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ハルと異世界の地下迷宮  作者: ツマビラカズジ
第一章 始まり
7/169

#007 生活費

 昨日と同じく、朝六時を知らせる鐘の音で目が覚めた。

 ロンも同じらしく、共に衣服を纏い、下に下りる。

 顔を洗い、朝食を摂り、歯を磨く。

 さて、問題はこれからだ。

 汗を掻くような事はしたくない。

 蒸し風呂で服と体を洗いたくなるからだ。

 では、どうするか?

 資金計画を立てようと思う。

 資金の流れを把握し、突然の(金銭的な)イベントに落ち着いて対処する、キャッシュ・フロー経営だ。

 ……はい、家計簿の事です。

 この世界の言葉では何と言うのだろう?

 

「ハル、この後どうする?」

 

 うーん、何と言えばいいだろうか。

 適切な単語が分からない。

 

「俺はお金の計算する、十二月から一人で生活」

 

「ああ、資金計画ね。ハルはクノスの事知らないよね。俺も協力するよ」

 

 ロンはええ子や。

 こんな俺の事を助けてくれる。

 エミ、俺、友達が出来たよ。

 まぁ、それはいいとして、ロンと一緒に大雑把な年末までの計画を考えた。

 

 まず、地下迷宮への探索は今と同じ、二日に一度とする。

 急に二勤一休にして、何かあっては怖い。

 慣れるまでは今と同じ間隔で地下迷宮に入った方がいいだろう。

 見習い探索者期間の収入は一日当たり大銅貨三十枚とする。

 早朝から入れば最低でもこれぐらいは稼げるだろう。

 卒業? 後は一日大銅貨五十枚。

 ロンに聞いても最低それぐらい稼げるようだ。

 

 次に生活に掛かる費用だが……一泊が大銅貨五枚。

 それに食事と蒸し風呂で大銅貨三枚。

 合計一日大銅貨八枚。

 だが、余裕を見て一日大銅貨十枚と考えた方が良いだろう。

 

 そうすると、年末の時点では……大銅貨九百五十枚を所持している計算になる。

 ……その量を毎日持ち歩けないな。

 探索の妨げにもなりそうだ。

 どうしたら良いだろうか?

 

「お金重い。皆どうしてる?」

 

「裕福な人や、家を持たない人は貸金庫を利用している。ただ、銀貨程度は預けない。利用料の方が高くなるね」

 

 貸金庫か。

 空いてるだろうか?

 元の世界でも貸金庫の解約待ちになった事もあった。

 それに利用料金が問題だ。

 暫くは銀貨に換金して持ち運び出来るようにすれば良いか。

 そう言えば、以前から疑問に思っていた事が有った。

 

「槍、短剣は探索者ギルドに返すのか?」

 

「いや、第十層を踏破した者には与えられる。多分、痛んで使えないからかな」

 

 なんと! 槍を買い替える必要があるのか! それは困る。

 槍の代金は計画に無かった。

 幾らぐらいするのだろうか?

 

「槍の値段は?」

 

「同じ程度の物で銀貨四、五枚かな」

 

 最低が大銅貨二百枚か! これは厳しい! 年明け暫くは今のを使い続けられるよう、大切に扱おう。

 そんな事で長持ちするかな?

 

「ハルは大変だね。騎士団だと武器や防具は支給されるから資金繰りは楽だけど……」

 

 騎士団に惹かれる。

 物凄く惹かれる。

 今ならまだ間に合う。

 騎士団に……いや、エミに会いたい。

 逃げちゃだめだ。

 どうする? うーん。

 

「ロン、要らなくなる槍、貰えないか?」

 

「……ごめん、見習い期間に使った槍は大切に保管する習いなんだ……」

 

 そうなのか……困ったな。

 何とかして稼ぎたいが、焦ると死ぬ。

 それに、いつまでも一張羅では困る。

 階層が深くなれば防具だって必要になるだろうし。

 

 ……悩んでいても仕方がない。

 取り敢えず、一度は武器や防具を見ておこう。

 丁度朝九時の鐘が鳴った。

 開くのが遅い商店も開く時間だ。

 ロンを誘って見に行ってみよう。

 

