表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロ:怪物の後日戦譚―Zero:Monster of initiative wars―  作者: 本城ユイト
一章 始まりの出会い
22/36

No.21 《封印》①

 ガシャン!と、硬質な破砕音が響き渡る。

 床に落ちて砕け散ったグラスを見て、落とし主であるクリストはやっちまったとばかりに頭を抱えた。


「あ、ヤベ、やっちまった……。大丈夫かなコレ、弁償とかになんねぇだろうな。持ち金も貯金もねぇぞ、俺……!」


 床に散乱したガラス片を前にあわあわとするクリストがいるのは、王城でも、もちろん敵のアジトでもない。『トライス西区一番街8-109』にある一軒家の二階、わかりやすく言えばフリウス・レイズの自宅である。


 なぜクリストがその家を知っているのか。それはもちろん、ハーネスに用意してもらった資料に書いてあったからだ。


「でもまあ、暇つぶしがてら身につけた鍵開けスキルがこんなとこで役立つとはな。こりゃ夢の怪盗家業でも視野に入れてみるか……?」


 直らないものは直らないし、都合よく時間も巻き戻ったりしない。そんな諦め理論でガラス片を見なかったことにしたクリストは、そう自慢げに独りごちた。


 華麗な鍵開けスキルとは名ばかりの、力づくで木製の扉を蹴り開けるというある意味凄いんだか馬鹿なんだか判断に困る方法で侵入を果たし。他人に見られたら現行犯間違いなしのクリストは、一通り漁り終えた室内を見渡す。


 質素な調度品の数々、キッチンには作り置きらしきサンドイッチ、ソファに置かれた意外にもまさかのファンシーな熊の人形、締め切られた窓のカーテン―――そして、中央に位置する六人掛けのテーブル。


 そこには、用途不明の溶液や鉱石類やガラス器具などの、一見しただけでは何をするものだか理解不能な物品の数々が所狭しと並べられていた。


 だが、ポロッとどこかに落としてきたらしい記憶の代わりとばかりに、古今東西あらゆる知識を詰め込んだクリストの脳みそにはおおよその見当がつく。


「これ、まさか……だとしたらマズイな」


『あん?何がそんなにマズイんだよ?』


 そんな誰もいない部屋に虚しく漏れた独り言への反応は、クリストの右耳に専用金具で取り付けられた通信用魔道具から響いた。


「いや、フリウスの家に来てみたんだがな?そこで魔術用の触媒を見つけた。揃えられた種類と組み合わせから察するに、大規模な儀式系の魔術を施行するハズだ」


『……嫌な予感しかしねぇな』


「だろ?」


 タタタ……と軽快に地を駆ける規則的な足音を通信用魔道具越しに捉えつつ、クリストは何か見落としがないかと部屋のあちこちを物色し直していく。


 と、その途中でふと思いついたように通信用魔道具へと語りかけた。


「なあ、『共犯者』。《封印》の魔道書(グリモア)って知ってるか?」


『……あん?そりゃ伝説のアレのこと言ってんのか?状況分かってんだろ、今そんな話してる余裕は……』


「ソラミアがその所有者だった」


『…………、……は?おい待て、なんだって?』


「《封印》の魔道書(グリモア)、その所有者がソラミアだったんだよ」


『あ―――有り得ねぇ!だって、《封印》の魔道書(グリモア)は八百年前の戦争直後に……!』


 通話口の向こうから慌てた声が聞こえてくるが、無理もない話だ。何故なら、《封印》の魔道書(グリモア)とは、既に失われたはずなのだから。


 いや、《封印》だけではない。かつて実在し、戦争を終戦へと導いた二十一冊の魔道書(グリモア)は、終戦直後に軒並み消失しているのだ。いまや、現存が確認されているのはたった七冊しかなく、その中に《封印》の名は無い。


「そう、消失した。ハズなんだよな……」


 そう言いつつクリストは本棚から一冊の大きな本を引き抜いた。その表紙を飾るタイトルは、『神話大全』。世界中からありとあらゆる神話を集めたその表紙をめくると、一番最初にその物語はあった。


