第六話
「はぁ」
ため息を吐きつつ、踵を返して再び来た道を戻る。
戻るというか進むという方が正しいけどな。
俺は進んで行く。
たとえ木の側、石の上、草のなか、森のなか。
土の上、雲の下、あの子のスカートのなか。
きゃ~!
なかなかなかなか。
なかなかなかなか。
大変だけど。
かならず進み続けるぜ!
白い建物に、さよならバイバイ。
俺は一人で旅に出る。
三分ほど歩くと、再びりんごピオーネの木が見えてきた。
もう立ち止まって食べるのは止めよう。
食べるのに熱中しすぎて方向がわからなくなるかもしれないからな。
俺は果実を三つほど手に取り、そのまま真っすぐ歩き続ける。
正直言って、真っすぐ進めているのかどうかはわからないが。
まあ再びこの木に到達できたり、さっきも無事に白い建物に帰れたことから、俺の方向感覚はかなり正確だと思われる。
まさかこんな才能があったとは。
知らなかった。
現代日本だったら絶対役に立たない能力だろうな。
りんごピオーネをひとつ齧る。
「にしても、うめぇ」
鞄でもあればパンパンに詰めていくんだけど。
「鞄か。……欲しいなぁ」
葉っぱとかで作れないかな?
できそうな気もするけど時間かかりそうだ。
ここで立ち止まっていたらまた方向がわからなくなりそうだし。
無事に水場を見つけることができたら試してみるか。
とその時。
「ガルルゥ」
背筋が凍った。
聞き覚えのある声。
後ろを振り返ってみると、奴がいた。
黒っぽい茶色の体毛。
赤の双眼。
草と草の間で立ち止まり、じっとこちらを睨んできている。
「あの~、お帰り頂いてもいいですか?」
「ガルゥ!!」
狼は俺の方に向かって走り出した。
話が通じるわけねぇよな。
知ってた。
すぐに走って逃げる。
くそっ、なんなんだよ。
俺はおいしくねぇぞ。
自慢しているように聞こえるかもしれないが。
体脂肪率それなりに低いんだからな?
だから脂肪なんてほとんどないぞ。
俺は肉のアブラ嫌いだし。
そっちの方が好みだけどな。
て、今はそんなことどうでもいい。
「グルルゥ」
マジかよ。
音からして、距離が近くなっている。
つまりもうすぐで追い付かれる。
追い付かれるということは、噛みつかれる。
噛みつかれた後は……死?
そりゃまずいだろ。
俺の肉と同じくらい不味いって。
絶対りんごピオーネの方がおいしいからな。
試しに食べてみろよ!
走りながらも後ろを見る。
ほぼ真後ろにいた。
「ガルルゥ!!」
「うわっ」
噛み付こうとしてきたため、口元に向かって食べかけのりんごピオーネを放り投げた。
見事に命中。
綺麗に口のなかへ入った。
「グルル……」
「どうだおいしいだろ? だから俺よりもこの果実を標的に……あれ?」
なんか狼が立ち止まったんだけど。
その場でじっと咀嚼をしている。
「?」
よくわからないけどチャンスだ。
今のうちに距離を稼ぐとしよう。
 




