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ゼロ:怪物の後日戦譚―Zero:Monster of initiative wars―  作者: 本城ユイト
一章 始まりの出会い
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No.13 魔法と魔術②

「さて、それじゃあ始めようか」


 周囲の壁が氷と霜で覆われた空間。それでいて体感温度はとっくに十度を下回っているであろうその場所で、クリストは床に座ってあぐらを描きながらそう言った。


「はい、お願いします!私頑張りますので!」


「待ってルーナ、そのボロボロドレスという特殊なカッコで前かがみはダメだよ!見えちゃう、見えちゃうって!団長はあっち向いてて!ほら!」


「はいはい、分かりましたよ。つか、俺ユグドと違ってロリコンの気はねぇから、薄い胸見てもなんも思わねぇぞ?」


「――っ!こ、これから成長期なんですぅっ!いつかこうおっきーくなる予定なんです!だから問題ないんですからね!」


「わわっ、わかった悪かった謝るよ!だから興奮すんな、電撃が危っ……ぐおっ!?」


 と、そんなひと騒動あって、ようやく開始に漕ぎ着ける。ちなみにユグドラシルはといえば、ひとり騒動に参加出来ず、それはもう血の涙を流さんばかりの悔しげな表情をしていた。


「それじゃあまずは魔法についてだな。えっと、このファトランタスという世界では、満十六歳になった者には魔法が与えられる。ここまではいい?」


「はい。それはもう一般常識ですから!」


「まあ、世界&種族共通のことだしね」


「魔法を使うのに必要なのは二つ。ひとつは魔核(コア)と呼ばれるもの。そしてもうひとつは魔力回路というんだが……実際に絵で説明した方がわかりやすいか」


 そう言って腰のベルトから十センチほどの細い棒状のヤスリを取り出すと、床にざっくりとした人型を描き出す。それを見ていたルーナが、そういえばと訊ねる。


「ねえ団長、なんで今日はヤスリなんて使ってるの?いつもの投げる用の剣はどうしたわけ?」


「ああ、それなら一昨日の仕事で使い切っちまってな。新しいのが手に入るまでの代用品だよ、コレは。元は俺が魔道具制作で使ってたモンだけどな」


 愛用品の方が手に馴染むだろ?と、器用に回して弄びながら答える。事実、『新緑の風見亭』でクリストが見せた投擲は、寸分の狂いもない見事なものだった。


 そうしているうちに人型を描き終えたクリストは、その胸の中央あたりに丸を刻んで、そこから真下に一本線を引いた。


「この丸が魔核(コア)だと思ってくれ。魔核(コア)っていうのは、大気中の魔力を吸収して貯蔵する――まあ魔力を貯める器だと思ってくれればいい」


「な、なるほど。では、この線がその……」


「確か魔力回路、だったっけ?」


「その通り。ご明察だよ、おふたりさん。ちなみに、魔力回路の役割としては『魔力を魔法に昇華する』といったところかな」


 パチパチ、と手を叩くクリスト。

 結構適当な褒め方だが、それでも褒められ慣れてないソラミアとクリストを溺愛するルーナは「それほどでもぉー」と照れていた。なんというか、すごくチョロい。


「さて、次に行こうか。さっき魔力回路の説明をしたけど、あれは全ての人間に備わっているもの――それが何を示すかわかるかな?」


「うーん、えっとね、そうだなぁ。わかんない!」


「……あの、もしかしてですけど、全ての人間が魔法を使えるってことですか?だとしたら間違いですよ。だって――」


「――魔法を使えない人間がいる、だもんな」


 ソラミアの言葉を引き継いだクリストの答えに、早々に清々しい表情で諦めたルーナがなるほどとばかりにポン、と手を打つ。


 そう、魔法が使えない人間は確かに存在する。統計的に見れば魔法が使える人間の方が多いが、稀に使えない人間が出てくるのも事実なのだ。割合にして百人いたら九十八対二くらいだろうか。


