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ハルと異世界の地下迷宮  作者: ツマビラカズジ
第一章 始まり
9/169

#009 騎士団

 俺とロンは朝から槍の講習を受けている。

 受けると言ってもロンと掛かり稽古をしているだけだ。

 相手の隙を突いて決められた型で攻める。

 

 だが、これが辛い。

 地味に辛い。

 エイブが止めるまで延々と続けられる。

 まぁ、ロンと組んでいるからまだ良い。

 先日、エイブとやった時は少し気を抜くと鋭い突きを放ってきた。

 防具も無いのに突きとかありえんだろ。

 と言うか、いい加減止めろ。

 掛かり稽古と言えば普通は一回一分が最長だろ? なんで三十分以上休みなくやらせてるんだ。

 

 ……お願いします。もう、止めて下さい……

 

「止め!」

 

 この時ばかりはエイブの声が神の如く聞こえた。

 俺とロンは倒れ込んだ。

 俺は重い槍を休みなく打ち込み、ロンはそれを受け続けたのだ。

 全身の筋肉が張っているのが分かる。

 顔を動かすことなく周囲を見回すと、同じ光景が広がっていた。

 だが、エイブはそれを他所(よそ)に言葉を紡ぐ。

 

「攻守交代! 始め!」

 

 何処の世界でも指導者は加虐嗜好(ドエス)だ……

 

 

 

 何度目かの掛かり稽古を終え、休憩となった。

 俺も含めた見習い探索者はその場にへたり込む。

 各々水球を出し、水を飲み始めた。

 冷えてはいないが喉を通る水が心地良い。

 暫くすると、北大通りからざわめきが近づいてきた。

 

「何だ?」

 

 俺はロンの顔を見るが、ロンも首を横に振る。

 ざわめきがどよめきに取って変わり、やがて歓声となった。

 その頃には人々が口にする言葉で何が起こっているか分かった。

 観衆に見守られる中、騎士団が行進していたのだ。

 

 騎士団が広場へ下りる緩やかな坂を整然と進んで来る。

 俺はクノスの騎士団を初めて見たが、揃い? の鎖帷子と庇の無い半帽タイプのヘルメットに似た金属性の兜を被っていた。

 右手には槍、左手には手綱。

 腰に長剣を佩いている。

 馬の尻鎧にはカイト・シールドが取り付けられていた……従士が騎士の盾を持たないんだな。

 

 しかし、何と勇壮な事か! 俺は揃いの武具を身に纏う騎士の姿に惚れ惚れと見入った。

 何かの映画で見た十字軍に似ているな。

 だが、亜熱帯気候のここでは酷く熱いのではないだろうか?

 ……ロンには悪いが俺に騎士は無理だ。

 見ているだけで汗疹(あせも)が出来てしまいそうだ。

 剣道の防具とかの次元では無い気がする。

 

 ロン……頑張れ。

 

 騎士の後からは従士の一団が通る。

 こちらもお揃いの武具だ。

 騎士との違いは盾と兜の表面が革である事だろうか。

 それでも十分立派に見える。

 

「ハル、あれは第二騎士団だ!」

 

 ロンが疲れも忘れて立ち上がり、声を張り上げる。

 疲れを忘れたのはロンの尻尾もだ。

 扇風機の羽よろしく回っている。

 その後ろにいる俺はとても涼しい。

 あぁ、もっと、もっと回して!

 

 ……そんな事より、第二騎士団か。

 と言う事は、第一騎士団があるんだな。

 他にもあるのだろうか? 俺は良い機会だと考え、行進が通り過ぎ次第、ロンに聞いてみることにした。

 

 

 

 

「格好良かったな、ロン。俺に騎士団の事教えて欲しい」

 

 ロンは自分の事を褒められたかのように嬉しそうだ。

 ロンは嬉々として教えてくれた。

 

 騎士団は主に四つある。

 第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団、教導騎士団だ。

 第一騎士団は騎士団の最精鋭。

 領主とその家族および居城を守るのが主任務だ。

 ……城にいるのは王様かと思ってた。

 一領主なんだな。

 そもそも、この国と言うか、この世界? はどういう統治機構なんだ? 

