第五話
赤色で丸い形をしている果実。
木が小さいため、背伸びをすれば届く距離にある。
「木は小さいけど……この木の葉っぱ大きいな」
一枚一枚がしっかりしている。
そんなことより今は果実だな。
「よいしょ」
ひとつ手に取ってじっと見つめる。
見た感じ怪しそうには見えない。
サイズはりんごと同じ。
重さもりんごと同じ。
見た目もりんごと同じ。
これ……りんごじゃね?
念のため、ちょっとだけ齧ることにする。
ガブッと食べて毒で死んだら嫌だからな。
というわけで小さく一口。
中身もりんごと同じく薄い黄色のようだ。
ふむ。
「……うまっ!?」
めちゃくちゃ美味いぞ。
だけどなんというか。
とてつもない違和感。
味がぶどう。
これ、ピオーネじゃないか?
もう一口。
「……やっぱりピオーネにものすごく似ている」
うめぇ。
更にもう一口。
これ止まらなくなるな。
すごく瑞々しい。
りんごの食感でピオーネの味なのは違和感あるけど。
俺は好きだ。
もう一口。
シャリシャリ感がたまらない。
「……至高のひとときだなぁ」
その後、気づいたら全部食べ終わっていた。
口のなかに残った一粒の種を地面へと吐き捨てる。
「口の痺れとかはないし、安全な果物らしいな」
もうひとつ食べるか。
水分補給にもなって一石二鳥。
お腹いっぱいになった。
結局幾つ食べたか覚えていない。
時間差で効果の出る毒が含まれていた場合、俺は死ぬんだろうなぁと思いつつも、手が止まらなかった。
後悔、後悔。
次からは気を付けよう。
「さてと、先に進むか」
種を舐めながら歩き出す。
て、あれ?
俺さっきまでどっちへ進んでたっけ?
完全に方向がわからなくなった。
えぇっと。
あの紫色の木は見覚えがあるな。
つまりあっちが進んでいた方向。
いやでも、別方向にも同じような木があるんだよな。
となると二択だ。
もっと何か手がかりはないか?
思い出せ、俺。
りんごピオーネの木を見つけた時……あの岩があったような気がする。
よし決めたぞ。
悩んだら泥沼にハマりそうだし。
あまり考えないようにしよう。
「レッツゴー!」
歩くことおよそ三分。
目の前に人工物が見えてきた。
「やった、早くも森から出られ…………ん?」
あのさ。
めちゃくちゃ見覚えあるんだけど。
傷ひとつない白い建物。
「俺が目覚めた建物だよな……」
戻ってきてしまった。
マジか。
土地勘ある方だと思っていたのに。
まさか間違えるとは。
要するに、ふりだしである。
「また最初からかよ」




