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ゼロ:怪物の後日戦譚―Zero:Monster of initiative wars―  作者: 本城ユイト
一章 始まりの出会い
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No.5 深緑の風見亭①

 とても平和な昼下がりの王都トライス。

 だが、その裏では魔術師たちが街中に放たれ、不用意に煽った結果追われる身となったクリストたち《執行部(コード・ゼロ)》の面々は戦々恐々――


「はい、では今後の行動方針を決めたいと思いま〜す!俺的にはお腹へったんでご飯食べたいんですけど〜」


「「意義な〜し!」」


「じゃ、満場一致で決定ということで。――よっしお前ら、どこに何食べに行く〜?」


「やっぱいつもの所でいいんじゃないの?『深緑(しんりょく)風見亭(かざみてい)』で」


「ま、あの超女好きフレッドのことだ。ソラミアちゃんを連れてったらアブねぇ気がすっけどな……」


「はは、言えてる。ま、その時はその時、ルーナが容赦なくボコボコにすんだろ」


 ――などしていなかった。戦々恐々などクソ喰らえとばかりに、どこまでもマイペースを貫いていく。しかし、


「えっと……これ、どういう状況なの……?」


 ただ一人、ソラミアだけを置き去りにして。

 多数決(数の暴力)という強引かつ強制的な世界の真理に則り、それはもう、マイペースに。



********************



 王都トライス西区の一角。

 中心部にある王城からほど近いとある路地を奥へと入った場所に、その店は存在した。


 表に『深緑の風見亭』と書かれた看板を下げたその店は、知る人ぞ知る隠れた名店――などではなく。ごくごく普通の、どこにでもあるような酒場である。


 当然、酒場である『深緑の風見亭』の営業時間は夜中な訳で。さらに、昼下がりでもある現在は、表の扉のノブに『閉店中』とかかれた板がぶら下がっている訳で。


 そんな開店前の店内では、カウンターになっている奥で赤毛赤目に無精髭、三十代前半といった見た目のマスター――フレッド・タリアスがグラスを磨いていた。


 穏やかな街の喧騒が窓越しに入ってくる中、フレッドはその平和な音に耳を傾けて――


「よーっす!毎度おなじみクリスト君のご来店だ――ぜうっ!?」


「テメェこの野郎、表の『閉店中』の文字が目に入らなかったのか!?」


 気づけば、突如として扉の板をガン無視して乱入してきたバカ野郎(クリスト)の顔面目掛けて、持っていたグラスを投擲していた。

 

 緩やかなカーブを描いて飛んだグラスの直撃を受け、ゴンッ!と派手な音を立てて仰け反ったクリストは、しかし何事も無かったかのように無傷で跳ね起きる。


「チッ、せめてキズの一つでも負えよ……!」


「悪いね〜!なにせ俺、意外と不死身なもので!」


「そうか。そういやお前、それが口癖だったな。だったら刃物頭から生やしても無事だなぁ?」


 思わず殴りたくなるような笑みを浮かべてウインクするクリストに、さて次の獲物はフォークか、それともナイフか……と本気で思案するフレッド。


 そして、その手を止めずにフレッドは断りもなく店のカウンター席に座るクリストに訊ねる。


「んで、今日は何の用なんだ?言っとくがメシを出せっていうのは無しだかんな」


「いや、それは流石に言わねぇ……ことはねぇけど。出してくれたら嬉しいけど!……ちょいと救急箱を貸してほしいんだわ。手当したくてね」


「ハッ、やなこった!だいたいテメェの口癖な『真偽不明の不死身』はどうしたよ。不死身なら救急箱いらねぇよな?」


 帰った帰った、とすげなくあしらうフレッドに、クリストは「ちえっ」と舌打ちし、席を立つ。そして、芝居がかった仕草で額に手を当てる。


「嗚呼、嘆かわしい!あれほどまでに『美少女好き』を広言するフレッドが、まさか天下の美少女ソラミアちゃんに手当てもさせる気がないとは!これほどまでに落ちぶれて――」