 領主が出陣する場合、当然戦場にも出る。

 

 第二騎士団はクノスの城壁外を担当する。

 その範囲は広く、他領との小競り合いを含む(いくさ)からモンスター退治、隊商の護衛、領内の警邏(けいら)まで行う。

 その為、最も団員が多い。

 

 第三騎士団は城壁内の警備、治安維持を担う。

 クノスの至る所にある詰所にいるのがそうらしい。

 彼らも騎士だったのか。

 普段は軽装だが、戦場に出る場合は、行進した騎士団並の装備になる。

 

 最後の教導騎士団は騎士団に入ったばかりの従士を育成を担っている。

 ロンが騎士団に入った場合、最初はここに配属される。

 

 各騎士団には団長が一名と副団長が二名、必ず存在する。

 各副団長の下に大隊長もしくは隊長が五名。それ以下は騎士団によって異なる。

 

 第一騎士団の場合、大隊長の下に十名の騎士が配属される。よって、第一騎士団は最大で百十三名となる。

 第二騎士団の場合、大隊長の下に十名の小隊長、小隊長の下に五名の騎士が配属される。第二騎士団は最大で六百十三名だ。

 第三騎士団の場合、大隊長の下に十名の小隊長、小隊長の下に二名の騎士が配属される。第二騎士団は最大で三百十三名だ。

 教導騎士団の場合、隊長の下に二名の従士が配属される。最大で三十三名。

 

 何気に千人以上の騎士団だ。

 この国と言うか、この領地はかなり裕福なのだろうか? 装備品や馬も全て支給品らしい。

 酷税でも無い。

 金鉱でも持ってるのかな?

 

 今回、第二騎士団と教導騎士団は他領と浅い川の中洲を巡る争いに端を発した戦に出るらしい。

 川中島の戦いだな。

 うちは騎馬が多いから武田軍か。

 ……痛み分けか。

 第三勢力が現れて滅亡とか無しにして欲しい。

 織田・徳川連合とかあり得無いわ。

 

 それにしてもロンは明らかに騎士団に憧憬を抱いている。

 ロンが騎士団に入りたいのは決して生活の事だけを考えた訳では無さそうだ。

 

「ロンはどうして騎士団が好きなんだ?」

 

「……父さんが第二騎士団の騎士だったんだ」

 

 聞かなきゃ良かった。

 ロンの顔に憂愁(ゆうしゅう)の影が差している。ロンに辛い事を思い出させてしまったようだ……

 ロンが俯きながら話を続ける。

 

「父さんはいつも騎士団の仕事で忙しくしていてね。たまにある休暇では家でよく昼まで寝ていてさ。そんな時は必ず僕や妹が父さんの上に乗り、無理やり起こしては酷く怒られたんだ」

 

 ロン……

 

「父さんが休みのある日、近くでコボルトの集団が見つかってね。それを父さんがたった一人で殲滅したと聞いたときは本当に嬉しかった。多分、友達にも暫く自慢してたから、子供心に誇らしかったんだと思う」

 

 ……止めてくれ

 

「三年前、父さんは第二騎士団と第一騎士団の合同演習に参加していたんだ。父さんは小隊長で、所属する大隊は遊軍だった。領主を守る第一騎士団の正面を迂回して後方から襲う役割だった」

 

「大隊が迂回路を進み、後少しで接敵すると思われた時に斥候が見つけたんだ、ゴブリンロードが率いるゴブリンの集団を。奴等は第一騎士団を狙ってた。父さんの大隊は斥候を第一騎士団に放ち、残った騎士は第一騎士団を守る様にゴブリンの集団に突っ込んだ。第一騎士団には領主様も参加していたからね。当初は優勢を保っていたみたいだけど、ゴブリンの方が多かったらしくてね。その後は……」

 

 ロンの瞳が濡れていた。

 