「ロン、武器と防具見に行かないか?」

 

 騎士団に入ると武器や防具は支給品だ。

 とは言え、そこは男の子。

 前から気になっていたようだ。

 ロンは二つ返事で答えた。

 

 

 

 武器や防具を取り扱う店は、広場から東に延びる大通り沿いに多いらしい。

 これはこの都市の南東に鍛冶屋が集中しているからだろう。

 その逆かもしれないが。

 その中の一つ、『マクミラン』に入った。

 店の中は明るく、見易いように陳列されている。

 店の入り口に価格の安い物が、奥に行くほど高くなっている。

 まぁ、普通だな。

 数人の犬人族が接客している。

 ロンがその中の一人に声を掛けた。

 体が大きい。

 犬種は秋田犬(あきたいぬ)だろうか?

 

「マクミラン伯父さん、おはようございます」

 

 ロンがあらたまった挨拶をしている。

 俺もそれに倣う。

 

「初めまして、マクミランさん」

 

「おはよう、ロン! それに、ご友人殿」

 

 マクミランは愛想の良い笑顔で答える。

 それにロンの親戚か。

 俺は直にこの店を気に入った。

 

「彼はハルと言います。二日目で黄色になりました!」

 

 ロンが俺を紹介してくれる。

 その紹介はどうなの?

 

「それは凄い! 将来有望だな! 是非、うちの店を利用して下さい!」

 

 おお! ロンの紹介で正解だった。

 それにしても随分と驚かれている。

 二日目でランクアップとは大したものなんだな。

 俺はロンの事にも言及した。

 

「ロンも三日目で黄色になりました。同期で二番目です」

 

「本当か、ロン! お前、騎士団に入れそうなのか!」

 

 おお! 驚いている、驚いている。

 俺の時より驚いている。

 やはり親族だと、また違うんだね。

 その後しばらくは店の片隅でこれまでの探索についてロンが説明した。

 マクミランも且つては探索者だったらしく、色付きの事も知っていた。

 だからこそ、三つの階層でそれぞれ色付きに出会った俺達の事は心底驚いていた。

 

「そんな事もあるもんだな……だが、ロン! これはチャンスだぞ! 必ずものにしなきゃならん!」

 

 ロンもそれに応じた。騎士に必ずなってみせると。

 その時、店の奥からマクミランを呼ぶ声がする。

 

「私はここだ!」

 

 マクミランが呼ぶと、愛らしい犬人族の女性が現れた。

 歳は……十四、五。ロンと同年代に見える。

 犬種は柴犬、白柴だな。

 尻尾がくるっと丸くなっている。

 そこはロンと同じだ。

 

「彼女はラナ。うちで花嫁修業中だ」

 

 マクミランの言葉に、俺は呟いた。

 

「あぁ、結婚が決まっているんだ」

 

 それを聞いたマクミランとロン、ラナが俺を見て可愛そうな顔をしている……大きな間違いをしたようだ。

 

「……ハル、結婚が決まっても困らない様にしてるんだ」

 

 そうなの? ……そうだとして、何でそんな顔するの?

 

「少し常識が無いのね」

 

 ……ラナさん、もう少し優しく言って。

 その後、ロンが俺の境遇を思い出してくれたようだ。

 記憶喪失で行き倒れ、レンに拾われ、見習い探索者となる。

 

「そう言えばあなた……何処かで見た事が有るわ」

 

「何! 俺の事を知っているのか!」

 

 ラナの言葉に、一度言ってみたかった台詞を言ってみた。

 俺のわざとらしい口調にラナが引いている。

 

「……いや、先日広場を走ってたのをね……」

 

 ああ、ランクアップの後の特訓か。

 そう言えばロンは特訓しないな。

 転びもしない。

 

「ロンはランクアップしたのに特訓しなくて大丈夫なのか?」

 

 俺の言葉に素早くラナが反応した。

 

「えーっ! ロンさん、黄色になったの! 本当ですか!?」

 

 ラナの顔が興奮して赤くなっている。

 その様子を見たロンも満更でも無さそうだ。

 ロンがラナに対して若干自慢げに答える。

 