「――ふっ、美少女のケガなど世界の損失、どうかいくらでも使ってくれ。足りなくなったら即座に買ってくる、金に糸目はつけずにな」


 まさに神速。つい先ほどまでカウンターに立っていたフレッドは、いつの間にか救急箱やら包帯やらを抱えてクリストの目の前に立っていた。


 自他共に認める大の女好きであるフレッドは、「美少女のためなら世界の一つや二つ敵に回せる」と豪語する強者である。つまり、美少女のためなら何でもする男なのだった。


「よし、じゃあ遠慮なく使わせてもらうな。ルーナ!」


「ん、なになに!?団長アタシのこと呼んだ?」


「ああ、お前は救急箱(コレ)を持ってソラミアを手当してやってくれ。多分俺やフレッドがやるより同性のルーナの方が適任だろ?」


「まあそうだね。フレッド、どこか部屋を借りれる?」


「そうだな……二階の突き当りに宿泊用の部屋があるから、そこなら好きに使ってくれてかまわねぇぜ」


「そう、ありがと!――じゃあソラミア、行こっか?」


 片足を引きずるソラミアに肩を貸し、店の奥にある階段へと消えていくルーナ。それを見送ったクリストは、未だ店の前で立っているユグドラシルへと声をかける。


「ああ、ユグド。お前はひとっ走りお使いを頼む。ちょいと依頼主のとこまで行って現状を報告してくれ」


「はぁ?なんでオレが行くんだよ。団長が行けばいいだろ?」


「まあそう言うなって。――後でソラミアの好みとかを聞き出して教えてやる、と言ってもダメ――」


「――この命に代えてもォ!この任務を果たしてみせるぜェッ!」


 ヒャッホゥ!とテンション高く飛び出していったユグドラシルの背を見送り、改めて「男って揃いも揃って扱いやすい(下心最優先だ)なぁ」としみじみ思うクリスト。


 そして、カチリと思考を切り替える。

 これで予定通り人払いはできた。ここから先は『団長』の仮面はいらない。


 再度カウンター席に座り直すと、向かい側に立つフレッドを見やる。その口元に刻まれた笑みが、先程までのへらへらしたものから打って変わって鋭く弧を描く。


「――ご注文は?」


「一昨日頼んでたもの、仕入れてんだろな?」


「ハッ、俺を誰だと思ってやがる?その点は抜かりねぇよ。――”()()()()()()()()()()()()()()()()調()()”と”()()()()()()()()()()()()()”、しめて四万スルドだ」


「……チッ、相変わらずのぼったくりめ」


 カウンターに叩きつけるように金貨を置いたクリストに、フレッドは手元にあった分厚い紙の束を投げつける。表裏びっしりと文字が書かれたそれは、計三十枚にも及ぶ。


「つか、その程度の情報、わざわざ俺に頼まなくっても手に入るだろうに。なあ、今更だけどよ。なんで金を払ってまで他人から情報を買うんだ?」


「あ?馬鹿かよ、お前は。たしかにこの程度の情報なら俺にも手に入る。……つか、実際手に入れてる」


 だったら何故、と視線で問いかけるフレッドに、クリストは手元の資料から目を離さずに答える。


「情報ってのは必ずどっかが抜けてるモンだ、確実なんて保証は無い。だからこうして金を払って買った情報と、俺の頭に詰まってる情報を見比べんのさ。不確かを少しでも確実に近づけるためにな」


「ふぅん。メンドくせェことしてんな、お前。まあ、そうでもしなきゃお前のやろうとしてることは出来ねぇんだろうさ」


 大変だねぇ、と首を振るフレッドの紅い瞳と、クリストの茶色の瞳が交差する。そして、二人の口が同時に開いた。


「ま、頼りにしてるぜ?――共犯者」


「ハハッ、共犯者ね。善良な酒場のマスターには少し厳つすぎんだろ、その呼び名」

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