#015 地下十階
魔法ギルドは北大通りに入って中程にある、西へと向かう通りにあった。
北大通りと言えば、高級店が軒を連ねる場所だ。
北側へ向かうほど、店構えが大きく、高級感溢れる建て物になっていく。
俺は購入してから一度も着ていない服を身に纏った。
あっちの世界で言うサントノレ通りを、洗ったとはいえ魔物の返り血で汚れた格好でうろつく訳にもいかないからな。
TPOは大切だ。
魔法ギルドの建物は一言で言えば美しく、荘厳な建物であった。
探索者ギルドと同じく、幅三百メートルは道に接している。白く巨大な建物だ。
外壁は大理石とは異なる白い石材で全面覆われている。
表面は荒々しいがこれはそう言う意匠なのだろう。
通りの迎いにも似た衣装の建築物が並んでいる。
魔法に関するギルドなのかもしれないな。
丁度半分ほど外壁を進んだ所に出入り口が見つかった。
外壁が大きなアーチ状に切り抜かれているかのようだ。
両脇には衛兵の様な男が二名立っていた。
手には標準的な長さの槍を持っている。
……魔法使いでも槍なの? 杖じゃないの? この世界は槍押しなの?
俺は湧き上がる疑問を他所に置いて、ロンと共に衛兵に用件を告げた。
「あの、探索者ギルドのレンから紹介を受けて来ました。ハルとロンと言います」
「ええ、聞いていますよ。少し待って貰えますか」
衛兵は丁寧な口調で答えてくれた。
高級店が軒を連ねる界隈だ。
そこを守る要員にもそれなりの人が当たるのだろう。
人当たりの良さが半端ないな。
一人考えていると、俺達に手を翳し魔法を掛ける。
黄色に輝く魔法円から同色の光が俺とロンに投げ掛けられた。
一時その光に覆われ、やがて何事も無く光は消え去る。
「今のは?」
俺は興味本位で聞いた。
初めて見る魔法だからだ。
聞いておいて損は無いだろう。
「聞いたことありませんか? 隠された危険物を見つける魔法です」
危険物があれば赤く光るらしい。
魔法ギルドに所属する人物以外には必ず行う決まりとの事であった。
仕込みベルトや隠しナイフを置いてきて良かった。
それにしても危険物の定義は一体何なのだろう? 毒薬は見つかるけど、麻酔薬は見つけられないとかだったら意味無いな。
問題の無かった俺達は衛兵に連れられて中へと入って行った。
「うわー!」
ロンの感嘆の声を上げる。
俺も思わず口を開いて驚いた。
アーチ状の門を抜けると、そこには高さ五メートルはある回廊に四方を囲まれた美しい中庭が設けられていた。
バスケットコート三面分はある広さだ。
その中庭には芝が張られ、所々に人の大きな全身像が立っていた。
その全てが槍と盾を構え、腰に剣を佩いている。
その造りは見事で、今にも動き出しそうだ。
……ひょっとして動くんじゃないだろうか。
異世界だけに。
中庭を通り過ぎると、突き当りにつづら折りの階段が見えた。
「この階段を登った所が受付になります。そこで担当の者が声を掛けます」
俺とロンは衛兵と別れ、階段を上がった。
外壁と同じ白い石材で作られた、幅を大きくとった階段。
家の格は階段の広さで決まると聞いたことがある。
この世界でも同じなのだろうか?
階段を登り切った所も回廊が中庭を回る様に設えてある。
五メートル下にある中庭の眺めも良い物だ。
すると、一人の男が俺達に声を掛けた。
「ハル殿とロン殿ですか? お待たせしました」
森人族だ。
魔法ギルドの職員であるらしい。
彼が魔法の講習を行う訳ではなく、更に別の場所へ連れて行かれるとの事であった。
むぅ、役所的なたらい回し? いや、まだまだこんなものじゃ無かったな、元の世界では。
俺とロンは職員の後に続いて回廊と幾つかの渡り廊下を通った。
外から見て分からなかったが、中は幾つかの建物で構成されていた。
「随分と広いな。帰り道が分からなくなりそうだ……」
俺が一人呟くと、それを聞いた職員が
「大丈夫ですよ、あの様に出口への道順が分かるようになっていますから」
と、通り過ぎた曲がり角を指差して言う。
通った際には気付かなかったが、壁に、出口はこちら、と書いてある。
よく見ると、魔力結晶に文字が光って浮かび上がる様に出来ているようだ。
態々魔力結晶を使う理由が分からないが、これなら暗くても光って見えるから良いのかな?
