最終話「この境界の果て」
「つっこみたい場所はたくさんあるんですけどね」
と、彼女は切り出した。
今日も空は青い。
少し肌寒くなりだした中庭のベンチに、イチョウの葉っぱがやってくる。彼女は俺の隣に座っていて、カジュアルな格好をしている。ぱっちりとした目をしていて、セミロングの髪の快活そうな女の子だ。
「特に終わり方! なんなんですかアレ! 読者への経緯はいずこですか~?」
「いや、そんなこと言われても……」
「だいたい、先輩の話は設定ガバガバなんですよ! だから、最終的になんでもアリになって、物語全体がふわっとした感じになるんですよー」
……。
返す言葉が見つからない。
「天理黒夢は、結局どうなったんですか?」
「いや、そこは想像におまか――」
「そういうのいいんで。作者的にはどうなのか、教えてもらえます?」
……。
困ったなぁ……。
どう答えたものか……。
だが、答えないうちに、彼女の関心事は別へ移っていた。
「あと、キャラクターの扱い方が概して雑ですよね? えぇっと、雀宮沙羅だっけ? あの死に方はナイナイ。なに? 恨みでもあるんですか? 美人なんだから、もうちょい大切にあつかいーや」
「それは、えっと……」
「そういや、雀宮沙羅って……数文字変えたら先輩の初恋の人じゃん! むむむ!? やはり恨みが!?」
「無い! 他意はない! 断じて無い!」
「えぇー、本当にー?」
そう言って、彼女はからかうように冷笑を浮かべる。
「それと、私にも恨みがあるんですか?」
「なんで?」
「内海渚ってキャラいるじゃないですかー。あれ、私を意識して書いてますよね?」
「まぁ、そうじゃないって言ったら嘘になる」
「ですよねー。私、可愛い後輩ですよねー。にしては、傷つきまくりっていうか……、もしかして、先輩には後輩を四肢切断して楽しむ性癖でも――」
「いや、無いからね?」
でも、そうだな……。
モデルがこいつなのには変わりない。
そんなキャラクターを傷つけたらどうだろう。モデルとなった人物は、どう感じるだろう? いい気はしないはずだ。
「ごめ――」
「せっかく産み落としたキャラクターなんですから、もっと大切にしてクダサイネ!」
じゃあ。
と、「次の講義があるので、私はこれで」と彼女は立ち上がった。それから、ニッコリと笑うと「私、もっと活躍したいですから! 次回作、期待してますね!」と言い残し、風のように去っていった。
あとには沈黙。
それから、ペンとさっき買ったばかりの白紙のノート。
「次回……か」
俺はおもむろに空を仰ぐ。
風が吹いて来て、季節外れの蝶が飛んでいく。
「なぁ、聞いてるか?」
言葉は無い。
風の音が返事だった。
「今度は、お前をきっと満足させる世界を描くさ」
だから、黒夢。
それまで、待っていてくれ。
――――
現世界時間 : 2020年 11月 6日 14:32




