第6話 依頼
グラムは広いといえど丸1日走り回っていればすべての道を通ってしまう。店の場所は全て把握出来た。
クロエは冒険者登録を終えた翌日、魔法学校に入寮希望取消しの旨を伝えてから基礎体力作りと併用してそんなことをやっていたのだが[木陰の安らぎ]の周りはグラムでも有能な職人が多いようだ。
今日はエリスが作った朝食を食べた後、低ランクでは実入りが少ないのでランクを上げ、稼ぎを確実なものにするべくギルドに依頼を受けに来ている。
掲示板を見てランクが合い、報酬額も良い依頼を3つ取り敢えず引っ張り出し受付嬢に渡す。
「この依頼をお願いします。」
「ゴブリンの討伐とダーティウルフの討伐、いやし草の採取ですね。ゴブリンの討伐証明部位が左耳、ダーティウルフは尻尾になります。」
「分かりました。ランクを上げるには後どれくらい依頼をこなせば良いですか?」
「Eランク昇格には依頼を20回達成させる必要があります。そのうえで昇格試験を受け合格しなければなりません。」
依頼は1度に3つまでしか受けられない。他の冒険者が依頼を受けてギルドに依頼がないなんて事も考えられる。
(ランクを上げるには早く依頼を達成させてまた依頼を受けないといけないんですね。)
クロエは受付嬢に礼を言ってギルドを出る。
ゴブリンは知能こそ低いが繁殖力の高く数が多い為、人間領では被害が絶えない緑色の体をした魔物である。見た目に比べて力はあるが12~3くらいの子供でも少し訓練すれば対処出来てしまう程度の強さだ。個別で行動したり、集団で行動したりする事もあり、中には知能を付ける者もいるが基本的に統率のない数に物言わせる戦い方をする。
ダーティウルフは集団で行動する狼の魔物で統率のとれた行動で動物や魔物を狩って食べている。1体1体は強くないが連繋のとれた攻撃をするのでゴブリンよりも厄介になる事もある。
いやし草は薬草の一つで傷薬の材料である。薬草としては珍しい物ではなく容易に手に入るが数を多く必要とする。
今回クロエが受けた依頼はゴブリンを5体、ダーティウルフを6体討伐といやし草12個の採取である。
これ等は全て人間領なら何処にでも生息している為、容易な依頼と言うことだ。なのでクロエは西の門からグラムを出た。
まだ日は上ったばかりクロエは身体強化を使って街道から外れた近くの森林に駆け出す。森を少し進むとゴブリンの集団が居た。数にして丁度32体だ。
だが内2体は他のゴブリンに比べて2回りは大きく身に付けている物も1体は剣に革鎧、もう1体は弓に革鎧と違う。ホブゴブリンと呼ばれる知能のあるゴブリンの魔物だ。魔族領では此方の方が一般的であり勿論クロエも狩った事がある。
クロエは森を突っ切って来たので当たり前だが物音がする。それに気付くのも当たり前で今は迎撃態勢を整えたゴブリン達と正面から対峙している。ホブゴブリンの1体がクロエに向かって矢を放つのを皮切りに戦闘が始まった。
クロエは飛んできた矢を掴み空間魔法で仕舞うとゴブリン達を斬り捨てていく。弓のホブゴブリンには土魔法で尖った岩を回転させながら飛ばし腹に風穴を空け、剣のホブゴブリンはゴブリン達に混ざり胴体を斬り捨てた。
風魔法で返り血は全て弾いたので服は汚れていない。近くの地面に土魔法で穴を作り、腰の短刀で左耳を切ったゴブリンを入れてく。全て入れたら火魔法でゴブリン達の死体を燃やし、土魔法で埋める。
魔力の関係で放っておくとアンデット化する恐れもあるので持ち込めない死体を燃やすのが冒険者のマナーだ。
切ったゴブリンの左耳を予め買っておいた麻袋に入れマジックバックに入れてからダーティウルフを探しに再び森を進む。
「狼の分際が!退け~!」
「何でこんなに数がいるんだ。」
「本当にしつこいわ!」
「皆さん頼みますよ!」
森の中を探してまだ見付かっていなかったのでいやし草を30個ほど採取していたのだが外の方から人の声が聞こえた。いやし草をマジックバックに入れて街道に向かうと冒険者3人とダーティウルフの群れ16体が戦闘していた。ダーティウルフは中でも一番大きい固体を残し、冒険者1人に5体が間断なく攻撃を仕掛けている。冒険者達は商人と馬車を護っているようで迂闊に手出し出来ないようだ。
