第六十五話
「俺の口からは、引き分け以外の言葉は出てこないからな? マジで同時だったし」
「ふざけんな。ウチがこのありすと同レベルだと? お前目が腐ってんのか?」
「というか良い勝負だったってことで終わればいいんじゃないのか? 今後しのぎを削りあってお互いがお互いを超えようと強くなっていけばいいだろ。……紅蓮鎬だけに」
「……ぷっ」
ありすさんが吹いた。
「あははっ! …………おい、朧月てめぇ。何面白くねぇこと言ってドヤ顔決めてやがんだ、コラ」
「いや、お前。今笑ってただろ」
「ありすの笑った顔が面白かっただけで、別にお前のギャグがめちゃくちゃ上手かったわけじゃねぇ。勘違いすんな」
まあ別に……。
上手に言おうと思って言ったわけではないけどな。
なんか急に思いついただけだ。
「……とにかく。試合は引き分けだ」
紅蓮はため息を吐く。
「はぁー。もういいや。お前のしょうもないギャグのせいで力が抜けた。……というわけでありす。お互いの勝利報酬を叶えるってことで手を打たねぇか?」
「……うん」
ありすさんは頷いた。
あれ?
否定するかと思ったけど。
案外すぐに納得したな。
なんでだ?
「じゃあウチが言ったのは、朧月を例の場所に案内する際、ありすもついてくること。……お前はどうするんだ? ウチにひとつ願いを叶えてもらえるぞ? こんなチャンス滅多にないからよく考えるんだな。ほら、早く言えよ」
どっちだよ!
「鎬にお願いを取り消してもらう」
ありすさんが即答した。
あぁ、なるほど。
その手があったか。
この子頭いいな。
「は? おいおい。それはなしだろ。ちゃんとこいって」
「見つかったら怒られるもん」
「関係ねぇよ。そもそも罪くらいならウチが全部庇ってやるから」
「……」
「とにかくそのお願いはなしだ。さすがに卑怯すぎるだろ」
ありすさんは静かにため息を吐き、
「……特にない」
「おい。殺すぞてめぇ。まるでウチが何の役にも立たないやつみたいになるだろ」
「……思いつかない」
「いいから何か言えってんだ。なんでも叶えてやるから」
ならさっきのお願いを聞いてやれよ。
「じゃあ……これからも仲良くして?」
ありすさんが上目遣いで言った。
うわっ。
かわいい。
かわいすぎる。
なにこの子……。
天使ですか?
紅蓮は視線を逸らして頭を掻きつつ、
「お……おう。……任しとけ」
照れてんじゃねぇか。
いつもの強気と減らず口はどこに行ったんだよ。
どこかに旅行中か?
「……私のお願いはそれだけ」
「そ、そんなの当たり前だろ。言われずとも仲良くしてやるよ」
「……」
「なぁ、ありす。もし万が一総長に見つかったとしても、その時はウチに任せとけって。全部の罪をウチが背負ってやるから」
「……うん」
「さて、朧月とありす! 会議室が空くまでしっかりと掃除しようぜ」
「お、おう」
「……うん」




