第1話 クロエ・アークロード 6才(前半)
私、クロエ・アークロードは6才になった。生まれた時はどうしたものかと思ったが今のところなんとかやっていけてる。
正直にいって私は女性であることに開き直った。ゲームのキャラクターメイキングで女性アバターを作って使用しているような感じである。自分で選んだ訳ではないが今の容姿は父上と母上がいうように2人に余り似ていないが間違いなく美幼女である。
凛々とした大きな金色の瞳に艶やかな黒髪をストレートに背中まで伸ばし、母上ほどではないが色艶のある白い肌に目の大きさに比べて小ぶりな顔をしている。私が男であれば持ち帰って愛でたいと犯罪的な行動を起こしてしまいそうなほどである。ロリコンと呼ばれても許容できるほどだ。我が身ながら恐ろしい娘である。
そんな私が今やっているのは武術の稽古である。魔法に対する興味は尽きないがこの世界は平和ではないらしい。種族間の争いは絶えず、人を食らう魔物も蔓延り日常から危険が付きまとう世界なのだそうだ。
この世界クロニクルには人間、エルフ、ドワーフ、獣人、魔族、海人、竜人の7種類の人種がおり、それぞれ自身の国を治めている。私はハーフエルフではあるが父上が魔王である関係か魔族の国に所属している。
その魔族だがどうやら人間とエルフとの関係は悪いらしい。魔族と人間の対立はいわば宿命らしく、人間が目的あって領地を攻めてくるから仕方なく対処しているらしい。エルフとの関係が悪いのはいわば母上の駆け落ちが原因のようだ。
エルフの領地は森で覆われ植物の資源が豊かでエルフ自身も長寿で美形が多いので奴隷や妾としての価値があり人間によく狙われている。エルフ領の世界樹は特に価値があり後を絶たない。その為、領地には幻惑の魔法の結界が張られていてエルフしか通れないようになっている。
エルフは人数こそ少ないが身体能力は人間と変わらないうえ魔法の扱いは人間以上であるため滅多に人間との戦闘で遅れをとることはない。基本的に森の中での戦闘であるので尚更だ。
そんなエルフの母と魔族の父の馴れ初めは父が嫁探しの旅に出たのがきっかけであったようだ。
ドワーフは人間より、エルフは獣人よりの立ち位置で竜人と海人は不干渉である。この世界の勢力は大きく分けると人間、獣人、魔族の3つに別れる。他の種族が魔族に付かないのは魔族が能力的に優れ過ぎているから勢力のバランスを保つ為だ。
魔族は身体能力は獣人並、魔力の扱いはエルフ並、耐久性は竜人並、そのうえ多くの魔族は能力は違えど魔眼を有している者が多い。エルフほどではないが長寿で、人間や獣人ほどではないがエルフより繁殖力はある。
そんな魔族に攻められればひとたまりもないだろう。大陸の勢力バランスを考えて魔王の父は攻めずに守りを堅め、共存の意思を示しているのだが、理解してもらえていないのが現状らしい。
そんな訳で私も自分の身を守るために稽古を付けてもらっている。強すぎるのも考えものということだが元男としては強さに憧れるものである。
3才の頃から自分で鍛えていたが、戦闘技術は経験しないと身に付かないので去年から母上に杖の近接戦の稽古を付けてもらっている。
何故父上ではないのかというとあんなのでも一応魔王なので忙しいのだ。会う度に俺の愛しのクロエちゃんと呼びながら抱き付いてきて面倒だと思うがそれでも魔王なのだ。
たまに父上にも剣の稽古を付けてもらっているが杖の扱いの方に慣れてしまった。そもそも何故杖を使った稽古をしているのかというと魔法を扱うのに杖が適しているからだそうだ。
杖の先に付ける魔導石というものがあるのだがこれは魔石を加工した物で魔法を効率よく使うのに欠かせないものなのである。それだけでなく魔力を通すと硬化するので鈍器としても役立つのである。
魔導石は大きければそれだけ小さな魔力で大きい魔法が使えるのだ。勿論魔導石の質の良し悪しも大きく影響するが魔法を使う者にとっては大きいだけ特をする。
