第五十四話
と、その瞬間。
紅蓮が胸を強く押し当ててきた。
俺の横腹に当たっている。
マジで何がしたんだよ。
やめろって。
変な気分になってくるだろ。
紅蓮は更に。
「ふぅ~」
耳に息を吹きかけてきた。
「うひゃっ……おい、紅蓮! いい加減にしろよ」
ゾクッてしたわ。
て、やばい。
あそこが元気になった。
俺は両手でテントを隠す。
紅蓮にバレたらめんどい。
なんとしてでも隠ぺいを……。
「あはは! こいつ、勃ちやがった! 実験成功だぜ」
「う、うるせぇ。どんな実験だよ!」
というかそのために、なんかいろいろとやってたのか。
くだらねぇ。
「それじゃあ満足したし、ウチはそろそろ帰るぜ。こんなやつと一緒にいたら身の危険を感じるからな。安心しろ、ありすにはお前のあそこの事情についてだけ話してやるから」
「マジでやめろ」
「ははっ、楽しいなぁ」
そう言って紅蓮はこの部屋をあとにした。
くそ、あいつ。
本当に言うんじゃないだろうな。
「はぁ……」
一気に疲れた。
ただでさえ疲労しているんだから。
もう体力を使わせないでほしい。
ったく。
なんで勃つんだよ。
俺は興奮してなんかないからな。
たまにこういう時があるんだよ。
高校時代もよく元気になってたよな。
主に化学と数学の授業中に。
あれどうしてなんだろう。
体育で女子の体操着姿を見ても何ともないのに。
全く関係ない数学の時に勃ちやがる。
俺……数字に興奮している説。
そんなの嫌だぞ。
というかさすがにそれはないと思う。
まあ結局何が言いたいかというと。
興奮=勃つ、という考えは違う!
現実はもっと複雑で難しい。
それだけ言っておきたかった。
というか、紅蓮に言いたかった。
もういないけど。
マジであいつ。
さっさと帰りやがって。
本当に何しにきたんだよ。
……りんごでも食べるか。
あれだけお腹いっぱい食べたのに、小腹が空いてきた。
お風呂に入ったからだろうか。
無性に果実が欲しい。
机の上にはりんごが11個ある。
どうせ食べないと腐るし。
遠慮することはない。
立ち上がって机の前に移動。
早速手に取って、一口齧る。
口のなかに果汁が広がった。
この時代にきて一番食べ慣れた味。
こうして食べるとあまりおいしくはないな。
もう体が飽きてしまっている。
欲しがるくせにいざ食べたら拒否するなよ。
まあもったいないし。
無理してでも全部食べるけどさ。