「辛うじて生き残った人が言うんだ、父さんは立派だった、ゴブリンを何十匹も倒して、ゴブリンロードにも手傷を負わせた。誇りに思えって。でもさ、僕はそれを聞いても全然嬉しくなかった。全然……父さんともっと一緒にいて、色々教えて貰いたかった。エイブとやる掛かり稽古も本当は父さんとやりたかったんだ……」

 

 ロンの嗚咽が遠くで聞こえる。

 父親と少しでも長く一緒にいたかった、か。

 この世界に召喚される直前、エミは妊娠していた。

 特に問題が無ければ無事生まれるだろう。

 だが、俺はこのままでは我が子と一緒にいてやる事も出来ない。

 何かを教える事も無い。

 自転車に乗る練習も、キャッチボールも習いごとの送り迎えも、うるせークソ親父って言わせてやることも出来ない。

 ロンと同じ悲しみか、それ以上の物を我が子に……帰ろう。

 何としてでも家族の元に帰ろう。

 

「ごめんね、ハル」

 

 ロンが泣きはらした目で言う。

 俺はロンに対して気にしてないと態度に表し、

 

「いや、そんな事言うなよ。お互い頑張ろうな」

 

 と言うのが精一杯だった。

 

 

 

 槍の講習を終え、正午の鐘がなる頃、俺とロンは地下迷宮の入口にいた。

 魔法の同時行使を練習をする為だ。

 前回は地下一階の入り口にいた為、度々人が来て集中出来なかった。

 今回は入口から少し離れた部屋を見つけてそこでやる事にする。

 当然、そこに至る道には大ナメクジがいる訳で、軽く屠りながら進んでいった。

 

 見つけた部屋は一辺が十メートル程の正方形をしていた。

 その部屋にはもう一つ扉がある。

 地下四階でドリス達と会った部屋と同じ造りだ。

 俺とロンは互いに距離を取り、右手に魔法円を出す。

 ここまでは問題ない。次に左手に同じ魔法を意識する。

 左手の前に魔法円が表れると同時に右手の魔法円が消え去る。

 

 ……駄目だ。どうしても消えてしまう。

 

 左手に意識が移る際の間が空きすぎているのが悪いのだろうか?

 右手に出したら、(すぐ)に左手に意識を移す。

 パッ、パッって感じで。

 それならどうだろう。

 もし駄目でも色々とタイミングを変えてやってみよう。

 繰り返しやれば何かが分かるかもしれない。

 

 

 

 ロンと一時間ほど試行錯誤したが、全く成功しない。

 なんだろう? 段々やる気が無くなってきた。

 だってしょうがないんです。

 一度も成功しないどころか、上手く出来る気配すらないんですから。

 才能でしょうか? ええ、確かに私に才能はないでしょう。

 だって魔法の無い異世界から来てるんですから。

 遺伝でしょうか? それもあるかもしれません。

 ご先祖様に魔法が仕えた人はいませんから。

 ……だが、ロンは違う。この世界で生まれて、この世界で育った。

 それなのに出来ない。

 多分、根本的な所で間違っているのだろう。

 

 俺はロンに声を掛け、その事を相談しようとした。

 まさにその時、ロンが口を開いた。

 

「誰かが来た!」

 

 ロンが俺達が入ってきた扉を指差す。

 扉が開かれ、二人の男が入ってきた。

 その姿は獅子人族と虎人族を表している。

 いつか見た二人だ。

 その二人が俺達を睨む。

 いや、目つきが鋭いのでそう見えるだけかもしれない。

 だが、俺の陰嚢(いんのう)が縮みあがった。

 マジで怖い。食われそう。

 俺は蛇に睨まれた蛙だ。

 いや、神を前にした気分だ。

 すると、恐れ多い事に獅子人族の男が俺達に声を掛ける。

 

「お前達、大ナメクジの色付きを倒した者か?」

 

 俺とロンが大きく何度も首肯する。

 威圧感が半端ない。

 すると、虎人族の方が、

 

「失礼、驚かせるつもりは無かったのですが。彼はマリオン。私はタイタス。色付きを探していまして」

 

 虎の人、もといタイタスはいい人や。

 物腰が柔らかくて、見た目とのギャップがいい!