「すみません!!助力は必要ですか!?」
何も言わずに助けて後でいちゃもん付けられても困るので取り敢えず聞いてみる。
「子供の出る幕じゃねぇ!!コイツらに狙われる前に逃げろ!」
(言い方に問題はありますがこちらを心配してのことですから許しましょう。)
冒険者の暴言を心の中で許すとクロエは背の薙刀を引き抜きそのまま杖を持った女性冒険者に駆け寄る。
ダーティウルフ達も近付いたクロエに反応して1体が襲い掛かって来るが身体強化を使い、薙刀に魔力を通して魔導石部分で殴打し、女性冒険者に群がる他のダーティウルフに打ち返す。
そのまま女性冒険者に群がるダーティウルフを斬り伏せて声をかける。
「助力は必要ですか?」
「頼むわ。」
驚いた表情をしていたがすぐに返事が返ってきた。クロエの助力もありそれからすぐに片が付いた。最後にリーダー格が逃げ出したが並走したクロエが素手で頭を殴り潰した。
戻ってきたクロエに冒険者達と商人が出迎える。
「助けていただきありがとうございます。」
商人が先にお礼を述べた。
「困ったときはお互い様です。それに打算的なものもありますし、気にしないでください。」
「それはそうとお前は何者だ?」
クロエを怒鳴り付けた冒険者が聞いてきた。
「グラムの冒険者です。」
マジックバックからギルドプレートを取り出して見せる。
「それで打算的なものっつうのはどっちだ?」
商人の方か魔物の方かを聞いているのだ。
「ダーティウルフの方ですよ。依頼の討伐対象ですので。」
「ハーフエルフなんて殆ど見ないがその腕でコイツが必要なのか?」
「私はグラムに来たのは一昨日ですし、冒険者登録をしたのもその時です。まだFランクの依頼しか受けられませんよ。」
「そうか、遅れたがさっきは助かった。」
「さっきも言った通り気にしないでください。その代わりダーティウルフの討伐証明部位の尻尾は欲しいです。」
「構わない。全部くれてやる。此方は助けられた側だ。」
「ありがとうございます。」
「それでアタシはさっきから気になるんだけど嬢ちゃんは幾つ?」
「会う人皆に聞かれるんですけどこの歳で冒険者というのは変ですか?9歳ですけど。」
「9歳じゃあ変だろ。大体の奴は魔法学校を卒業してからか在学中に冒険者登録をするからな。」
そのまま他愛もない話をしてから尻尾を集めて冒険者達と別れた。
グラムに戻ったのは昼前だった。すぐにギルドに行き、受付に向かう。
「依頼を達成したので換金をお願いします。」
「では証明部位の提出をお願いします。」
受付嬢が訝しげに言う。クロエは麻袋を3つカウンターに置く。
「それでは少々お待ちください。」
麻袋を持って奥の部屋に入り、しばらくするとウルクが奥の部屋からやって来る。
「よう、嬢ちゃんいきなり随分な数を持ってきたな。それにホブゴブリンを2体狩って来るとはな。」
「近くの森林で集団を見つけただけですよ。ダーティウルフも冒険者を襲っていたのを手助けしただけですし。」
「だがそれを無傷でやるんだからギルドとしても評価を上げなくてはいけない。と言うことで明日時間は空いてるか?」
「依頼を受けるつもりですけど。」
「それならいい。明日Eランク昇格試験をやる。ある魔物の討伐だから半日もあれば出来るだろうから待っていろよ。」
条件をすっ飛ばしていきなりの昇格試験にクロエは驚いたが都合がいいと考えた。
「それは明日でないと駄目ですか?」
「それはどういうことだ?」
「昼食を摂った後に受けられないですか?」
「くっはっはっはっ、そう来たか!いいだろう俺が試験官を務める。昼食を摂ったらここに来い。すぐに出発してやる。その前に報酬だ。ゴブリンが1体銅貨5枚、ダーティウルフが1体銅貨6枚、ホブゴブリンはついでで1体銀貨2枚、いやし草が1個銅貨3枚で合計が金貨3枚に銀貨7枚と銅貨6枚だ。しっかり仕舞っときな。」
ウルフが麻袋を渡す。
「マジックバックがあるので大丈夫です。」
と言いながら受け取った麻袋を空間魔法で仕舞う。その後昼食を摂りにギルドを出た。