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「橘さんは何をしていらしたんですか」

「写真を撮っているように見えました」

「遠藤さんはその様子をずっと……」

「いえ、何か悪いモノを見た気がして三十秒ほどで止めました」

「そうですか」

「ええ」

「そのことは警察には……」

「山下さんが橘さんを招かれたかもしれないので言っていません」

「だけど遠藤さんは気になり、こっそりと、わたしに報せに来た……」

「面倒に巻き込まれるのは厭なんです」

「誰しもそうですね」

「はい……」

「実は橘さんに撮影を頼んだのですよ」

 おれは後先を考えず、そういうことに決める。

 面倒を避けたいのは、おれも同じなのだ。

 おれの場合は警察との面倒だが……。

 遠藤氏が警察に自分が見た事実を話せば誘拐事件にまた不可解さが増す。

 そうなれば捜査が打ち切りにならず、いつまでも続く。

 何としても、そのことだけは妨げなければならない。

「ですから、怪しい行為ではありません」

 続けて、おれが遠藤氏に言う。

 すると遠藤氏が途端に顔を綻ばせ、

「そうですか、それならば良かった」

 ホッとしたように、おれに応える。

「余計なことを言いに来て済みませんでした」

「いや、他人ひとが見たら可笑しいと思うことを、お写真好きの橘さんに頼んだわたしがいけなかったのです」

「……」

「で、何かあっても面倒なので、ここはお一つ、橘さんにはご内密に……」

「ええ、それは承りました」

 ついでに警察に、とまで、おれは言えない。

 が、橘夫人に告げ口をしないのならば、遠藤氏は警察にも何も話さないだろう。

 理由はないが、おれには、そうだ、としか思えない。

 もしかしたら、おれ自身の情けない心模様が、その理由かもしれないと気づきながら……。

 遠藤氏を自分の家に帰し、門扉を閉め、リビングルームに戻ると、おれが佐知と妻モドキに告げる。

「おれの妻殺人現場写真の撮影者は橘夫人で決まりだな。お隣の遠藤さんが橘夫人を目撃していた」

「えっ、そうなの」

 すぐに佐知が反応し、

「まさか、橘夫人も、この家の中を覗いている自分が他の人に覗かれているとは思わなかったでしょうね」

 妻モドキも感想を述べる。

 けれどもそこで、おれは重大なことに気づいてしまう。

「遠藤さんは橘夫人を見たのは先週の土曜日の夜だと言った」

「それが、どうかしたの」

 佐知が問う。

「だが、おれが妻の死体を見たのは月曜日だ。先週の土曜日は、その二日前だ」

「あたしと課長さんが旅行に行ってた中日ね。だから、あたしと課長さんは写真撮影に関わっていない」

「それもそうだが、そもそも可笑しいだろう。誘拐犯……というか、おれの家に入った泥棒集団の脅迫がすべて嘘になる」

「確かに……」

「泥棒集団が妻の死体を処理したのは月曜の夜のはずだ。その日初めて、妻の死体を見たんだからな。ところがどうだ。その二日前に、おれが妻を殺す写真が撮影されている。しかも妻が家にいるはずの土曜日に、だ」

「奥さんは外出していたかもしれないわよ」

 乾いた口調で妻モドキは言うが、

「仮に外出していたにしても、写真を撮影していた犯人には、いつ妻が帰ってくるかわからないだろう。家に侵入して写真を撮るなんて行為は危険過ぎる」

 おれが妻モドキの考えを否定する。

 けれども妻モドキは、

「あくまで山下さんを本当の殺人犯にしたかったんじゃないかしら……。そのための証拠だもの」

 と譲らない。

「だったら写真は橘夫人が撮ったようにキッチンの外から撮られなければ可笑しいだろう。……とすれば鉢合わせするじゃないか。犯人側の撮影者と橘夫人が……」

「リハーサル中だったんじゃないの。橘夫人が写真を撮ったのは……」

「どっちにしても妻の協力がなければ写真は撮れないし、この家で芝居もできない」

「奥さんが旅行中だったとしたら……」

「もう、ああ言えばこう言う。いったい何処へだよ」

「山下さんと佐知ちゃんが向かった温泉宿……」

「何だって……」

「夫の不倫の事実を確認しに行ったのよ」

「まさか」

「まあ、例えばの話なんですけどね」

「いったい、きみは誰なんだ……」

「山下さんの奥さんじゃないわ」

「いや、それ以外にないだろう」

「奥さんは温泉宿で自殺したかもしれない」

「いきなり、何を言い出すんだ」

「あるいは何処かの川か、山か、湖……のある土地で自殺したかもしれない」

「どういうことだ」

「あたしが酒場で知り合いにこの仕事を頼まれたときには聞かされてないけど、この誘拐事件、実は山下さんの奥さんが仕かけたんじゃないの」

「何のために、だ」

「山下さんを殺人事件の犯人として警察に逮捕させるためによ」


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