 かつて起きた《異界間戦争》と呼ばれる、大規模な戦争。それについて書かれたノンフィクション物語に、出自不明の兵器として魔道書(グリモア)は登場する。


 クリストの目当てはその物語の最後に当たる部分だ。

 

***********************


 そして、英雄『魔道書の乙女(ヴァルキリア)』は、自分と近くにいた二人の英雄の生命を引き換えに契約していた二十一冊全ての魔道書(グリモア)の力を《封印》一冊へと集中させ、戦争を引き起こした原因の境界門(ゲート)を永久に封印した。


 その封印を確認した他の英雄が駆けつけた時にはもう、全ての力を使い果たし、糸の切れた人形のように地に崩れ落ちた『魔道書の乙女(ヴァルキリア)』の亡骸からは、すでに全ての魔道書(グリモア)の姿は消えていた―――


                  著:リィン

***********************


 物語のクライマックス、三人の英雄が生命を賭けて戦争の元凶である空間の裂け目『境界門(ゲート)』を封印するシーン。このシーンでは、確かに魔道書(グリモア)の消失が描かれているのだが―――


「有り得ない話じゃない」


 と、クリストは結論づけた。

 現に全ての魔道書(グリモア)が消失したと書かれているにも関わらず、確かにこの世界(ファトランタス)には七冊が現存しているのだ。


 だから、有り得ない話じゃない。

 《封印》が何らかの影響で、もしくは自らの意思でこの世界へと再び生まれたとしても。


『おいおい、だったら急がねぇとだろ!?ンなもんが敵の手に渡ったらシャレにならねぇ!何よりソラミアちゃんの命が!』

 

「ん、まあ命に関わるようなことにはなんねぇだろうが……そうだな、敵の手に渡せないっていうのは同意見だ」


 もっぎゅもっぎゅ、と半ば無意識に食べ物に引き寄せられたのか、気づけばいつの間にか体が勝手にキッチンから失敬していたサンドイッチを頬張りながら同意する。よく思い返してみればなにやら皿の横にドクロマークの小瓶が置かれていた気がしないでもないが、そこは気にせずにクリストは用が済んだ『神話大全』を閉じようとして―――


 ひらりと、どこかのページから一枚の紙切れが落ちたのに気づいた。しおり代わりにでもしていたのだろうか、とクリストがそれを拾い上げてみれば、書かれていたのは難解な数式の羅列だ。


「む?これ……魔術の理論式か?」


『おい、それってまさかソラミアちゃんに使われるヤツか!?だったらちょうどいい、それを読み解いちまえ!』


「……簡単に言うなよ。そうサクサクと出来るモンじゃねぇんだからな?うーん……ここが魔力導入部、でこっちが魔力制御……となるとそこから分かれてこれが変換路で出力調整用抵抗があって……ん?」


 描かれた魔法陣と注釈、並んだ数式を眺めているクリストの表情が徐々に曇っていく。そして、乱暴に髪をかきあげると突如「しまった!」と叫び声を上げた。


「ああ、やられた!そういうことか……!」


『おいどうした!?何があった!?』


「すまん、これは俺のミスだ。ソラミアがいるのは『魔道工学開発局』じゃない!『旧地下訓練施設』の方だ!」


『なんだと!?』


 ザリザリィッ!と路面を靴裏で削るらしき派手な音が魔道具の向こう側からクリストの鼓膜を震わせる。その直後に来た『共犯者』の声は、隠しきれない疑念を孕んでいた。無理もない、クリストは一度推測を変えた―――ならば、次も間違う可能性は低いとは言えない。


『ならそっちに向かうが……何故だ?』


「理由は簡単。この理論式をざっと解読してみたが、かなり複雑だ―――それこそ、高難易度の部類に入る転移魔術なんか比較にならないレベルでな」


『……それって、とんでもなく強い魔術ってことか?』


「ん、いや、一概にそうとは言えないんだが、まあその可能性は無きにしも非ずだな。……とにかく、これは魔法にしろ魔術にしろ全ての異能に共通することなんだが、曰く『複雑であればあるほど制限される』んだ」