「この先の部屋で本日の講師イーノックがお待ちしております」
そう言って彼は俺達を残して去っていった。
俺とロンは彼に教えられた部屋に向かう。
穏やかな光が降り注ぐ渡り廊下を歩く。
その先に老年を迎えたと思われる男の姿が見えた。
背が高く、肩幅は広くしっかりとしているが、顔に皺が現れ、乱れた髪と顎髭は豊かであるものの灰色がかっていた。
手に杖を持ち、体を支える様に立っている。
身には茶色く皺の寄ったローブを纏っていた。
何と言うか、魔法使いの窓際族って感じ?
「お主、初対面で失礼な事考えるのぅ」
あら、バレたの? レンの使ってた読心魔法かな?
「その通りじゃ。儂は常に人の心を読むからな。気を付けるんじゃぞ」
むぅ、明鏡止水、明鏡止水。行雲流水、行雲流水。
落花流水、落花流水。これは違うか。
寧ろ、俺の気持ちは盈々一水。
「儂、お主のような阿保に教えたくないのー。レンの頼みだから仕方なく教えるんじゃが……」
イーノックが首を振り、頭を垂れながら部屋へと入って行った。
あからさまに落胆しとるがな。
レンの為にも講習は真面目にやらなければ!
俺とロンが中に入ると、扉が勝手に閉じ、幾重にも鍵が重ねて掛けられる音が室内に響いた。
ロンが若干引き気味なのか、尻尾が垂れ下がっている。
「気にせんでええの。魔法の講習中は危ないからの。途中で人が入らんようにしたんじゃの」
語尾は、の、押しなの? まぁ、それは良い。
それは良いとして、なんだこの部屋は? まるで地下迷宮の転移部屋のようだ。
「凄い部屋だね!」
ロンの声が木霊した。
それ程広い部屋だ。俺とロンは口を開け、目を見開いて呆けてしまった。
そんな俺達をみて、イーノックは呆れ顔だ。
「なんじゃ、お主ら。地下迷宮の転移部屋と同じ大きさじゃぞ。今更珍しくもないじゃろうに」
まぁ、確かにそうなんだが地上にある事に俺とロンは驚いた訳で。
「ほれ、早く来い。もたもたしてると時間が勿体無いわい」
急かされた俺達は部屋の中央に立つイーノックの側に駆け寄った。
「それではの、二人に言語の理を解する力を大幅に向上する魔法を使うの」
……理解力でよくね?
「……ハルには教えたくないの」
「……(心の中で)揚げ足をとってすみませんでした。心を入れ替えて真面目に聞きますから、どうか教えてください」
俺は拗ね初めた老人を何とか宥め、教えて貰えるよう平身低頭して頼んだ。
「最初からそう言う態度でいればいいんじゃ……」
ぐむむ……耐えろ、俺の右手。
「では、掛けるぞ。ほれ……」
イーノックの前に二つの白く輝く魔法円が現れ、俺とロンに向かって光弾が飛ぶ。
光弾が俺とロンに当たると体が白く輝き……出さなかった。
ロンは光り輝いたが、俺に当たった光弾は霧散した。
イーノックが俺に近づき、穴が空くほど見つめる。
「ハルには既に掛けられているの。それも、遥かに強力に……」
なん、だと? その御蔭で俺は極短期間で言葉を覚えられたのか! 一体誰が? と言うか、レンじゃね? それぐらいしか思いつかないんだが……
「恐らくそうじゃろう。レンなら造作もないからの」
……俺の思考と会話してる。
ロンが完全に置いてきぼりだ。
可愛そうに、頭の上にクエスチョンマークがいくつも浮かび上がっている。
「細かい事は気にしてはいかんの」
「さて、魔法円とは一種の言語である」
確かに。魔法円の円環の中にはある意味漢字やマヤ文字とも言える象形文字もしくは記号がが使われている事は分かっていた。
それがイーノックにより言語である事が説明される。
起こしたい結果を創造? する為の理と実行形式が書かれているらしい。
その為か、魔法を習得できる魔力結晶に触れるとそのビジョンが頭の中に映し出されるらしい。
……魔力結晶に触れる、その辺りから話が飛躍しすぎじゃね? と考えているとイーノックが冷たい眼差しを俺に向ける。
……すいません、続けて下さい。
「まったく、細かい事を……魔法の融合とは魔法円の円環内に融合したい魔法円を上手く描く事で可能となるのじゃ!」
