第5話 冒険者ギルド
[木陰の安らぎ]を出て冒険者ギルドに向かう。道中周りから視線が向けられる。受付に行く時は不思議に思ったがエリスの話しを聞いて理由も分かった今はただもの珍しいだけだと腹を括って気にしないことにした。
グラムの中央、冒険者ギルドに着く。建物自体周りと比べると頭一つ大きい。
扉から中に入ると中に居た客から受付嬢まで皆一様にこちらを見る。10人程冒険者がギルド内にいるが受付のカウンターが一つ空いていた。
周りの視線を集め空いている受付まで行く。
「いらっしゃいお嬢ちゃん。今日は何しに来たの?」
「冒険者登録をしたいのですがお願いできますか?」
「ちょっと待っててね。」
そう言って一旦奥の部屋に下がる。少しすると部屋から40代くらいの人間の男が出てくる。
「待たせてすまない。初心者の冒険者指導を受け持っているウルクと言う者だ。早速だが冒険者になるにあたって実力を知りたいのでまずは簡単な試験をさせてもらう。」
「分かりました。場所は?」
「これから案内するから一緒に付いてきてくれ。」
頷いてウルクの後を付いていく。背後では「ハーフエルフとは珍しいな」「あんな小さい子で大丈夫かね?」「ウルクを行かせるなんて落とすこと前提じゃないか。」「いやいや、あの歳で受けるのが間違いだよ。」などと言っているがクロエの耳には入っていない。
(入学試験までにどれくらい稼げるかな?)
と既に受かった後のことしか考えていなかった。
案内されたのはギルド裏の訓練所だった。
「嬢ちゃんの扱う武器は何だ?貸し出すから言ってくれ。」
「薙刀ですがここにありますか?」
「薙刀って何だ?」
「グレイブといえば分かりますか?」
「グレイブとは嬢ちゃんに扱えるのか?」
「流石に大きさによると思います。刃を研いでない物がマジックバックにあるのですがこちらの用意した物でも問題ないですか?」
「それはすまないな。すぐに用意出来るのであれば頼む。」
「分かりました。」
マジックバックから稽古用に作った薙刀を取り出す。
「取り敢えず俺と模擬戦をしてもらう。俺の判断で終了の号令をかけるからそれまで魔法を使っても構わないから打ち合ってもらう。準備はいいか?」
スタンダードに右手に長剣と左手に盾を持って構える。こちらも中段で構える。
「いつでも大丈夫です。」
「では、初め!」
真っ先に身体強化を施し、薙刀を後ろに引いて距離を詰める。その動きに一瞬驚きの表情を見せたがクロエの左切り上げに合わせて盾で防ぐ。
ウルクは体格差も考えて身体強化を使ったクロエでも防げると思って盾を構えたが現実は盾にオーガが棍棒をフルスイングして当てたような衝撃が伝わり身体を浮かす。
クロエが踏み込んだ右足を引きながら身体を捻り、遠心力を利用し右薙ぎを胴に振るう。ウルクは足を地に着けると空かさず身体強化を使い、クロエの右薙ぎに合わせて盾を当てる。
金属同士がぶつかる金属音と火花を散らせるとウルクが号令をかける。
「ここまでだ!」
号令と共にクロエは力を抜く。それに合わせてウルクも構えを解く。
「お前の実力は分かった。冒険者として活動するのに見た目を除けば問題ない。」
「成長期はこれからなんですから見た目は仕方ないです。これでも既に胸は成長し始めているんです。」
「いや嬢ちゃん、そんなことまで話さなくていい。」
「そうですね。失礼しました。」
「では、ロビーに戻ろう……そういえば嬢ちゃんは魔法も使うのか?」
ロビーに向かう途中ウルクがクロエに訊ねる。
「私はグラムに魔法学校に入学する為に来ているんです。魔法が使えなければ話しになりませんよ。」
「それはすまない。だが魔法学校にこれから試験を受けるのか。学校とギルドと両立するのは大変じゃないか?」
「親の仕送りを拒否しているので自分で稼ぐしかないんです。予め言っておきますけど親との関係は良好ですよ。ただ単に自分の力でやりたいことが沢山あるんですよ。」
ロビーに戻ると受付カウンターで待たされる。その間何故か周りの視線が集中していた。
(何かおかしなところがあるのでしょうか?)
