No.1 護り手の物語
――こんな噂を、知っているだろうか?
世界第三位の大国にして魔導国家、様々ないわく付きの地に建国されたリアスター王国。そんな王国でまことしやかに囁かれているその噂を。
それがいつ現れたのか、誰が最初に言い出したのかも分からない。だが、瞬く間に王国中に広まったその噂は、様々なアレンジと共に根づいていく。
曰く、それの姿を見た者は後を絶たず、しかし誰一人として記憶している者はいない。それを見た者達は口を揃えて『影』と言った。
曰く、それは国の秩序を維持するために存在する《王国魔導騎士団》の精鋭騎士団。人知れず闇を駆け敵を葬り去る暗殺騎士団である。
曰く、それは王国を乗っ取るための敵であり、王国の秩序を維持する《国立魔導騎士団》と敵対する犯罪者集団である、などなど。
今や数え切れないほどの数となったその噂。
そして、その噂に必ず登場する《それ》を形容する言葉もまた無数に生み出されていく。
その中でただ一つ、圧倒的な支持を誇る名があった。その名こそが――
――《執行部》。
影から秩序を維持せんと戦う、正体不明の執行人である。そんな意味を、願望を、希望を、一心に背負った名は、また新たな分岐を繰り返して物語を紡いでいく。
さあ、それでは始めよう。
あの時、私に差し伸べられた手の話を。
怪物に救われた、護り手の物語を――