 ライオンの人、マリオンは……期待を裏切らなかった。

 常に強気な感じだ。

 しかも、傍から見ても苛々してる。

 

「なかなか見つからなく、困っていた所です。やはり、地下一階では難しいのかも知れませんね」

 

 タイタスが困り顔だ。

 何とかして上げたくなる。

 俺はつい、口を開いた。

 

「地下二階の大ヤスデと地下三階の大ムカデの色付きも俺達が倒しまし……」

 

「何だと!」

 

 全てを言い終わる前にマリオンが……タイタス、助けて!

 助けを求めて視線を移したタイタスも……怖いです。

 

「……仕方ありませんね。マリオン、今日は適当に狩って切り上げましょう」

 

 何だか圧迫感が凄い。

 本当に同年代なの? ロンなんかは完全に垂れ下がった尻尾を両手で抱きしめてるぞ。

 タイタスが背を向け、部屋を出ようとするが、マリオンが何故か俺達に近づく。

 

「お前達には負けん! 騎士に成るのは俺達だ!」

 

 ……ライバル認定された? いやいや、俺は騎士にならんし。

 お前達に勝てる気しないし。

 どうぞ、どうぞって感じだし。

 

 だが、ロンは違った。

 

「お、俺も騎士に成りたいんだ!」

 

 格好いい! なんかの主人公みたいだ。

 二人の視線が交わり火花が飛び散る……様に見える。

 これもまた青春。

 ふっ、若いな。

 なんて思っていると、視線を感じ、突然背筋が冷たく感じた。

 その方へ眼を向けると、タイタスが俺を睨んでいる。

 なんでやねん……意味が分からん。

 

 

 

「何だか疲れたね。僕達もそろそろ帰ろうか?」

 

 ロンが力なく呟く。

 俺も同じだ。体が(だる)く感じる。

 明日に備えて休むことも大事だ。

 そうだ、今日はもう休もう!

 ロンに同意しようとした矢先、

 

「また、誰か来た!」

 

 ロンが反対の扉に向けて注意を促した。

 もう、勘弁してくれー、と思うも、扉が開くのを注視する。

 すると、また二人の男が現れた。

 今度は俺達と同じ程度の身長が一人と、やや低いのが一人だ。

 背の高い方が俺達に手を振る。

 

「やぁ、奇遇だね」

 

 オバダイアだった。

 彼は朗らかに話し掛けて来た。

 ザドクは両手を大きく振って近づいてくる。

 実に友好的だ。

 俺達は互いに何をしているか情報交換した。

 彼らは暇だったので大ナメクジを狩っている所だと言う。

 特に色付きを探している訳でも無かった。

 

 ロンは俺達が魔法を同時に扱える練習をしている事を話した。

 それだけでなく、実際に失敗する所を見せる。

 すると、オバダイアが、

 

「これの事?」

 

 と言って、二つの魔法円を出し、火球を同時に飛ばした。

 俺とロンは目を点に、口を大きく開けて驚くことしかできなかった。

 

「ど、どうやって……」

 

 俺は(ども)りながらもやり方を問う。すると、

 

「簡単だよ、片方の手だけでなく、両手に魔法円が出ているのを想像してみて」

 

 ロンと俺は言われた通りやってみた。

 その通り、簡単にできた。

 同時に火球を飛ばす。……問題なく出来た。

 ……一体、今までの練習は何だったのだろう? 全く意味が無かったのではないだろうか? いや、()にあらず。

 必然だったのだ。

 それがあったからこそ、今がある。

 そう思うことにした。

 

「ただ、通常より魔力を多く使うらしいから気を付けてね」

 

 オバダイアが忠告をする。

 お前、いい奴だ。

 俺達、友達。

 

「ところで、お前たちはこれからどうするんだ?」

 

 ザドクが俺達と一緒に駆除に行かないかと言う。

 俺達は先程までは帰りたいと思っていたが、魔法の同時行使が出来て気持ちに余裕が出て来た。

 ロンと相談し、彼らに同行する事にする。

 

 

 

