No.1 罪の物語
蒼い空を雲が流れていく。
そんな光景を、俺はこの草原に寝転がりながら何度瞳に焼き付けただろうか。
なんでもないような日々を、ただ心ゆくままに生きればいい。そんな言葉を言っていた友人は、今どこで何をしているだろうか。
出会いと別れ。
俺がそんなことをひたすらに飽きもせず繰り返している間にも、世界は変わらずに回り続けていた。ただ変わらずに、ずっと。
つまり、世界とはちっぽけな人間が何を思おうと変わることは無く、そして止まることも無い。
かつてこの地であった二度の戦争でも、終わってしまえば何事も無かったようにただ悪戯に平穏な蒼空が浮かんでいた。
ああ、あの戦争から四千年も経ったのか、と不意に思った。なんだか懐かしいような、それでいて昨日のことのような感覚だ。俺は、あの二度の戦争を忘れない。
いや、忘れてはならない。
俺が犯した罪を、俺は一生背負って生きなければならないのだから。
さあ……っ、と爽やかな風を肌で感じながら、俺は立ち上がる。そして、当てもないままに自由気ままな歩みを進めようと、最初の一歩を踏み出しかけて――留まった。
その原因は、俺の瞳に飛び込んできた一冊の本。緑の草原において、そこだけ茶色く色あせた場所に。そこに捨てられたように落ちていた、古ぼけて色あせた表紙のボロボロな本。
俺はその本を何気なく手に取ると、ページをめくった。目当ての話があったのだ。俺が忘れることの出来ない、思い出とはほど遠いが消せない過去が。
その目当ての話はすぐに見つかった。
『神話大全』なんて仰々しいタイトルの本の、一番始めのページにあったからだ。
ふと笑いを漏らし、本能の赴くままにページをめくる。
さあ、それでは読み始めようか。
そして良ければ聞いてくれ、今となっては過去になってしまった、俺自身の罪の物語を。
『――こんな噂を、知っているだろうか?』