「そも、ソラミア。何故魔法が使えない人間が存在するか知ってるか?」


「……え?それはまあ、遺伝とかじゃないんですか?」


「なるほど。確かに、知っているかと問われてパッと思いつくのは遺伝とか血筋とかだな。でも、不正解だ。正しくは障害なのさ」


「し、障害?」


 予想外の答えに目を白黒させるソラミアに、クリストは「そうとも」と肯定する。その隣でルーナが黙ってクリストの言葉を聞いていると、背後から声が飛んできた。


「うぉーいルーナ、ちょっとこっちゃ手伝ってくれ!溶かしたヤツを冷やして固めちゃくんねぇか!?」


「えっ、あ、うん!今行くよー!……ってわけでゴメン、団長。呼ばれちゃったから行ってくるね?」


「ああ。頼んだぞルーナ」


 杖を片手に熱源の方へと駆けていくルーナの背を見送ったクリストに、ソラミアはそっと囁く。


「……あの、私たちも手伝わなくていいんですか?」


「んん?いやぁ、そりゃオススメできないね。いくら『空気読めない子』な俺でも、さすがにあの中に割って入るのは気が引けるしな〜」


「……?……??」


 頭の上に『?』を浮かべるソラミアに「こっちの話だ」と訳知りで告げ、中断していた講義を再開する。


「さて、どこまで話したっけ?……ああ、魔法が使えない理由についてだったか」


「はい、そうです!


「『魔力回路不活性障害』っていってな、未だに原因不明、治療法も確立されてないんだ」


「……治らないんですか?」


「残念なことにな。先天性のこの障害を患った者は、魔力回路の機能不全という症状に陥る。つまり……」 


「……魔力を魔法に変換できなくなる!」


 早速得た知識で正解を導き出したソラミアに、満足そうな表情のクリスト。なんというか、人が成長する瞬間というのは何度見ても良いものだな、と場違いに思ってしまう。


「一応、この障害を持つ者を第零階梯(レベルゼロ)、通常の魔法が使える人間を第一階梯(レベルワン)と呼称する。これも世界共通のもんだな」


「ああ、そうでしたね。でも、それ前から思ってたんですけど、まるで差別してるみたい……ううん、なんだか見下してるようにも感じますよね」


「ま、力を持った者の習性とでもいうかね。自分より劣る者を下に見る、っていうのは。……無論、そんな人間だけじゃないのは知ってるが、それにしたって大抵の人間は残酷だよ」


 やれやれ、と心底呆れたように首を振るクリスト。それから、少し脇道にそれかけた話題を戻すように、ついでにその場の空気を直すように咳払いをする。


「……コホン、さっき言った第零階梯(レベルゼロ)だが……実は、これは魔術を扱う上でなくてはならない要素なんだ。必須事項、とでも言うべきかな」


「え……?でも、その障害で魔力回路が使用不可なら、そもそも魔術が使えないんじゃないですか?」


「いや、魔術の使用に魔力回路は不要だ。この際、『じゃあどうやって魔術を使うのか?』という疑問は一旦置いといてくれ。何せ説明しようにもだいぶ難しい分野だからね」


 そう言ってクリストは懐から一冊の本を取り出してソラミアへと手渡す。何度も繰り返し読んだ形跡があるボロボロの表紙には、『魔術理論とその推察』とタイトルが踊っている。


 試しにペラペラとページをめくってみると、ソラミアの頭では理解不能な数式やら図式、様々な専門用語の羅列でびっしりと埋まっていた。しかも、この作者は読み手に理解させる気があるのだろうかと疑うほどに細かい。


「うう、見てると頭痛くなりそうです……!」


「おや、俺の愛読書はお気に召さなかったか。まあその手の反応はよくされるけどな。ユグドあたりは特にね」


 苦笑して突き返された本を手に取ったクリストは、再びその本を仕舞う。かわりに鎖付きの懐中時計を取り出し、その蓋をパチンと開く。


「そろそろ十分経つな。ユグドの方も終わるだろうし、こっちも締めに入ろうか。……さて、魔道士と同じく魔術全般を扱う者を『魔術師』と呼ぶが……あれは正確ではない。正しくは『精霊術師』と呼ぶべきだ」