ここまで聞いて、俺はある可能性に気が付いた。
象形文字があるならばそれを用いていた文明があるはず。
ひょっとしてこれは……俺は居てもたっても居られず、確認した。
「イーノック! 古代文明が魔法を作ったんですか?」
「カァーッツ! 儂の事は師匠と呼ぶんじゃ!」
イーノックが憤怒の形相で自らの呼称を訂正した。
俺達、弟子になったらしい……
「し、師匠、それで古代文明……」
と俺が言いかけた所で、イーノックが言葉を重ねた。
「今は魔法融合が先じゃ! 黙って聞いておれ!」
霧と雷球を融合すると、霧の中で放電する事が可能になるとのことであった。
だが、ただ霧の魔法円の円環内に雷球の魔法円を描けば良いかと言うとそうでは無い。
それなりのお作法があるとの事であった。
「その事を詳しく説明した書物がこれじゃ!」
そう言いながら、イーノックが二冊の本を俺とロンに渡した。
革表紙の重厚な作りだ。標題は、魔法融合入門、とある。
著者は、女大魔導士エリザベス、校正・補筆ドゥガルド。
本を開くと中には象形文字とその意味が説明され、次に様々な融合魔法の魔法円とその内容、それに融合する際の注意点などが記載されていた。
「これ、貴重な本なんじゃ……いいんですか?」
ロンが震える声で問うた。
イーノックがそれにはっきりとした声で答えた。
「いいも何も、それはお主たちのじゃ。受講料銀貨三枚の内に入っておるのぅ」
なん、だと? 銀貨三枚だと? 俺とロンは顔を見合わせた。
ロンの顔が青くなり、目が見開いている。
きっと俺の顔も同じことだろう。
……レンが払ってくれたとは思えない。
そもそも俺が魔法の講習を受けたいと言ったから、この講習が受けれるようになったわけだし。
「……上手く伝わっておらなんだ様じゃが、お代は頂くからの」
俺とロンは小さく頷くしか無かった。
銀貨三枚か……人頭税がまた遠のいた。
だが、この本、安くないか? ある意味、秘中の秘的な本だと思うんだが。
そう考えると銀貨三枚でラッキーだと思えて来た。
俺って、単純だな。
「それでは、簡単な所でこれをやってみるかの」
イーノックはそう言いながら霧と雷球の魔法円を重ねて出した。
濃い霧が現れ、その中に眩い光が輝いている。
「雷霧じゃの。必要な事は魔法円を正しく理解することじゃ」
「分かりました。……と、その前に扉を叩く音が先程からするのですが」
俺はイーノックに扉の外が騒がしい事を伝えた。
ロンも気が付いていたのだろう、鼻もいいが耳も俺よりは良いからな。
イーノックは歳の所為でその辺は残念だ。
「残念言うな!」
そう言いながらイーノックは扉に近づき、何かをした。
すると、鈍い音がした後、扉を叩く音が止んだ。
深く気にしない方が良いだろう……
その後、三時間ほど雷霧魔法を繰り返し練習した。
結果、俺もロンも辛うじて出来る様になった。
それもこれも、言語理解力を底上げした魔法の、強力な後押しがあったからだ。
それが無ければ短時間でここまでは出来なかった。
講習を終え、部屋を出ると一人の男が倒れていた。
年の頃は初老の森人族だ。
俺達が助けようと手を伸ばすと、
「気にせんでよいの。それより、銀貨三枚を早く頂けんかの?」
銀貨三枚を渡すと、早く帰れ、さよならといわんばかりにイーノックは手を振る。
倒れている男の処遇が気になるが、俺達は足早にその場を後にした。
通路の角を曲がる時に背後から、
「イーノック、何時までここで寝てるんじゃ!」
と聞こえた。
「……ハル、聞こえた? 師匠はイーノックじゃ無かったみたい」
俺は頷く、そして俺は分かり切った事を言った。
「あいつは普通じゃない。関わらない方が……」
と言った瞬間、後頭部を何か強い衝撃が襲った。
余りの痛さに目の前が白く成る程だ。
何となくだが、あいつ言うな師匠と言え、と言われた気がした。
その後、俺は気分転換にエメリナに会いに雑貨店へと向かった。
当然、ロンはマクミランの店へと向かう。
雑貨店に入るとエメリナが笑顔で迎えてくれる。
愛らしい目、美しい髪は共に緑系の色だ。
