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第六十七話

「あぁ、退屈だな。……おい、なんか質問とかねぇのか? 答えられる範囲でなら教えてやるが」

 

 紅蓮が言った。

 疑問に思っていることはたくさんある。

 そうだな。

 この機会に聞いておくとしよう。

 こんな有意義な時間を過ごせて、更に疑問まで解決してもらえるとは。

 もしやここは天国なのでは?

 

「そうだな……」


 ちょっと待てよ。

 何を聞こうか。

 疑問があるとは言ってもそうすぐには出てこない。

 多分頭の奥底にはあるんだろうけど。

 言われてすぐ取り出せないんだよな。

 あっ、そうそう。

 あれを聞こう。

 

「この世界にきて、機械の蜘蛛だけじゃなくて機械のライオンとかも見かけたんだけど……あいつらって何者なんだ? 生き物、じゃないよな?」

「いいや、生き物だぜ」

「えっ? でもあんな体で……」

「詳しくは知らねぇが、ウチの組織でも何度か機械の魔獣を仕留めて解剖したことがあるらしいんだ。……その結果、ちゃんと心臓とか肝臓みたいな臓器があったんだとよ」

「っ!?」


 マジかよ。

 

「ま、あいつらは危険だけど、その分倒せたら未知の機械や技術が手に入る可能性があるからな。なるべく倒すようにはしているんだ。今回の蜘蛛についても、ただ脅威になるからってだけじゃなく、資源を増やすって意図もあるんだろうな」

「なるほど。……それにしても、機械の魔獣なんて百年前じゃ聞いたことがないぞ?」

「そりゃそうだろ。赤い目の狼やカンガルーみたいな魔獣と同様、惑星同士がぶつかったあと、向こうの星からやってきやがったらしいし」

「ぶつかったのは惑星エリスって言ったっけ? つまりその星にわけのわからない生物たちが生息していたってことか」

「だろうな。……ったく、宇宙って不思議だよな」

「ああ。そうだな」

「一度は行ってみたいぜ。で、月まで泳いでいくんだ」


 子供か!

 

「絶対死ぬだろ。宇宙空間では呼吸ができないし」

「わかってるよ。でもウチなら何とかなる」

「ならねぇよ」

「なんだてめぇ。夢のねぇ奴だな。正論ばっかり言ってると嫌われるぞ? 別に何も失うわけじゃないんだし、夢を語るくらい構わないだろ」

「まあ、それもそうだな」

「で、朧月には絶対不可能だけどやってみたいこととかないのか?」

「できないけどやりたいこと……か」


 一番最初に浮かぶのは、鈴と一緒に過ごすこと。

 だけどそれは言わないことにする。

 空気が重くなるし。

 何よりどうやっても叶わないんだ。

 

 紅蓮の宇宙空間を泳ぐという夢は、宇宙服さえ着れば可能だ。

 一応実現はできる。

 

 でも死んだ人は戻らない。

 例えどんなに願ったとしても。

 それがこの世の摂理だから。

 

 悲しい。

 辛い。

 昨日今日で振り切れるわけがない。

 だけど、もう思い出して泣いたりしない。

 こんな世界で生きていく以上、別れには慣れないといけないから。


 だから俺は、わざと笑顔を浮かべる。


「チョコレートの家に住むこと……かな」


 すると紅蓮が眉を顰めた。

 

「は? アホか」

「なんだと?」

「お前チョコレートの家に住みたいって、温厚育ちのお嬢様か! 頭のなかにチョコレートのお花が咲いているんじゃねぇのか? そんなしょうもないこと考える暇があるならしっかりと現実を見やがれってんだ。夢は見るだけ無駄だ。……ここはそういう世界なんだよ」


 何言ってんだこいつ。

 

「お前が言えって言ったんだろ」

「はぁ? そんなこと言った覚えはねぇな。……いや~それにしてもびっくりしたぜ。掃除中にいきなりチョコレートの家に住みたいって……あはは! 馬鹿じゃねぇのか! お前」

「くそ、てめぇ……」


 紅蓮を睨みつつ、ありすさんの方を一瞥してみると。

 彼女は後ろを向いて体を震わせていた。

 笑いを堪えているようだ。

 

「よっ! チョコレートくん。扉の蝶番とか細かい部品もチョコで作るのか?」

「うるせぇ。紅蓮がやってみたいことを言えって言ったんだろ」

「お前、予想以上に面白いな、チョコレートくん。……いつか夢が叶ってもし万が一完成したらウチとありすも招待してくれ……って、ありすお前、こっそり笑ってんじゃねぇか! なに後ろ向いて笑い堪えてんだ」


 どうやら紅蓮も見つけたらしい。

 

「……ち、ちが」

「違わねぇな。……なんだその震えた声」

「……違うもん」

「あはは! ありすにも笑われてやがる! 恥ずかしいやつだな、チョコレートくん」


 顔から火が出そうだ。

 火炎放射は無理かもしれないけど。

【ひのこ】くらいならできるかも。

 

「その呼び方やめてくれ」

「おう、承知した。チョコレートくん」

「全然承知してねぇ」

「いいか? チョコレートくん。一応手遅れにならないうちに教えておいてやるが、チョコで作ったベッドで寝ると、眠っている間に体温で溶けて大変なことになるから注意しろよ?」

「そんなこと言われなくてもわかるわ! そもそも作る気なんてねぇんだよ」

「まあまあ……。女子二人に笑われたからって諦めることはねぇ。夢なんて人それぞれなんだからよ」


 紅蓮は俺の肩に手を乗せてきた。

 目を閉じて、頬を釣り上げてやがる。

 

「その顔やめろ」

「さぁ、早く現実に帰ってきて掃除を再開しようぜ、チョコレートくん」

「うるせぇ」

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