いつ噛み付かれてもおかしくないような見た目だった。
動く様子はなかったけど。
それはともかく。
俺は今どの辺を歩いているのだろうか。
全く見当がつかない。
見渡す限り植物。
右も左もわからない。
あと三十分もしないうちに日が暮れるはずだ。
「このままじゃまずいな」
夜になったら自分の命を守る自信がない。
ただでさえ危ういというのに。
正直、今狼に出くわしたら生き残れる確率の方が低い。
もうりんごピオーネはないのだから。
「あぁ……りんごピオーネが恋しい」
まさか手元に水分補給する手段がないと、こんなに不安だとは。
冷静になろうとはしているが、いろいろと心配で仕方ない。
このまま水を見つけられなければ死んでしまう。
幸いさっきペットボトルの水を飲み切ったばかりのため、まだ喉は乾いていない。
だがそれも時間の問題だ。
「俺、このまま死んだりしないよな…………ん?」
なんだ?
今、水の音が聞こえたような。
どこからだ?
立ち止まって耳を澄ませる。
「……右方向からだ」
確かに聞こえる。
川の流れのような音。
「ふぅ、助かった」
思わず安堵の息を漏らした。
いや、まだ安心はできないか。
幻聴の可能性もある。
あまり期待しないようにしよう。
川だと思って、違ったらショックだ。
もしかするとその場で諦めてしまうかもしれない。
俺は音がする方に向かって走り出す。
いきなり木の根っこに躓きかけたが、気にならない。
一刻も早く川をこの目で見たい。
少し進むと、突然景色が晴れた。
視界に入ってきたのは、透明な水が流れている細い川。
小さい魚たちが泳いでいる。
川の周りには砂利がたくさんあり、植物はほぼ生えていない。
「よ……よかった」
助かった。
これで少なくとも喉の渇きで苦しむことはなくなった。
すぐさま川の側に移動し、空のペットボトルに水を補給する。
その後、川に口を近づけて納得するまで飲んだ。
今まで節約してチビチビ飲んでいたため、思いっきり飲めるのが嬉しい。
「水ってこんなにおいしかったんだ」
ペットボトルをちゃんとズボンのポケットに入れ、立ち上がる。
川は……結構続いているみたいだな。
先が見えない。
とりあえずこの川の近くにいれば方向に困ることはない。
これからは川の流れに沿って下っていくことにしよう。
よし、生存の目処が立ってきた。
今まで何時間も植物に囲まれていたため。
本当に不安だった。
途中何度か死を覚悟したぞ。
「何はともあれ、水については解決した」
進む方向についても大丈夫だ。
だが、最大の問題が残っている。
ここは狼みたいな危ないやつが徘徊している森のなかということ。
いつ襲われてもおかしくはない。
そんな場所でさ。
俺、どこで寝ればいいんだ?




