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第05話「雷電」

「どうして……高崎時弥が……、どうして……ッ!?」

目の前に俺がいる!?


 冷静に考えれば、今の俺は田端蒼汰。そして、目の前の時弥はこちら側の世界の時弥に違いはなかった。だが、この時の俺は冷静ではいられなかった。


 一方、時弥は目を見開いて俺を見つめる。その様子を見るに、「なぜ、俺の名前を知っている?」と言わんばかりだ。


 だが、それも一瞬のうちだった。時弥はすぐに冷静に戻ると、剣に力を込める。なるほど、「殺す相手が一人増えただけ」ということらしい。


「お兄ちゃんッ!」


 刹那。

 時弥は俺の後ろに回り込んでいた。


 速いなんてものではない! 

 それはまるで光速! 


 そして、振り返りざまに見た時弥の姿はまるで人間ではない別の何かだった。全身、眩い光に包まれており、しかも、目に見える放電がなされている。

 例えるなら、それは稲妻。

 閃光だった。


 どういうこと?

 何だ一体?

 そんなことを考える暇はなかった。


 考える前に、とにかく本能が俺に告げる。


――逃げろ。あれは、ヤバい。


「――ッ!」

 俺を守るため、一閃を受け止める柚姫。


 だが、時弥の放つ一撃は重く、柚姫は一瞬にして遥か後方へ吹き飛ばされた。


「柚――ッ!」


 突き刺す殺気。

 時弥は、俺に向け剣を振りかざしていた。


 迫る雷電の刃。

 俺は、死を覚悟した。




 ***



 爆音。


「朝っぱらから、なに楽しそうなことしてんの?」

 恐る恐る目を開けると、そこには渚の姿があった。

「私も混ぜてよ」

 にっこりと笑う渚。

 無茶苦茶な奴だが、この時ばかりはこの笑顔に安堵した。


 どうやら、間一髪のところで現れた渚が、時弥に何らかの一撃を食らわせたらしい。時弥はというと、前方の方へ吹き飛ばされ、爆煙とともに立ちあがろうとしていた。


「渚! これは一体何なんだ!? アイツのアレは何なんだ? それにお前も……」

「え? もしかして、蒼たん、《異能力》を初めて見る?」


 《異能力》?

 ちょっと待て! そんなの聞いてないぞ!

 なんなんだ、この世界は! 次から次へと……。


「たぶん、雷系の《異能力》だね。ありゃ」

「なんでそんなモンが使える!?」

「うーん、何って言えばいいか分かんないけど……科学の結晶かな? 聞く話によると、蒼たんの世界の科学技術は大分遅れてるんだね」


 それから渚は「って言っても、使えるのは鶴橋部長(いこまん)や柚姫たち一部の人間だけど」と付け加え、立ちあがった時弥と向き合った。


「特に、西日本では《異能力》使える人は少ないよ。ほら、時弥(奴さん)も驚いた顔してる」

 渚はあごで時弥を指す。


 時弥の表情は不機嫌そうだった。

 向こうからしても、渚の登場はとんだ誤算なのだろう。


「ちなみに、お前の能力は……なんなんだ?」

「私!? 私はね……」


いつも通りの涼しげな笑みの渚。

 言って、渚は勢いよく両手を広げた。

 

 すると、ハンドガン、ライフル、マシンガン、バズーカ……空中に無数の銃火器が次々と出現した。まるで、1つの軍隊……いや、1つの要塞のようだ。


「異能コード《アスラ》。歩く一個師団とは私のことよ」


 幾千の銃口が時弥を睨む。


 かといって、時弥も退こうとしない。再び、稲妻を身に纏うと、剣を構え突撃してきた。


 放たれる弾丸。

 そのすべてをかわし、あっと言う間に眼前まで迫ると、渚めがけて剣を振り下ろした。その一太刀を渚はまともに受けた……ハズだった。


「惜しい! でも、残念でした」

言って、渚は時弥の喉元をつかんだのだった。

「つーかまーえた」


 嘘……だろ?

 相手は雷だぞ!?

 それをつかむなんて……本当に、なんなんだこいつは?


「さーて、乱れ撃ちの時間だよ! 弾丸の嵐を堪能してもらいましょうかねぇー、んん?」


 歯を見せて笑う渚。

 空いている左手の指を怪しく動かし、冷笑を浮かべる。


 正面を向いていた銃火器は、身動きできない時弥をまるであざ笑うかのようにゆっくりと回頭する。そして、銃口が向けられ、次発が装填される。


「くッ……」


 時弥は眉間にしわをよせ、頬をピクつかせる。簡単だったはずのミッションが想定外の異能力者の登場によって邪魔されたのだ。その悔しさたるや相当のものだろう。


 もはや、任務継続は不可能。

 撤退しなければならない。


 時弥は、拳を強く握りしめると、そのまま渚の腕を振り払う。そして、全身を発光させると光となって空へと姿を消したのだった。


 残ったのは、放電された雷。

 余韻として、バチバチと電光が走る。


「た、助かりました……」

 そっと歩み寄る柚姫。

その声は弱々しいものだった。


「おい、大丈夫か!?」

 俺は今にも倒れそうな柚姫の体をあずかる。


 やはり、時弥の一撃は相当のものだったらしい。それに、数か所制服が傷ついている。大半は吹き飛ばされた時に地面に叩きつけられてできたものだが、時弥との剣戟の中でかわせなかった物もあるようだ。ところどころ、剣で切られている。


「なんにせよ助かった。渚」

「応さ。いいってことよ」

 渚が指を鳴らすと、銃火器は姿を消す。


 それから、柚姫に歩み寄ると苦笑いを浮かべた。

「いやぁ、相手が悪かったね」

「いえ、私の力不足です。先輩がいなかったら私……」


 と、不意に、渚は柚姫にデコピンを食らわせた。


「柚姫の能力は《水》やんか。無茶は駄目だよー」

「……」

 うつむく柚姫。どうやら、柚姫も《異能力》が使えるという話は本当らしい。

「まぁ、ああいうDQNは私に任せなって」



「それで……、あいつは何なんだ!? なんで高崎時弥が――」

 言いかけたところで、俺は口を閉じた。


 確かに、姿かたちは確かに高崎時弥。

 だが、その表情や行動はどうだろう。俺が絶対できないような身のこなし。論理で動いていると言うよりかは、むしろ感情に身を任せたような動き。そして、奴の表情はまるで獣だった。


「それに、どうして《異能力》なんて使える!? あれは何なんだ! それに、どうして渚と柚姫も――」


 そこで、狼狽の表情を浮かべるのは柚姫だ。


 俺は、どこでハッとする。


 そりゃそうだ。高崎時弥の名前は知っているのに、「あいつは何なんだ?」と訊く始末。わけが分からなくなるのも無理はない。


「なんでお兄ちゃんはあの人の名前を知ってるの?」

「なんでって……」

「剣を交わして分かった。あの人は、東日本共産党直属の特殊部隊の一人だよ!」

「!?」

「どうして……、どうしてお兄ちゃんはそんな人の名前を知ってるの!?」


 俺の胸に、真っ直ぐとした瞳が突き刺さった。


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