『ほう。そりゃ美味い料理ほど手間と金がかかるってーのと同じか?』


「ま、そんなカンジ。要するに何が言いたいかって言うと、この魔術は使用するのにかなりの制限を受けるだろうって話なんだ」


 意外にも料理好きな『共犯者』らしい例え方に「なるほど、そんな例え方もあるのな」と口には出さないが感心しつつ、クリストは制限されるであろう項目を上げていく。


「……まず、巨大な魔法陣を展開できるように広く人目につかない場所。それから、この魔術は完璧な黄金比で成り立ってる……裏を返せば、一点を少しズラされただけで瓦解するようなかなりデリケートな魔術理論式だから、外部干渉を受けない結界とか……」


『ああ、そうか!確かに旧地下訓練場と言えば噂はよく耳にするぜ!強力な結界で封鎖されたあそこは都市伝説の常連だからな……!』


 『共犯者』の合点がいったとばかりの声に相づちを打ちつつ、クリストはさらに理論式を読み解いていく。理論式はその複雑かつ難解さから『暗号』と揶揄されることが多いが、解き方の法則さえ掴んでしまえば読み解けるところも暗号と言われる所以だ。


 時間をかけてその法則を見つけ出せばこの理論式の完全解読もあるいは可能だろうが、今は一刻を争う状況だ。謎を謎のままにしておくのはクリストの知識欲を大いに刺激するのだが、ここはじっと堪えるしかない。


「……大まかなところから察するに、対象の魔力回路に干渉するような効果だろうか。となれば当然、ソラミアの魔力と契約している『あの兵器』にすら手が届くだろう」


『……!まさか、魔道書(グリモア)か!?』


「恐らくな。よし、今から俺も向かう!」


 一応思い出したようにサンドイッチの皿に手を合わせ「フリウス、食ってスマン!」と誠意のない謝罪をし、部屋のカーテンと両開きの窓を開け放つ。


 窓枠に足をかけると躊躇なく外へと身を踊らせる。そのまま地面ではなく、距離にしておよそ一メートル向かいの家の壁に足裏をつける―――と、そこには運悪く窓を開けて顔を出した若奥様らしき女性が。


「きゃっ!?」


「あっと、ごめんなさい!」


 驚いて花瓶を取り落とす女性に詫びつつ、クリストは壁を蹴って飛び上がり屋根のヘリを掴む。そして意外にもその見た目からは想像がつかない身体能力を披露して難なく屋根へと着地してみせた。


 そして、屋根へと足をつけると同時、目指す『旧地下訓練場』の方向を確認すると、猛烈な勢いで駆け出す。


「おい『共犯者』、聞こえてるか?」


『ああ聞こえてるよ!で、なんだ!?』


「言い忘れてたが、、お前じゃ旧地下訓練場には入れないぞ。何せあそこは結界で封鎖された施設、騎士団の副団長以上の権限かもしくは専用の手形がないと……」


『おい先言えよ!じゃあどうするんだよ!』


 タンッ、と不安定な屋根の足場を蹴っていくつもの路地の上を通り過ぎて行くクリストは、ふむと少し考え込んだ後に頭の中へと溜め込んでいた知識を引っ張り出しながら答えていく。


「……あそこはかつて王族も訪れた場所だ。なら、いざって時の脱出経路も何本かある。そのうちのひとつが旧地下水路から伸びて……」


『よし、じゃあオレはそっちに回る!結界は()()()()()なら得意分野だろ!?頼んだ!』


「あ、おい……!?」


 ブツンッ!と耳触りな音を残して、一方的に通話が切られる。クリストはこの場にいない男を思い浮かべて舌打ちすると、通信用魔道具を耳から外して片手で操作する。


 前方を見据えて全力疾走しながら魔道具を二回叩き、出現した数字盤を見ずに押して正確に十二桁の番号を打ち込む。何度か呼び出した後に、通話の主が第一声を発するか否かというタイミングでクリストは魔道具に向かって叫ぶ。


 そして、事件は収束へと向かっていく―――


「あ、ユグドだな!?」


『いえ、こちら喫茶「ハトの家」ですけど』


「……ごめんなさい、かけ間違いました!」


―――向かっていく、そのはずだ。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