「三日目で黄色に成れた事には驚きましたが。ええ、大丈夫そうです」

 

 ラナがロンに対して色々聞きたくてうずうずしている。

 俺はマクミランと目配せし、この場を若い二人に譲ることにした。

 

「ハル、君は若いのに気が利くね」

 

 俺はマクミランの言葉に苦笑いを返した。

 精神年齢は……いい歳なんです。

 ついでに俺はマクミランに色々聞くことにした。

 見習い期間終了後の装備に関してだ。

 

「俺の装備、この服とブーツサンダル、槍、短剣だけ。見習い探索者終わった後、大丈夫?」

 

 いや、だから、そんな可愛そうなものを見る目をしないで……この世界に来てまだ六日目。

 片言の言葉でも喋れればいい方でしょ!

 

「……すまんな。防具は地下十階までは大丈夫だ。槍と短剣は一度うちで研磨などの整備をすれば問題無い。ただ、十一階以降は階層によって装備を変える事も考えた方が良いな」

 

 良かった。地下十階までは現在の装備で問題ないと。

 しかし、地下十一階からは何で装備を変えなくてはいけないのだろうか?

 俺はその辺りも聞いてみた。

 すると、やはり探索者によっては頻繁に武具を変えている者もいる様であった。

 また、片手剣を主装備にしている探索者も三割ほどいるらしい。

 一方の手に盾を持ち防御を考えての事だ。

 弓の事を聞くと、代わりになる魔法があるから使う人は余りいないとのこと。

 需要が無い分、矢も高いみたいだ。

 

「すみません、お話終わってしまいましたか?」

 

 ロンがラナとの会話を切り上げて来たようだ。

 少し頬が赤い。

 青春だな。

 

「地下十階までは今のままで大丈夫。短剣と槍は整備に出せば問題ないって」

 

 俺はマクミランに聞いたことをロンに話した。

 ロンはそれは良かったねと言う。

 だが、マクミランは違う問題に関して警鐘を鳴らした。

 

「ロンが騎士団に入るとハルは一人になる。他に仲間はいないのかい? 地下十一階以降は一人だと大変だぞ」

 

 仲間か……正直考えていなかった。

 考える余裕も無かった。

 だが、納税するまでは……一人がいいような気もする。

 毒や麻痺などを受ける事が無い魔物であれば一人でも何とかなるのでは。

 

「同期の見習い探索者に気の合う者がいれば、今の内に良い関係を築いた方がいいぞ」

 

 先輩探索者からの有難いお言葉だ。

 普段から意識しておいた方が良いだろう。

 その後、俺とロンは一通り武具と防具を見て回った。

 気候が亜熱帯であるにも拘わらず、厚手の外套や毛皮のブーツ、ミトンの帽子と手袋が売っている。

 なんでだろう?

 また、刀を探してみたが、見当たらなかった。

 東の最果ての国に行けばある……わけないか。

 他には超大型の虎挟(とらばさ)みが有った。

 大きさは俺の身長ぐらいある……一体何を罠に掛けるんだ?

 

 そうそう、店を出る時にマクミランは俺とロンに研石を渡した。

 普段から手入れをするのは当たり前との事だった。

 俺とロンは感激し、丁寧に礼を言った。

 店を出ようとすると、マクミランが再び呼び止めた。

 何事かと振り返ると、

 

「砥石代、大銅貨一枚です」

 

 と言われた。代金? 勿論払ったさ。

 

 

 

 マクミランを後にした俺達が次に向かったのは不動産ギルドだ。

 何故か、不動産ギルドだけが不動産の仲介を行えるらしい。

 不動産ギルドに入ると職員? が俺達のもとに来た。

 

「誰かとお約束がございますか?」

 

 俺とロンは首を横に振る。

 それを合図に近くの簡易個室に案内された。

 俺は席に座ると早速、一人暮らし用の物件と相場を確認した。

 職員によると、場所にもよるが貧民街以外の比較的手頃な物件だと年銀貨三十枚とのことだった。

 大銅貨に換算すると千五百枚だ。

 一年分を前納するらしい……賃貸は早々に諦めました。

 因みに、手数料は一割とのこと。

 それも高いよ!

