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忘却の殺人鬼

作者: 坂道みどり

2020年1月13日、この日、僕の計画は完了する。

今から5年前の2015年、僕はまだ中学生だった。学校の中ではあまり目立たない方で、面倒事を嫌ってた僕は常に1人でいた。中学に入ってからその時まで僕はいじめられることも無く、家に帰れば両親と妹がそこにはいた。

これ以上のことは求めない。そう思いながら家族といる時間を僕は噛み締めるように過ごした。

だけど、ある日僕はいじめの標的になった。身体中に傷を作りながら家族にはそれを見せぬよう家の中では過ごし、学校に行けばまた傷を作る毎日。何がきっかけでこんなことになったのだろう。そんなことを授業中考えながら、しかし、いじめに抗えず、ただ耐えるのみ。いつからか、この時間は永遠に続くんじゃないかと錯覚しながらも、耐え続けたある日、僕は自分の限界を超えてしまった。

気がつくとそこは病室のベッド。無機質な部屋と病院特有の薬の匂い。僕は気を失ってしまったようだ。横には僕の母親と妹がいる。

しかし、その時、僕が言った言葉は、「誰ですか?」

当時の僕はいじめに耐え続けた結果自分のキャパを超え記憶を消したらしい、辛いなどという感情を忘れるため脳が勝手に再起動を起こした。医師からの診断は脳の軽いショックが原因であるとされた。過去のことを思い出すには同じ体験をするのが効果的らしいが、僕の身体を見る限り同じことは繰り返せない。母親はまた思い出を作れば良いと言って、過去のことを無理に思い出させることを止めた。

翌日から、僕の人生は180度変わってしまった。

朝、目が覚めると、僕は自分の部屋を見渡し、部屋を出て階段を降りる。

両親らしき人と妹らしき人がそこにはいて、僕の第一声は「誰ですか?」であった。

この日を境に僕は自分の一日の出来事を次の日には忘れてしまう障害が残った。

母が言ってくれたあの言葉さえ、ノートに書き留めなければ、今ここでは書けなかった。その時は優しい気持ちでいたであろう僕はもうその時の温かさを知れない。忘れたくなかったもの、忘れちゃだめだったもの。それら全てを僕は手放してしまった。

こんなに、自分の人生を虚しく思ったのは初めてで、今日、この日。僕は計画を立てた。

それは自分の記憶を取り戻すための計画である。目には目を、歯には歯を、人生には人生を。

2020年1月13日。この日は僕の成人式。


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― 新着の感想 ―
[良い点] つらかったんでしょうね。
2019/08/29 20:58 退会済み
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