よごれ
どうしようもなくなった俺は、深夜に散歩に出かけた。
台風が通過しかけている夜は変に生温かい空気が満ちていて少し気持ち悪かったけれど、不思議と落ち着かない感じはしなかった。人通りは少なく、くろぐろと濡れたアスファルトが街灯を反射して、深夜なのにあかるい。頭にかけたヘッドホンからは、今の俺の気持ちとは真反対の、とびきり明るい歌声が聞こえていた。
部屋から五分とかからないところまで来た時、子猫が目に入った。古びたアパートの入り口に、ただ一匹で座ってこちらを見ている。黒とねずみ色の混じった毛を持って、右目が不自然に小さい猫だった。俺が少し近づくと、気にしてないよ、とでも言いたげな仕草を見せつつも、すぐにでもたちあがれるように軽く腰を浮かせていた。アパートの電灯が猫の顔を照らす。右目には、なみだが溜まっているように見えた。
右目の傷をじっくりと観察しているうちに、その猫がひどく汚いものに見えた。
汚い猫だ、と思う自分に気がついた時、また一つ俺がどうしようもなくなる材料を増やしてしまったと思い、ますます途方に暮れてしまった。くろぐろと光るアスファルトは、まだ乾きそうにない。
夜の散歩の出来事でした。