ドリス程では無いが、魅力的な身体。
それを見せつけるようなワンピースを着ている。
あぁ、俺の心が急速に癒される。
「あら、ハル。いらっしゃい。丁度会いたかったところよ」
エメリナが嬉しい事を言ってくれる。
俺も心の底からエメリナに会いたかった。
早く先ほどの忌まわしい記憶を消し去りたい。
「俺もですよ」
俺の飾らない言葉にエメリナは頬を桃色に染めながら、
「ふふふ。商店ギルドに登録したクッカーの評判が良いようなの」
さらりと別の話に流された。
だが、嬉しい話に変わりはない。
銀貨三枚を使ってしまった俺には少しでも稼ぎがあった方が嬉しい。
「そうそう、明日は地下十階でしょう。また、お願いがあるの」
エメリナが両手を胸の前で組み、上目遣いで言う。
あぁ、堪らん。エメリナかわいいよー、本当にかわいいよー。
「何でも引き受けますよ。エメリナは可愛いから」
いかん、思わず本音をそのまま言ってしまった。
エミに知られたら、浮気認定物だ。
「あら、ありがとう。お世辞でもうれしいわ」
エメリナの頬の色がより赤く変わった。
このままでは間違いが起こってしまいそうだ。
俺は慌てて話を進める。
「それで、お願いとは?」
「……ごめんなさい。地下十階にでる大蛇の皮が欲しいの」
何でも知り合いの淑女に頼まれたらしい。
何故エメリナに頼むのだろう? 探索者ギルドに依頼すればいいのでは?
まぁ、細かい事は置いといて。
「お安いご用。エメリナの為に一番いい蛇皮を取って来るよ」
俺の言葉にエメリナの目が潤みだした。
俺はそれをのぞき込む。
縮まる二人の距離。
やがて二人の顔が交差し、触れあう唇……と言う事は残念ながら無かった。
「お願いね」
と言うエメリナの言葉を聞き、俺は雑貨店を後にした。
部屋に帰るとロンが、
「魔法ギルドで掛けられた魔法の所為か、体調が変なんだ。ハルは大丈夫?」
と言った。
そうはいっても俺は魔法を掛けられたが、既にレンから同じ魔法を掛けられていたらしい。
しかも、より強力に。
何時掛けられたか不明だしな。
俺は分からんと身振りで示し、
「どう変なんだ?」
と聞いた。
するとロンが、
「ラナと一緒にいても何だか……」
と言葉を濁す。
要するにパッションが感じられなくなったらしい。
十五歳の少年から恋心(性欲)を取ったら何も残らないよ!
それを証明するかのように、ロンに生気が感じられなかった。
言われてみれば俺も同じような状況だ。
それでも何とかなっているが、ロンにとってはより切実だろう。
恋人と一緒にいて気持ちが昂らないようではねぇ。
十五歳で男性機能不全とか嫌すぎる。
俺は十分経験したがな。
俺はロンの寂しげな背中を宥めてやるしか出来なかった。
翌、十一月十九日。
この日、地下十階へと向かう。
地下十階の駆除だけは二日かけて行う。
きっと見習い探索者に地下迷宮内で寝泊りする経験を積ませるためだろう。
明日の夕刻、探索者ギルドに戻れば晴れて一人前の探索者と成れる。
そうなればこれまで以上に稼げるだろう。
昨日の急な出費で銀貨が九枚に減ってしまったが、余裕で取り戻せると思う。
いつも通り、朝六時過ぎに詰所の前に行く。
既にレンが準備をして待っていた。
今日の夕食と明日の朝食分の食糧、簡易テント等だ。鍋も人数分用意していたが、俺は自前の物を使うため遠慮した。
荷造りをしていると、レンがロンの様子に気が付いた。
「ロン、どうしたのですか? 元気がありませんね」
「ああ、レン。ロンの奴、実は……」
俺は簡潔に説明した。
その説明の仕方が悪かったのかロンが赤面して怒っている。
ただ、魔法ギルドの講習の後から男性機能が衰えたと言っただけなのだが……
「なるほど、そう言う事ですか。心配しなくても直に治りますよ」
と、レンが答えた。
更に捕捉すると明日には治るそうだ。
それ程強く魔法が掛けられていないらしい。
「俺は気が付いてないが、レンも俺に掛けてくれたんだろう?」
俺はレンに聞くと、レンは苦笑いしただけだった。
何? どう言う事? 俺のこれは、その副作用じゃないって事?
