第4話 冒険者の街 独立領グラム
街を出てからはグラムに着くまで4つの街を通りその都度食料補給と商品の仕入れをして2つ目、4つ目の街で宿を取った。勿論宿代は自分で払った。フレンが宿代を払おうとしたが断ったのだ。
現在4つ目の街を出てグラムに向かっているところだ。これまでの道中幾らか魔物の襲撃もあったが護衛の冒険者達が片付けてしまって手伝えなかった。
結果から言うと何事もなくグラムに付いてしまった。家を出て3日目だ。
(試験日まで6日もある。これからどうやって時間を潰そうか。)
入学試験の受付を済ませてからこの街を見て回るのは当たり前だとしてもやることがないように感じる。
「冒険者の皆さん今回は魔物の襲撃も少く、タイミングよく街に着いて宿を取れたので比較的安全な商売が出来ました。護衛の報酬はギルドの方でお受け取りください。お嬢さんも今回は運が良かったね。いつもは今回の3倍くらい魔物が出てくるのだけどね。」
野宿がないと思ったら進行がスムーズでタイミングが良かったようだ。
(たぶん私の所為なんだろうな。)
クロエは自身が運命神の愛し子なんて称号を持っている為そう考えた。
「それは良かったです。ところで6日間泊まりたいのですが何処かお勧めの宿はありませんか?出来れば安い所が良いのですが?」
フレンはグラムを拠点に商売をしているらしいので聞いてみる。
「それならば[木陰の安らぎ]に行くと良いですよ。グラムの外れの方にあって安くて利便性に欠けますが衣服なんかは良いセンスをしていると評判で店名通りゆっくりと休める設備も充実しているのですよ。」
「それは良さそうですね。急ぎの用もありませんし行ってみますね。ここまで連れていただきありがとうございます。」
フレンに礼を言って魔法学校に向かった。
魔法学校はすぐに見つかったというか街に入った時から見えていた。なので道に迷うことなく門までたどり着いたのだが……
(門から校舎まで遠いですね。)
道のりが直線だがざっと見ると1kmは離れているのではないだろうか。門を通って左右に200m四方の広場があり生徒と思われる者達が魔法の練習をしていたり剣や槍などを振っていたりと精進している。上昇思考のある良い学校だと思う。
その先に学園寮と思われる建物がある。今も入り口から人が出てきてそのまま広場に向かっている。
次に見えたのは教員の研究室がある建物だろう。人によっては教職員用の寮と変わらないだろう。
そして教員の実験用の広場があり、ようやく校舎にたどり着く。寮から通うには問題ないが外から通う人は大変だろう。
校舎の玄関口に入り窓口に顔出す。
「すみませんが入学試験の受付はやっていませんか?」
「あぁ、はいはい今行きますね。」
窓口に来た教員はちょっと小綺麗な若い人間の女性だった。
「待たせてごめんなさいね。こちらが受験用紙で名前と性別、年齢、種族と合格した時の入寮希望の是非を書いて提出して下さい。受験料は金貨10枚になります。」
「分かりました。それとこちらを学園長に渡して下さい。」
金貨10枚と母上と父上に渡された手紙を渡す。
「両親が学園長と知り合いらしいのと手紙の中身の方を確認しても構わないそうなのでお願いします。」
それから受験用紙を書いていく。
「ハーフエルフなんてかなり珍しいわね。しかも9歳って随分若いのね。一応この魔法学校は実力主義だし、規定は年齢について規制してないから、年齢について兎や角言わないけど今まで受かった人達も最低でも12歳でこの学校を合格しているの。だから受かりたいなら全力で頑張るのよ。」
職員が応援してくれた。
「試験官ではないのですね。」
「私は新米の教員ですから。こちらが受験票になります。こちらは無くすと試験を受けられないので注意してください。」
「はい、分かりました。でも準備は万端でここに来ましたので大丈夫です。問題は学園寮の1部屋の広さとルームメイトですね。良い人だと良いのですけど。後は授業内容ですね。最先端の魔法技術を見てみたいです。そういえば宿を取っていませんでしたので、すみませんが失礼します。」
矢継ぎ早に話して用事を思いだし校舎を出る。再び街に出て[木陰の安らぎ]を目指す。
グラムは広い。目的の宿に着くまで歩いて1時間くらいかかった。外れの方にあるだけあって確かに静かである。だが店の中に入って商人が勧めた本当の理由が分かった。
「いらっしゃい。あら、珍しいわね。ハーフエルフのお客さんなんて。しかも若い。君十何歳?」
私と同じハーフエルフの女店主が少し興奮気味に話しかける。
「9歳ですが……」
「あら、9歳なんて予想以上に若いわ。今日は何しに来たの?食事に来たの?衣服を買いに来たの?アクセサリーもあるのよ。」
