第七話
真っすぐ全力で走り続けること二分ほどだろうか。
実際は一分くらいかもしれない。
死に物狂いで足を動かしていたから、正確な時間なんて覚えていない。
まあ間をとって一分半ということにしておこう。
一分半ほど走った辺りでしんどくなってきたため、スピードを落とす。
「はぁ、はぁ」
前へと進みながらも後ろを振り向く。
狼がきている様子はない。
というか。
あの果物を食べさせて以降、一度も声を聞いていない。
まさか本当においしさに悶絶したわけではないだろう。
となると狼の苦手な成分が入っていたとか?
「はぁ、はぁ」
いやそれはない。
奴はじっと咀嚼をしていた。
もし仮に苦手なのであれば、すぐに吐き出すはず。
ということはだ。
狼はりんごピオーネがめちゃくちゃ大好物だった。
やつはおそらく自力では取れない。
つまり滅多に食べることができない高級品というわけだ。
食べられるとしても落ちてきた粗悪品だけ。
「はぁ、はぁ」
とにかく少し休むか。
全力疾走は疲れる。
俺は昔からなんでも中級者よりも上のレベルまでこなせるタイプの人間だが。
体力にはあまり自信がない。
おそらく普段から運動をしないからだろう。
だけど。
それでも体育ではいつもかなりいい成績だった。
どの種目でも最初から中級者と上級者の間くらい。
よく幼馴染の鈴から頑張ればプロになれるんじゃないの? って言われてたっけ。
運動は嫌いだから絶対努力なんてしないけどな。
「はぁ、はぁ」
その場に立ち止まり、座り込む。
「はぁ……しんどっ」
なんにせよ。
俺はりんごピオーネに助けられたわけだ。
あとふたつ持っているわけだが。
一応食べずに持っておこう。
もう一度狼に襲われたら助かる可能性がある。
ペットボトルを取り出し、一口飲んだ。
こんなことなら普段からもっと運動しておくべきだったな。
せっかく才能はあるのに。
けど俺はゲームをしたりアニメを見るのが好きなんだよ。
こんな世界にきた以上、もうできないだろうけど。
ペットボトルをポケットのなかにしまう。
これを期にちょっと筋トレを始めてみるかな。
毎日寝る前に少しずつやるって感じ。
良い案だ。
「さて、追手がこないうちにもう行こう」
まだしんどいけど。
あいつが再びりんごピオーネを求めて追いかけてこないとも限らない。
立ち上がり真っすぐ歩き出した。
待てよ。
りんごピオーネをもう一度取りに帰って、たくさん所持していた方が安全だろうか?
いや戻ったら狼がいる。
そしてあいつの近くで採集をするのは得策とは言えない。
確かにさっき、果物を食べている間はおとなしくなっていた。
だけど次もそうとは限らない。
果物を無視して襲ってくる可能性だってゼロじゃない。
だから進むのが正解だ。
一応まだ残っているわけだし。
 