 その後は実に楽しい時間だった。

 オバダイアとザドクが互いに掛け合う様はまるで仲の良い兄弟の様であった。

 俺とロンはただただ、笑うばかりだ。

 時に美形エルフのオバダイアらしからぬ、下世話な話を始めた。

 要するに下ネタだ。

 

「二人は経験あるの?」

 

 何が? とは聞かない。

 話の流れで分かる。

 俺は勿論ある……が、この世界では無い。

 この場合どっちだ? 俺が思い悩んでいるとオバダイアは勝手に推測した。

 

「二人とも無いんだ」

 

 えっ、ロンも無いの? ロンの顔を見ると赤くしている。

 純情か!

 ただ、このまま色々聞かれると不味いかもしれない。

 俺は早々に話を変える。

 

「ふ、二人はあるのか?」

 

「俺達はあるぞ」

 

 ザドクの即答にロンが大層驚いている。

 オバダイアとザドクは胸を張って自慢げな顔をしていた。

 と言う事は、二人はこの世界の平均より若干早いと言う事なのだろうか? 成人が十五歳と言う事もあり微妙な線だな。

 現実問題として彼らは大人の階段を登り切った訳だ。

 ……羨ましい。

 俺とエミがお互いの初めてを捧げあった時は二十歳だった。

 当時としても随分遅い初体験だった。

 長く付き合ってはいたが、俺が鼻息荒く迫ってもエミが力ずく(デンプシーロール)で拒んだんだっけ……

 念願かなって結ばれた日は、互いの両親に結婚の意志がある事を伝え、了承を貰った翌日だ。

 一日で避妊具を一箱使い切ったのは今ではいい思い出となっている。……エミには申し訳なかったが。

 若気の至りと言うやつだな。

 

 俺は大学を出て、親のコネで地元の公務員となった。

 エミは数年遅れて大学を卒業し、同じく親のコネで地元の市民病院に。

 幸せな日々、後はただただ一緒に年を取るだけだと思っていた……

 

「なぁ、ハルはどう思う? ロンは最初こそ結婚相手と経験したいんだって」

 

 結果的には俺と一緒だな。

 であれば、助言できる。

 

「俺はそれもありだと思う。ただ……」

 

「ただ?」

 

 ロンが俺の言葉に真剣に耳を傾けている。

 

「ただ、女には理想の初体験と言うのがあって、なるべくならその希望に沿った方が良い」

 

「何でだ?」

 

 ザドクが聞く。

 ふむ、経験のある男であっても無駄な知識にはならない。良く聞いとけ。

 

「何故ならば、結婚後、事あるごとにあの時は酷かった、もう少し優しくして欲しかった。変態、鬼畜、下手くそ、早過ぎとか言われるからな」

 

 ……おい、そこで引くなって。

 ドン引きじゃないか。

 初めてで早いのはしょうがないだろ? え? そんな事無いの?

 

「と、ところで探索者に女は少ないが、オバダイアとザドクはどこで経験したんだ? 娼館か?」

 

 再び話を変える。

 しょうがないだろ?

 俺の言葉に二人は顔を赤らめる。

 おいおい、今更じゃないか。

 如何やら二人とも、探索で得た有り金を全てつぎ込んで娼館で心ゆくまで楽しんだらしい。

 税金は今年に限り家が出してくれるそうだ。

 持つべきものは子供を助ける優しい親だな。

 

 女の探索者はやはり男に比べて少ないらしい。

 基本、女は家と家の結びつきを強くする為に他家に嫁入りする。

 だが、何事も例外はある。

 それがドリスであり、百年前の女大魔導士だそうだ。

 彼女たちにはそれぞれ理由はあったが、女大魔導士はただ、そこに地下迷宮があるから、と言っていたらしい。

 ……マロリーか!