地下九階に下り、地下十階へと転移する部屋を目指す。
途中、何故だか地下八階の魔物、大蛙に遭遇した。
魔力結晶と証拠部位を採取しながら、
「地下九階にどうして大蛙が?」
とレンに聞くと、
「魔物でも転移魔法円に乗ると転移します。ですから下層には上層の魔物が出る事もあります」
と言う。
元の階に戻る事は出来ませんし、その為、生き残る事は稀ですけどね、とレンと付け足した。
地下九階から地下十階へと転移する部屋で新たな魔法を習得した。
魔法の矢と毒球だ。
毒球は兎も角、魔法の矢は俺の胸を熱くする何かを感じる。
試しに出してみる。
すると、これまでの魔法を軽く凌駕する速度で白く光り輝く矢が放たれた。
白き矢は転移部屋の壁を穿たんばかりの威力だ。
これは今後、大活躍する魔法だろう。
レンによれば、魔力を込めると飛距離や矢の本数が増やせるらしい。
千本の矢とかやってみたい気もする。
地下十階に着いた俺達はいつもの作戦会議を行う。
魔物に関するレクチャーなどだ。
大蛇は体長三メートルから六メートル、太さが三十センチから六十センチが通常サイズだ。
大きい物は十メートルを超えるらしい。
この地下迷宮の魔物らしく、同種の魔物でも食う。
体色はエメラルドの様に輝くような緑色との事。
その為、蛇皮は珍重されるらしい。
因みに、毒は無い。
証拠部位は牙だ。
倒し方は毒球を当て、弱らせるもしくは仮死状態にしてから急所である頭を刺す。
そうしないと、皮を痛めてしまう。牙と魔力結晶だけなら、魔法の矢でも倒せるとの事。
また、それ以外に麻痺や眠りも毒に比べれば劣るが、有効な対策らしい。
地下十階の最初の部屋から出た。
勿論、四と書かれた扉をくぐってだ。
四はレンのラッキーナンバーなのかもしれない。
大蛇は直に現れた。
体長は四メートル前後。
それ程綺麗に輝いてはいないが、緑色の皮をしている。
レンから対処方法の説明を受けていたので、最初から俺とロンが前に出た。
互いの手から濃い緑色の魔法円を出す。
その際に、ほんの少しだけ魔力を込めた。
毒が速く効けばよいと考えて。
魔法円から毒々しい色の球が大蛇に襲い掛かる。
毒球を受けた大蛇は俺達に襲い掛かろうと身を屈めた所、急に力なく倒れた。
「魔力を込めた所為か、毒がよく効いたようです」
いくらなんでも簡単すぎるだろ! これが見習い探索者の最後の試練なのだろうか? ひょっとしたら倒れた振りかもしれない。
そう考えた俺は念の為、眉間に槍を突き刺した。
その後、短剣を使って牙を抜く。
「この皮ではあまり高く売れませんが、念の為、剥いでおきましょう」
その後、七匹ほどの大蛇を駆除した。
一度なんかは珍しい事に大蛇と色付き大ムカデの争いに遭遇した。異世界での戦場ヶ原神戦譚だ。
俺一人、決着が付くまで見守りたいと主張したが、レンとロンが
「色付きが倒されるのは勿体無い」
と言う事で、泣く泣く両方を倒した。
いずれ一人で来た時の楽しみに取っておこうと心に決めた。
その日は適当な部屋を見つけ、その中で野営する事になった。