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ゼロ:怪物の後日戦譚―Zero:Monster of initiative wars―  作者: 本城ユイト
一章 始まりの出会い
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No.4 追われる者②

 バサリ、と黒いコートの裾が翻る。

 突如倒れ伏すソラミアの眼前に現れた――正確には、四方を囲む建物の屋根から飛び降りてきたクリストは、飄々とした顔で目の前に佇む男を見やっていた。


 ボロボロながらもなんとか体を起こしたソラミアは、そんなクリストの後ろ姿に声を投げかける。


「あ、あなたは……?」


「ん、俺か?俺はクリスト、ただのクリストだ。君は……ソラミアだね?」


「え……はい……そうです」


 喋るたびに全身の傷口が痛みを放つが、ソラミアの胸中を支配していたのは痛みよりも困惑だった。


 全身を痛めつけられながらここまで辿り着き、今まさに全てが終わろうかといった瞬間に現れた少年。正直な話、味方であるかも疑わしい。タイミングが良すぎはしないか――?


 と、そんなソラミアの胸中を表情から察したのか、クリストは振り返らずに横目でソラミアを見てふっと息を漏らした。


「ふむ、どーも警戒されてるみてぇだな。安心しな、俺は味方だ……って、言ったところで信じちゃもらえねぇだろうけど」


「え、あの、その……?」


「ああ、心配すんな。お前の立場だったら俺だってそうだもん。気にすんなよ」


 へらっと緊張感の無い笑いを見せるクリストに、呆気に取られるソラミア。だがソラミアが次の言葉を発するより一瞬早く、別の声が割って入った。


「あー、談笑中のところすまないが、こちらとしても予定というものがあってだな。できれば手短に終わらせたいのだが」


「手短に、かぁ。それなら俺に名案があるぜ?テメェがくるっと後ろを向いて立ち去ってくれればそれで解決。お望み通り手短に終わるだろ?」


「なるほどな、それもそうだ。……が、そういう訳にもいかん」


 そう呟き、銀髪の男は片手を上げてみせる。すると――次の瞬間。突如地面に複数の黒い影が踊ったかと思うと、ザザッ!と大勢の人間の足音が響き渡った。


「あ……ああっ……!」


 銀髪の男の背後に出現した集団――純白のローブに紅い仮面という不気味極まる格好の集団、計十四人。そんな集団に、ソラミアが怯えたように後ずさる。 


 銀髪の男が淡々と命じる。


標的(ターゲット)以外の殺害を許可する」


「「――了解しました。《我・焰霊との契約・履行する者》」」


「おいおい、結論早すぎんだろ……」 


 ゴウッ!と激しい音と共に白ローブたちの手のひらに生まれた火球に、呆れたようにため息を吐くクリスト。だがそんな声など聞こえないかのように、白ローブたちは寸分の乱れもなく言葉を放った。


「「《解放》」」


 十四発の火球が、同時にクリストへと殺到する。それは、瞬く間に空間を駆け、無防備な少年の体へと突き刺さり――起爆。


 地を揺らす衝撃と爆風を撒き散らした。


「――ふ、所詮は子供。死んだか」


 銀髪の男は踵を返すと、恐らく生きているであろう少女の回収を部下に命じる。が――二歩三歩と進んだところで、その歩みは止められた。


 物理的にではない。だが、止まらざるを得なかった。

 未だ立ち込める爆煙の中、そこから死んだと確信していた声が飛んでくれば。


「おいおい、人を勝手に殺すな。知らねぇのか?俺ってば意外と不死身だってよ」


「きゃっ!?わ、ちょっと、どこ触って……!」

 

 その軽薄な、それでいて緊張感など欠けらも無いその声は間違いようもない。クリストと名乗った少年のものだった。ついでに、標的(ターゲット)であるソラミアの悲鳴も。


「――ッ、まさか……!?」


 信じられない、とばかりに振り返る銀髪の男。即座に判断を下し、部下を下がらせ警戒態勢をとらせる指示を出そうとした――寸前で。


 ボッ!と爆煙が内側から跡形もなく消しとばされた。


 そして、濃く立ち込めていた煙が晴れたその場所に立っていたのは、標的(ターゲット)である少女の体を横抱きに抱えたクリストの姿。そして、新たに出現した二人組。

 

「悪いな、ウチの団長に勝手に手ェ出されてもらっちゃ困るんだよ」


「アタシの可愛い団長に傷一つでもつけてみなさいよ。アンタらの息子を再起不能にしてやるんだから!」


 ツンツンと赤髪を逆立て、両拳をパンと打ち合わせる青年と、中指を立てて全身から殺気を放つエルフの少女がそこにはいた。クリストと同じ黒のコートを纏ったその二人は、睥睨するように白ローブたちを見回し、ふっと鼻を鳴らす。


「あんだよ、この程度か?張り合いねぇなぁ。こんなだったら《表》の騎士団(やつら)にもできたろうに」


「アンタは黙ってなさいよ脳筋。今回の仕事内容、忘れてないでしょうね?」


「たりめぇだろ?敵をぶっ倒して女の子をかっ攫えばいいんだよな!」


「なわけないでしょ!?どこの誘拐犯よ!……ったく、今回の仕事はあくまでそこの女の子の保護、戦う必要なんてないのよ」


 えーマジかよーといわんばかりな落ち込みっぷりを見せるユグドラシル。目の前で行われる場違いなやり取りに目を白黒させる白ローブたちに、一歩前へ進み出たクリストが言う。


「さてと。さっきルーナが言った通り、俺たちの目的は女の子――つまりソラミアの保護だ。てな訳で、目的も達成したし、そろそろ帰らせてもらうけど……いいよね?」


「いいはずなかろう?みすみす目標(ターゲット)を逃がしたとなっては、我々《魔道教団(オラリアル)》の面子に関わる」


「ハッ、面子!テメェら《魔道教団(オラリアル)》――世界最大の犯罪組織に面子なんてモンがあったとはなぁ!いやいや、傑作だよ傑作!」


 額に手を当てて笑い声を咬み殺すように俯いたクリストは、不意に面を上げて鋭く口角を上げた。へらっとした笑みを嘲笑うような悪どいものに変え、


「ならその面子、存分に踏みにじってやんよ☆」


 クリストが左腕を振ると、黒いコートの袖からポロッと小さな球体のようなものが数個こぼれ落ちる。その球体は、重力に従って地面へと落下し、石畳で跳ね――炸裂。


 カッ!と太陽のごとき凶悪な極光を周囲に撒き散らした。


「ぐおっ――!?」


「がああっ、目がァ!」


 反射的に両手で目を覆った魔術師たちの視界が塞がる。網膜が焼かれるような錯覚を得る中、健在の耳に少年特有の高い声が届いた。


「どんなもんよ、俺お手製の魔道具の威力は!安心しな、失明のリスクはねぇし、数分もすりゃあ元通り回復する。ま、悔しかったら俺たちを捕まえてみろ!雑魚は雑魚らしくせいぜい頑張りなァ!」


 ハーッハッハッハァ!と小馬鹿にするような高笑いする声が遠ざかっていき、次第に聞こえなくなる。と、先刻の宣言通り視界が徐々に回復していく中、銀髪の男は額に一筋の青筋を浮かべて獰猛な笑みを刻んだ。


「奴らの殺害を許可する。――いや、殺せ。何としてもだ」


「「承知しました」」


 逃げたクリストたちを追って、王都全域へと魔術師が散り始める。まさに今、王都を舞台にルール無用の逃走劇が幕を開けたのだった――

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