「今日から6日間泊まりたいのですが……」
「宿泊6日ね。君は私と同じハーフエルフだから割引しちゃう。普通のお客さんなら金貨3枚のところ1枚にしちゃうわ。」
「それで経営は回るんですか?」
「大丈夫よ。こう見えても高ランクの冒険者からの評判が良くて連日ほぼ満室だから。衣服も売れるしね。所謂隠れた名店ってやつなのよ。」
確かに店の雰囲気も良いし、他のお客さんも必要以上に騒がない。隠れた名店というのも頷ける。
「宜しくお願いします。」
即決で宿を取ることにした。
「それじゃあお客さんの名前の記入をお願いね。あぁ、自己紹介がまだだったわね。私はエリス。エリス・シルフィード。この宿の亭主で隣の店の店主もしているわ。」
「私はクロエ。クロエ・アークロードです。グラムの魔法学校の入学試験を受ける為に来ました。短い間ですが宜しくお願いします。」
「宜しくお願いされますねクロエちゃん。案内するから付いてきてね。」
後を付いていき案内された部屋は広かった。天蓋付きのベットに毛皮の絨毯、長い机とソファに大きめの机と引き出しに寄り掛かれる椅子。トイレに浴室と至れり尽くせりのような状態だ。窓からテラスに出れてそれなりの高さから街を一望できる。
「素晴らしい部屋ですけど、これでは金貨3枚でも足りない気がするのですが良いんですか?」
「良いのよ。この世界ではハーフエルフは稀少なんだから。同胞が見つかったことを思えば……」
「そうなのですか?」
「ええ、私がハーフエルフを見たのも指を折る程度のしかないもの。エルフは寿命が無駄に長いから繁殖力が低いうえに、男のエルフからはハーフは生まれないの。只でさえ閉鎖的なエルフだからハーフが生まれるなんて滅多にないのよ。ところで昼食はどうする?別料金だけどここで食べるかい?」
「はい、お願いします。荷物を置いて着替えたら下に降ります。」
「じゃあ部屋の鍵はこれね。今日は腕によりをかけて作らせてもらうよ。」
エリスは気合いを入れて店に戻っていく。
「ハーフエルフはそんなに珍しかったんですね。でもここで出会えたのは単純に嬉しいですね。宿も安く借りられたうえに充実した家具。本当に運が良いですが入寮の件はどうしましょうか?確かに校舎は近いですが休むのならこれほど良い場所は見つからないでしょうし、お金を稼げればここにずっと泊まっていたいですね。」
この宿の3、4軒隣には鍛冶屋はあるし更にすぐ近くに道具屋もある。エルフ領に出る門も近くにあるのでエルフ領の砂浜に行けるのも良い。
鍛冶方面はここに居れば安泰だ。
魔法図書なんかは逆に学校の方が近い。実験なんかは広くて人に迷惑が掛からなければ何処でも構わない。宿代は掛からない。食事代は朝食だけは掛からない。でも1人前だけだと思う。私は5人前は食べてしまうので食事の量が足りない。
(寮のメリットが無くなってきましたね。入寮は取り消しておきましょう。当面の問題はどうお金を稼げば良いかですね。)
武器、防具類は空間魔法で仕舞ってから下に降りる。
「クロエちゃん待ってたよ。注文はどれにする?」
「ダイアウルフのケバブ2つ、バジリスクのホイル焼き、コカトリスの唐揚げ、ソニックポークのステーキ、トライホーンブルのストロガノフ。後はサラダを2つ。」
「随分食べるのね。分かったわ。少し時間がかかるけど大丈夫?」
「問題ないです。ところで私みたいな子供でも力があれば稼げる所はありませんか?」
「何だい、いきなりお金に困っているのかい?」
「ある意味そうですね。今の私の所持金でも半年は持ちますが親に仕送りを頼むつもりは一切ないので学校に通いながら自分で稼げる術がほしいんです。」
「なら冒険者しかないわね。クロエちゃんみたいな美幼女にはそんな危ない仕事をしてほしくはないんだけどね。」
「大丈夫です。魔物退治は慣れてますから。」
「あら、そうなの?冒険者ギルドは街の中央にあるわ。食事の後にでも行って冒険者登録をしてくるといいわ。」
「そうします。それと6日間泊まる予定でしたが5年間に変更します。只流石に5年分は持っていないのでその都度お支払いします。」
「まぁ、そんなに気に入ったの?」
「それもありますが、寮生活のメリットがあまり無いことに気が付いたんです。」
「そうなの?クロエちゃんは魔法を学ぶ為に来たんじゃないの?」
「それも一つの目的です。他には刀作り、魔導石の加工技術、私自身の鍛練とやりたいことが沢山あります。」
「そんなにあったら大変じゃない?」
「大変でも私のやりたいことですから。」
「そう。お待たせ。料理が出来たから持って来たわよ。」
出来た料理をまとめて運んでくる。すごいバランス感覚だ。
「では、頂きます。」
そして出てきた料理に舌鼓を打って一旦宿を後にするのだった。