マジックバックから鏡を取り出して自分の姿を確認するも特におかしな点はない。
「待たせたな。ではこの用紙に記入してくれ。」
鏡を戻すとウルクが用紙を持ってくる。ウルクが来るの同時に向けられた視線が散った。用紙の記入欄には名前に性別、年齢、種族が書かれていた。
「ハーフエルフなのは分かっていたが9歳とは末恐ろしい嬢ちゃんだな。」
空欄を埋めてウルクに渡すと入学試験受付の女性のように年齢で驚かれた。
「確かに受け取った。ギルドプレートを作るからもうちょっとだけ待ってくれ。」
ウルクが再び奥の部屋に入っていく。するとまた視線が向けられる。
(一体何なのでしょうね?)
流石に少し苛立ちが募り、一番近くのテーブルに一瞬で詰め寄る。
「すみません、私に一体何の用でしょうか?」
目の前に居る20代くらいの男に声を掛けるも咄嗟のことで反応仕切れてない。
「ごめんね、お嬢ちゃん。気にしたのなら謝るよ。」
間を取り持つように奥の席から現れた人間の女性は続けて見ていた理由を説明する。
「あのウルクって指導員は元Aランクの冒険者でね、冒険者登録をする際に実力が足りなさそうなな人を相手に模擬戦で試験して間引きするいわば汚れ役をやっている人なんだけど、お嬢ちゃんは試験を通ったようだからここに居る皆驚いているんだ。」
「要は物珍しさで見ているんですね。でしたら気にするなと声を掛けてくだされば良いでしょうに。」
「おい、お前ら何新人を苛めてる。クロエの嬢ちゃんギルドプレートが出来たから此方に来てくれ。」
タイミングよくウルクが声を掛けてくれたのでギルドプレートを受け取りに行く。
「先ず嬢ちゃんには冒険者ギルドについて説明しなければならない。」
ウルクの説明によるとギルドは王国、貴族、商人等様々な人達から依頼を受け、ギルド内で依頼の種類や難易度等を仕分け、冒険者達に依頼として掲示する。
難易度は上からS、A、B、C、D、E、Fまでにランク分けされ冒険者達は自分のランクまでの依頼しか受けられない。
人間領内に幾つもの支部があり、冒険者であれば何処でも利用出来るそうだ。グラムはそんな冒険者ギルドの本部である。
冒険者のランクは依頼達成の数や依頼主の満足度等総合的な功績でFから順に上がっていく。ランクによりプレートの種類が変わりE・Fはブロンズ、C・Dはシルバー、Bはゴールド、Aはミスリル。Sはオリハルコンのプレートになる。
依頼はランクが高いほど報酬は高くなるが失敗すれば違約金を支払わされる。その額もランクが高ければ高くなるので自分の能力と依頼の難易度を天秤に掛けてしっかりと見極めなくてはならない。
「と言う訳でこれがFランクのブロンズプレートだ。最後にそのプレートに魔力を込めてくれ。」
ウルクから何も書かれてないブロンズプレートを手渡され指示通りにプレートに魔力を込めるとプレートに文字が浮かび上がる。
(これはどういう仕組みなんでしょうか?)
「これでそのプレートは嬢ちゃんの物だ。これからの活動を期待している。」
そんなことを言われてもそれ以上にプレートに文字を浮かび上がらせる魔法について聞いたがウルクも知らないそうだ。
ここに居ても仕方ないので街を見て回ってから宿に戻ることにした。