 念のため、購入の場合も聞いてみた。

 だが、クノスの場合、部屋単位では無く、建物単位での売買になるらしく、最低でも金貨二十枚は必要だった。

 宿屋暮らしが長引くことは覚悟しなければならないな。

 俺とロンは職員に礼を言って、不動産ギルドを出た。

 俺は気になってたことをロンに訊ねた。

 

「ロン……知ってたか?」

 

「勿論知ってた」

 

 ……知ってたら教えてくれてもいいのに。

 まぁ、自分の目と耳で確認する事も大事だしな。

 ロンに悪意が合った訳でも無い。

 俺がロンに聞けば良かったのだ。

 さて、次はどうしよう。

 衣・食・住の内、食と住は宿屋住まいで解決した。

 となると服だろうか。

 いつまでも一張羅は不味い。

 何が不味いかと言うと、小さな綻びが出てきている。

 せめて二、三枚は予備を用意しておきたいところだ。

 

「ロン、次は服を見たい」

 

 ロンは了解! とばかりに頷き、俺を誘った。

 場所は東大通りの中程だ。

 そう言えばマクミランに行く途中に何店も見たな。

 その内の一つ、比較的大きな店に入ってみた。

 他の店はどの店も中古の衣服だけを扱ってた。

 だが、この店は少量だが未使用の衣服を扱っているようだ。

 下着はやっぱり新品がいいよねー。

 

 衣服の色はベージュか茶、緑の三色だ。

 稀に白があるが高い。

 が、結構高い。

 なんでこんなに高いんだ? 三倍の価格が付けられている。

 種類はそんなに多くない。

 精々、長袖、長ズボンがある程度だ。

 魔物を捌く事を考えると上は半袖がいい。

 下もまだ半ズボンでいいだろう。

 うーん、何色を買おうか。

 今着ている衣服の色は上下ともベージュだ。

 街中を見ると、上下で異なる色を着ている人は非常に少ない。

 であれば、同じ色がいいだろう。

 変に目立つのは勘弁だからな。

 俺はベージュの上下を二組と下着を二枚購入することにした。

 全部で大銅貨二十枚だ。ロンは替えの衣服があるらしく買わなかった。

 買った衣服を部屋に置き、破れたら替える事にしよう。

 店の奥を覗くと、女性物と思われる衣服の傍らに赤い越中ふんどしが垂れ下がっていた。

 間違いなく越中ふんどしだ。

 辞書を書いた日本人が残した物だろうか? あんた……いい仕事したな。

 

 

 

 簡易宿泊施設に戻ると丁度正午を告げる鐘が鳴った。

 そこで俺は昨日から考えていた、魔法の同時行使の練習をしようと思う。

 その考えをロンに伝えてみる。

 

「俺は魔法を同時に使いたい。練習してみようと思う」

 

 以外にもロンはすんなりと賛成した。

 ただ、問題があると言う。

 

「屋内では勿論、屋外は広場ですら駄目だ。クノスの外は……」

 

 クノスの外は問題があるらしい。

 後はあそこしか無い。

 

「だったら地下迷宮だな」

 

 俺の言葉にロンが同意する。

 俺達は槍を携え、地下迷宮へと下りていった。

 別に魔物を狩る訳では無い。

 人気のない転移魔法円のある部屋の隅で試すだけだ。

 

 俺とロンは部屋の壁に体を向けた。

 水球の魔法円を右手に浮かべる。

 それが出来たら、次は左手。

 意外と出来ない。

 左手に出ると右手が消えている。これ如何に?

 今更だが、レンにコツを聞いておけば良かった。

 まぁ、兎に角、練習有るのみ! 数をこなせばコツを掴めるだろう。

 

 だが、残念なことに三十回を超えても俺とロンは一度も成功しなかった。

 あちらを立てれば、こちらが立たず。

 それの繰り返しだ。

 そろそろ魔力が限界のような気もする。

 レンは黄色にランクアップした人が使える火球魔法は五十回程度と言っていたしな。

 ぼちぼち帰るか。

 帰る為に俺が脱出の魔法を出そうとしていたら、地下迷宮の転移魔法円が輝き出した。

 次の瞬間には二人の探索者が魔法円の中にいた。

 二人とも俺より背が高い。百八十五センチはあるだろうか?