 

「でも、ロンは騎士団に入るんでしょ? だったら、早くしないと娼館で捨てる事になるよ」

 

 なん、だと……騎士団に入ると先任の騎士から娼館を奢られるらしい。

 羨ましい……俺の時は自腹だった。

 遠く離れた川崎で男だけの飲み会って変だと思ってたんだよな。

 それに、マットは苦手だ。

 あれは無くてもいいんじゃないかな。

 因みに、一緒に住んでいたエミにはばれた。

 ボッコボコにされた。

 

「……ロン、ばれたときの事を考えておけよ」

 

 俺の悲壮感漂う忠告に、ロンは大きく頷いた。

 

 その後、俺達は他愛もない話をしつつ、地下迷宮を進んだ。

 ドリスは探索に嵌って婚期を逃して焦ってるとか、女探索者はその傾向が強いとか、強い女に背中を守られるより、か弱い女を守りたいよねとか。

 エミが聞いたら鼻で笑うだろう。

 むしろ、(へそ)で茶を沸かしてしまいそうだ。

 ただ、俺は彼らに本当は言いたかった。

 尻に敷かれるのは無上の喜びだと言う事を……

 

 

 

 俺達は午後六時過ぎに地下迷宮をでた。

 その足で探索者ギルドに向かう。

 無論、換金の為だ。

 

 プライベート? で駆除しても問題なかった。

 俺は大銅貨十六枚の収入得た。

 初日より若干少ないが、数時間の働きだと考えれば十分だ。

 俺達は仲良く蒸し風呂に行く。

 

 オバダイアとザドクは綺麗に剥けていた。

 然もありなん。

 経験者だからな。

 俺のは半分被っている。

 このままでは病気になるかな?でも、不思議と性欲はわかないし、無理にするのもなぁ。

 後、大きさは……俺とロンはオバダイアに勝ち、ザドクには完敗した。

 ザドク……恐ろしい子。

 

 蒸し風呂を出てから俺達は再び探索者ギルドに戻り、酒を飲むことに。

 俺は値は大銅貨三枚するが、少しきつめの酒があると言うのでそれにした。葡萄酒を蒸留したものだと言う。

 ブランデー?

 喉を通る時、強く焼ける感じがする。

 香りもよく、いい酒だ。

 俺がうまそうに飲んでいると、他の三人も気になったのか頼んでいる。

 俺ももう一杯頼むことにした。

 持参したマグカップに酒が注がれる。

 澄んだ琥珀色だ。香りも十分する。

 僅かに香る木の香り。

 美味い。

 

 だが、ロンとオバダイアには少々強かったようだ。

 むせ返っている。

 ザドクはいける口だ。

 一口で飲み干した。

 流石はドワーフと言ったところか。

 ただ、後で聞くとドワーフだから酒に強い訳では無いらしい。

 個人差とのことだ。

 

 その後は互いの将来の予定を話し合った。

 俺は探索者を続けること。

 理由は深層にある魔法に興味があると言う事にしておいた。

 嘘ではないしな。

 ロンは父親と同じ騎士になる事。

 ラナと結婚するとか言ってたが……ラナはどうなの? まぁ、先日の様子では脈はありそうだが。

 

 オバダイアは家業を手伝うか、探索者を続けるか分からないと言う。

 家業を手伝うと奉公人とあまり変わらないので、独立するのも考えているが資金に問題がある様だ。

 長命だから探索者を続けながら家業も手伝いつつ考えるらしい。

 

 ザドクは暫く探索者を続けるらしい。

 鍛冶を継ぐのはその後だ。

 ……やっぱりドワーフは鍛冶職人になるのか。と言ったら、別にドワーフだからでは無く、親がやっているからとの事。

 同じドワーフでも仕立て屋もいるし、治療師もいるし、大工もいるし、騎士もいるらしい。

 種族によらず職業選択の自由だな。

 素晴らしい!

 

 簡易宿泊施設に戻り、それぞれの部屋に行く為二手に別れる。

 去り際、

 

「明日の健闘を誓って」

 

 とオバダイアが言い、拳を前にだした。

 ザドクも習い、ロンも続いた。

 俺も拳を出す。

 互いの拳が当り、重なり、最後は押し合う。

 

 誰からともなく笑い声が上がり、笑い合いながら

 

「お休みなさい」

 

 と言葉を交わす。

 俺がこの世界に来て一番楽しい夜だった。

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