「せ、精霊術師ですか?でも、精霊術師っておとぎ話の中の存在でしょう?確かに精霊種(エレメント)という種族はいますけど、あれは人と関わりを持たないと聞きますよ?」


 そう、確かに精霊は存在する。しかし『存在するだけ』である。亜種族の中にはかつて人間から迫害を受け、人の目を避ける種族も少なくないが、精霊種(エレメント)もその一つだ。


 決して、人間に力を貸して魔術という異能を授けるなんて有り得ないのだ。

 

「いや、人を嫌うのはあくまで一部の精霊、つまり長い年月の末に『自我』という固有のアイデンティティを確立したごく少数に過ぎない。実際は精霊なんてほとんどは意志無き魔力の集合体でしかないよ」


「魔力の集合体……。それって、あの魔術師の周りに漂っていた光点のことですか?」


「その通り、あれが精霊――正確には下位精霊だ。それを複数組み合せたコマンドによって使役するのが魔術というものさ」


 要するに他力本願のまがい物だよ、と付け足す。

 

「自分の力一つで異能を扱う魔法と違って、魔術は他人の手(精霊の力)を借りて異能を扱う。当然、いろんな相手から力を借りれば複数の属性を操るなんてことも出来る――っと、ん?」


 途中で言葉を切ったクリストが、おもむろにユグドラシルたちとは反対方向の通路、そこにある闇の中に眼を凝らし――そして。


 ガシッ、となんの説明も無しにソラミアを横抱き、つまり俗に言うお姫様抱っこの状態で持ち上げた。


「わわっ、ちょっと、クリストさん!?」


「悪ぃソラミア、ちと我慢してくれ!口閉じて舌噛まないように気をつけろよ!」


「な、なにを……!?」


「――ユグドッ!!」


 ソラミアの言葉には答えず、たった一言、叫ぶ。その呼びに反応したユグドラシルが、壁に開けた穴からひょこっと顔を出す。その顔に向かって、クリストはさらに続けた。

 

「受けとめろッ!」


「――ッ!あいよ、了解した!」


 短い言葉、だがそれだけで完全に互いの意思を伝え合う2人。直後、遠心力を使って思い切り両手を振り抜いたクリストの腕の中から、ソラミアの体が空中に放り出される。


「っ、きゃああぁぁっ!?お、おち……!」


 ぐるぐると天地がひっくり返りまくる中、通路の天井ギリギリを舞うソラミア。もはや視界など役に立たず、唯一使える聴覚がズズッ、ガラガラ……!という妙な音を捉えるも、それについてすら考えている余裕はない。


 完全にパニック状態のソラミアは、そのまま重力に引かれて硬い地面へと頭から落ちていき――


「おおっと!ギリギリセーフってとこだな!大丈夫か、ソラミアちゃん!」


 その体が地面に叩きつけられる寸前、その下に滑り込んだユグドラシルの腕が危うくキャッチする。


 意味もわからず、さすがに文句の一つでもお見舞いしてやろうかと、ソラミアがクリストのいる場所へと目を向ける。すると、そこにあったのは――


 真っ暗な口を開けた、奈落。

 床の一部が完全に崩壊し、そこに少年の姿など影も形も見当たらない。クリストが巻き込まれたのは誰の目にも明らかである。


「え……そ、そんな……!?」


「……ダメだ、ソラミアちゃん。団長が心配なのもわかるが、今は自分の身の心配だけをした方がいい」


 ふらふらと、力ない足取りで奈落に近づこうとするソラミアを、ユグドラシルが制止する。その瞳は、奈落の向こう側、闇の中からにじみ出るようにしてこちらに歩いてくる一団を捉えていた。