 頭に乗る耳を入れれば百九十はある。

 一人は虎柄、もう一人は……ライオン? 尻尾はベージュ色だが先に黒い房がある。

 あれはライオンだけの特徴だ。

 二人は俺達を凝視した後、部屋を出て行った。

 張りつめた空気が解きほぐされる。

 俺はロンに視線を移す。

 ロンなら彼らの事を知っていると思ったからだ。

 

「……あれは虎人族と獅子人族」

 

 ロンが言葉を漏らす。

 なる程、見たままだな。

 

「あまり見かけないけど、同期の見習い探索者だ」

 

 そうなの? あんなごっついのが見習いなの? どう見ても百戦錬磨の戦士です。

 一対一で戦っても勝てる気がしない。

 彼らも騎士団を目指しているそうだ。

 俺とロンが一足早く色付きになった事で、休み? である今日も地下迷宮に入っているのだろうか?

 それとも、暇だから地下迷宮にでも行くか、って感じなのだろうか……その方があの二人にはしっくりくる。

 流石は虎と獅子。

 発情期には日に数十回の交尾をすると言う。

 それだけの体力が有ればそれぐらい朝飯前なのだろう。

 俺もその精力にあやかりたいものだ。

 ……そう言えば、ここに来てから性欲が無い。

 一体どうしたんだろう?

 十六、七の体であれば夜も眠れない程……とまではいかないが、それなりに性欲は有った。

 まぁ、今は相部屋だし。

 気にしない方がいいのかもしれない。

 

 

 

 部屋に戻った俺達は砥石で槍と短剣を磨く。

 磨きながら、明日の事をロンに訊ねた。

 

「明日の魔物は何?」

 

「大蜘蛛だね。証拠部位は頭部の正面にある赤い目を二つ」

 

 蜘蛛か……なんだろう? 大きさはファンタジーだが、それ以外は元いた世界とあんまり変わらんね。

 その辺はどうなってるのかね?

 

「ロン、人型の魔物っているの?」

 

 ……ちょっと、その目は辞めて! 俺が悪かった。

 だから、冷たい目で見ないで!

 

「……そうだったね。確か地下十五階以降にコボルトが出たはず。知性はそれ程無いけど、集団行動が得意な手強い魔物だね」

 

 ……なん、だと。コボルトが手強いだと! ゲームでは最弱モンスターの一角だと言うのにこの世界では強いのか!

 

「どれ位強いの?」

 

「聞いた話だけど、武器も持つし、罠も使うし、待ち伏せもする。集団行動の時はそれぞれ役割分担も若干考えて襲うらしいよ。でも魔法を使わないだけマシってマクミラン伯父さんも言ってたかな」

 

 確かに。

 元の世界だって複数の人間相手に戦うのが一番きついか……やはり、単独で深層まで行くのは無理か。

 

「騎士団が郊外に現れたコボルトの集落を解体したりするけど、毎回怪我人を出してるしね」

 

 クノスの外にもそう言う魔物が出るのか。

 これじゃ、おちおち一人旅も出来ないな。

 やらんけど。

 俺はロンに礼を言って、短剣を磨き始める。

 明日の大蜘蛛狩りに思いを馳せながら。

 

 

 

 そう言えばロンにもう一つ聞きたい事が有った。

 

「そうだ、ロン。ラナとはいい感じなのか?」

 

 俺の言葉にロンが顔を真っ赤にして挙動不審になる。

 

「ぇえ! まだ、結婚なんてそんな! 騎士団に入れればもしかしてって考えるけど……ラナとその両親の了解もいるし……」

 

 おい……俺はそこまで聞いてないぞ。

 だが、ロンの気持ちは良く分かった。

 

「大丈夫だロン。騎士団に入れることが決まったらラナを食事に誘え。それで全て上手く行く!」

 

 俺はロンに適当な助言をしつつ、頬を紅潮させたロンを横目で見ながら短剣を磨き続けた。

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