だが近接戦中心の者は杖よりも剣やナイフを使うので魔導石を取り付けるにも大きい物は取り付けられないのである。魔導石がなくても魔法は使えるが出力効率に差がでる。
杖の重要性は分かるが杖だけでは殴ると突くしかない。魔物を倒すには絶対に斬撃が必要だ。打撃だけでは心許ない。実際の戦闘で剣と杖を変えながら戦うのは得策ではない。
「母上、斬撃が中心の打撃と刺突もできる武器はありませんか。」
稽古の休憩中に自分で使ってみたい武器の特徴を聞いてみる。
「すぐに思い浮かぶ物ですと槍はどうですか?」
「槍ですか?でも槍だと刺突が中心になりませんか?」
「後は珍しい片刃が無い剣……え~となんて言ったかしら?」
「刀ですか?」
「そうそうそれはどうかしら?」
「確かに刀なら条件に合いますがあれには大きい魔導石は付けられませんね。持ち歩くにも便利ですし剣の代わりに携帯しておきたいですが。」
刀に大きい魔導石を付けたら刀を振るのに反って邪魔になる。
「大きい魔導石を付けたいのですか?」
「はい、魔法の効率化は絶対に必要です。」
杖の扱いに慣れたので似た感覚の武器を使いたいというのもある。
「本当に魔法が好きで無我夢中なのですね。それなら一層の事杖と刀をくっ付けてみたらどうかしら?」
その言葉を聞いて最初に思い浮かんだのは槍だった。
(先程母上が言ったのだから槍ではないでしょう。槍の刃は短い剣のような形だから、あれ?日本に似た武器があったような……確かあれは)
「薙刀でしたか?」
「薙刀?」
思わず口に出てしまった。だが条件にピッタリだ。
「そうです。薙刀です。理想的な武器です。母上、早く稽古の続きをしましょう。」
「吹っ切れたみたいですね。では、続きを始めましょう。」
それから稽古が終わり、日課になる父上お気に入りの鍛冶屋に向かう。
「ゴドウィンおじさん。今日も打たせてください。」
鍛冶屋の主のドワーフ族のゴドウィンで私の鍛冶の師匠である。
「おぉ、クロエちゃん今日は随分気合い入ってるね。」
「私の武器を作りたいのです。」
記憶にあった薙刀の製法を頭から引っ張りだす。
(とはいっても刀身は日本刀の製法と変わらないのですね。)
今年から始めた鍛冶修行で今まではナイフと剣しか作った事がないがゴドウィンには筋が良いとよく誉められている。そこで改めて日本刀の製法知識を引っ張ると砂鉄から玉鋼を精製して皮鉄と芯鉄に分けて製造するところから始めないと日本刀が出来ない。
(製法過程が多くて面倒ですね。感覚を試すなら西洋の刀、サーベルの刀身を付けた方が早いですね。)
将来的に刀は作りたいので練習はするが近日中に使うには時間が足りないし、苦労して作った物を練習で使い潰してしまうのでは勿体ない。それならば早く作れる物を使っていた方が良い。
先ずはサーベルの刀身を薙刀に合う長さで作った。最終目標は日本刀の刀身を付けたしっかりした薙刀であるのでサーベルに裏刃は付けないようにした。
サーベルの刀身は置いといて鍔を作り、刀身を付けるための木製の柄を作った。刀身を固定する目釘と魔導石を取り付ける石突の部分もしっかりと加工して中々の出来映えだと思う。
「クロエちゃんは随分変わった槍を作るのかい?」
「槍ではなく薙刀と言うんですよ。」
「ふむ、槍と違って斬撃に重点を置いた長柄の武器か。刀身とのバランスのいい実用性のあるいい武器じゃないか。ハルバートじゃあ叩き斬る感じになってしまうからな。ただこんな細い刀身じゃあすぐに使い物にならなくなってしまわないか?」
ゴドウィンが私の作業を見て弱点になりそうな部分を指摘する。
「本来はこんな形だけ似せた刀ではなくしっかりと鍛え上げた刀を付けるんです。そうすると本当によく切れるんですよ。」
「それは面白そうだな。その刀の製法はここにある設備で出切るのか?」
「設備が足りない以前に魔族領でには海がないので製造は難しいですね。」
魔族領は海人以外の領に囲まれているので海に面していない。刀を作るには砂浜から砂鉄を集めるところから始める。海の無い魔族領では作る事が容易ではない。
そう説明するとそうか、と残念そうに呟いた。