 闇と相反する白いローブの集団。

 その先頭に、一人だけ騎士団の礼服である藍色のコートを纏ったフリウス・レイズが立っていた。


「おや、ご無事でなりより、標的(ターゲット)。どうでしょう、今からでもこちらに投降するというのは?」


「……いえ、それはできません。私はあなたたちにだけは()()を渡すつもりもないし、渡せない」


 気丈にもフリウスの視線を真正面から受けて立つソラミア。だが、その足は震え、なけなしの勇気を振り絞っているのは誰の目にも明らかである。


 だが、そんなソラミアの前に、たった二人の、されど二人の味方が立った。


 ユグドラシルとルーナ。

 その真剣な眼差しを見たフリウスは、心底面倒くさそうにため息を吐いた。


「なんの真似です。僕たちはあなた方に用はないんですよ。そこを退いてください」


「いーやどけねぇな。テメェらみたいなクソ野郎にこんな美少女は勿体ねぇよ。尻尾まいてとっとと帰れ、バカ共」


「そうだね。よってたかって女の子をイジめるなんて、団長の言葉を借りるならアンフェアってものだよ。そんな最低なヤツにソラミアは渡せない」


 つまり、欲しけりゃ力づくで奪え、と。

 ただしこちらも容赦など一切しない、と。

 

 そう言外に宣言した二人に、フリウスは小さく「ふん」と鼻を鳴らして、部下に告げる。


「――やれやれ。彼らは不要です、殺しなさい」


 その一言をきっかけに、魔法の爆炎と氷槍が、魔術の雷撃と風刃が狭い通路を駆け抜けた。 


***********************


 そして、ユグドラシルたちが戦闘の火蓋を切った頃。


「あ〜あ、こりゃ随分落とされたもんだ。登んのに苦労しそうだぜ、まったくよ……」


 一人地下へと落とされたクリストは、頭上に小さく見える光を見つめてそう呟いた。

 

 申し訳程度に備え付けられた魔晶灯の白い光が照らす空間、一辺が二十メートルあるかないかという正方形の空間の中央で、自分とともに落ちて来た瓦礫のひとつに腰掛けて溜め息を吐く。


 そのため息の原因は、落とされたことだけではない。頭上に見える光、そこまで真っ直ぐに伸びる人工の縦穴。要するに、誰かが悪意を持って仕掛けた落とし穴にまんまとかかったようなものだ。


「やれやれ、まったくツイてない。でも、どうやら上で闘り合ってるみてぇだし……早く戻んなきゃな」


「なに、そう急ぐことは無い。少し私に付き合う時間くらいは取ってくれてもいいだろう?」


 時折響く爆発音を聴きながら言うクリストへと、そんな言葉が投げられる。声のした方向に顔を向けてみれば、唯一の脱出口である通路の奥から一人の男が歩いてくるところだった。


 その男を、クリストは知っている。


「やあ、ゼラス。久しぶり……でもないか。数時間ぶりだよな?」


「私がいることには驚かないのだな。……まあいい、あの時の言葉、果たしに来たぞ」


 あの言葉……?と一瞬考え込んだクリストは、直ぐに思い出した。数時間前、ゼラスとの戦闘直後に交わした言葉を。


『貴様ともう一度……手合わせしてみたいから……だろろか……』


 そう、確かにゼラスは口にしていた。


「――って、律儀にも程があんだろ……。もうちょい後にしてくんねぇかな、今立て込んでんだ。テメェに割く時間なんざこっちにはねぇんだよ、このかまってちゃんが!」


 ち、と舌打ちして忌々しそうな態度で言葉を放つクリスト。それに対し、ゼラスは小さな笑みを浮かべた。  


「ふ、戦場では立て込んでいるなどよくあることだ。それに、人生というのも常に予定通りには行かないものだしな」


「……どうしても闘るってんだな?」


「至極当然だ」


 その瞬間、その場の空気がピンと張り詰めた。

 どこにでもあるような場所が、戦場のど真ん中かと間違わんばかりの圧で満たされていく。否、紛うことなき戦場へと変貌しているのだ。

 

「わかった、付き合うよ。どのみちテメェを早々に叩きのめせばいい話だ。速攻で片付けてやる、全力で来やがれ!」


「無論だ。最初から手を抜くつもりも、ましてや勝ちを譲るつもりもない。今ここで貴様を……斬る!」


 静かに抜剣して柄を両手で固く握りしめたゼラスと、半身をひねって軽く拳を作る徒手空拳の構えを取るクリスト。


 そして、そして。

 魔晶灯が放つ淡い白色の光の下で、ドンッ!と地を蹴る音が二つ、空間に響きわたった。

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