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ハルと異世界の地下迷宮  作者: ツマビラカズジ
第七章 表裏もしくは舞台裏
145/169

#145 竜王

 天空の城で切っ掛けを掴めたかに思えた”勇者召喚魔法”と”近親召喚魔法”。

 だが、幾度魔法円を描こうとも、相も変わらず成功する兆しは見えなかった。

 

 俺の生まれ育った異世界とこの世界を接続する因子である”近神召喚魔法”。

 対象者を鹵獲する為の”空間拡張魔法”。

 恐らくこの段階で、”時間停止魔法”が作用しているのだ。

 何故ならば……”根源操作魔法”により体から魂を抜き取る。

 それには時間が必要だからだ。

 その抽出した”魂”を土塊に込める”魂魄与骸魔法”。

 これが全てだと俺には思われた。

 しかし……

 

「ハル? あまり上手くいってないようね。なら気晴らしに”魔力結晶”を集めに行かない?」

 

 俺が長椅子に腰掛け、頭を抱えているのを見かねてアレクシスが声を掛けた。

 

「……気分転換……か。それも良いかも知れないな」

 

 俺は二つ返事でその誘いに乗る。

 すると、

 

「先生! 僕も同行させてください!」

 

 またしてもパーンが身を乗り出して来たのだ。

 

「駄目だ! 今回向かう場所は戦場となる。それに遠く離れて見ていたとしても、危険だ。巻き添えを食う可能性があるからな」

 

「でも……」

 

 パーンは食い下がり、アレクシスへと視線を向けた。

 二人の視線が僅かに重なると、アレクシスの口から意外な言葉が出た。

 

「ハル、パーンにも経験が必要よ。それにオーラフ曰く、この子には”才能”があるそうよ。どうしてもハルが見れないと言うなら、私が付っきりで護れば問題無いでしょう?」

 

 ……いや、確かにそうなんだが。

 それはつまり……俺一人に魔力結晶を狩り集めろって事!?

 そんなー……

 

「それで問題は無いようね。ではパーンも一緒に行きましょう! 久しぶりに”竜の営巣地”へ! 腕が鳴るわ!」

 

 一応、手伝ってくれるようだ。

 しかし……やる気満々だな。

 ほんと、こういう所がエミにそっくりなんだよな。

 俺が好きになる……いや、俺に好意を向けるタイプが一つしか無いのかも知れん。

 

 

 

 そもそも、俺が”楽園創造魔法”を行使するにあたって必要な魔力結晶を俺自らが収集する、そこがおかしい。

 これって、魔王達の担当じゃね?

 何でもするって言ってたよね?

 なのに……

 

「市場に出回っている魔力結晶は多い。が、魔法習得に仕える物となると数が限られるな。どうしても”野”にある物を採取せねばなるまい。然るに……その為にオーラフらは回せぬ。この所、某領主が怪しい動きを見せているでな」

 

 戦力の供出を断られてしまった。

 魔人族達も長命種故に豊富な魔力、平均して十万パワーを持つが実戦経験は俺に比べるべくもない。

 よって却下。

 まぁ、少なくとも百万パワーは必要だからな。

 

 ディボルドは自身が歳だからと言って拒否。

 巫女アンは”殺生”やそれに類する事が不可。

 結局、時間も無いと言う事で俺がやる羽目になった訳だが……

 

「竜って……こういう”竜”だったのね……」

 

 俺は自らの無知を改めて恥じた。

 まさか……こんなのが群れているとは考えもしなかった。

 その”こんなの”が俺達の見上げた空を舞っている。

 その数、数十匹。

 竜の営巣地、その中心地点から少なからず離れていると言うのに、俺達が転移門(ゲート)から現れた途端、集まって来たのだ。

 

 やおら、その中の一頭が俺達に近づく。

 いや……急降下して来た。

 

「うわっ! 先生、ドラゴンですよね!? かっこいいなー」

 

 無垢な声が俺の耳を打つ。

 それは正にこれから起こる出来事が彼にとっては”他人事”である事を示していた。

 

 ……死ね! 今すぐ死ね、パーン!

 いや、お前が俺の未来に関わっていなければこの場で竜目掛けて放り投げてくれたわ!

 全く、お前は何にも分かっていない。

 それに比べてアレクシスは事態を把握しているのだろう。

 青い顔をして俺の腕にしがみ付いていた。

 

「ハ、ハル……ア、アレって、もしかして……」

 

 そう、あれこそは、

 

『コラ! そこの脆弱な者ども! ここを我らが地と知っての狼藉か!? 今すぐ退去せねば我が息吹で塵一つ残さずに滅してしまうぞ!』

 

 古代竜エンシェント・ドラゴン

 全ての竜種の頂点にして、間違いなくこの世界の食物連鎖の最上位を占める存在であった。

 

 ど、ど、ど、どうしよう?

 ただの飛竜に毛が生えたドラゴン程度だと思ってたよ。

 些か甘く見てたよ。

 くっそー、アイツら知ってたな?

 通りで及び腰だった訳だ!

 

『それとも臆したか!? さぁ、答えよ! 何用か! そこな(わっぱ)(生娘)を我らに捧げに参ったか!?』

 

 ……痛っ!

 突如腕に走った激痛。

 古代竜の先の言葉にアレクシスの握力が跳ね上がったのだ。

 

 そして、げにも恐ろしきは古代竜の力。

 まさか、そんな事が分かるなんて……

 

 その所為か、アレクシスの口から物騒な言葉が漏れた。

 

「……殺す」

 

 いや、殺すのはアカンよ。

 歴史が変わってしまうからね。

 俺達がやるのはあくまでも”魔王に命じられて竜の額に載る魔力結晶を交換する”だけだ。

 その為に、拳大の大きさの魔力結晶をその分集め、持って来たのだから。

 収納庫(ストレージ)に入れてな。

 

 つーか、飛竜の王が涙ながらに語った飛竜の悲劇。

 俺が一枚噛んでた、いや、俺が根本原因だったのね……

 そりゃ、顔を見るなり襲って来るわ。

 

「ア、アレク? 殺したら駄目だからね? 分かってるよね?」

 

 俺が彼女の理性に話し掛けるも、

 

「アイツだけは……殺したい。……ダメ?」

 

 中々に難しいようだ。

 俺は口にし辛い答えを、何とか振り絞った。

 

「……ダメ」

 

「……」

 

「……半殺しなら良いよ」

 

「ありがとう、ハル。心から愛してるわ」

 

 何かの危機は去った。

 そして、歴史が改変される危機も去った。

 

『何をゴチャゴチャと……時間切れだ! 死……』

 

「……ぬのは貴方よ!!」

 

 いや、だから殺しちゃ駄目だって!!

 俺の心の叫びが、

 

「ァアアアアアッ!?」

 

 となって漏れる。

 それと同時に、

 

『ガハッ……』

 

 何処からともなく現れた、巨大な石塊が古代竜エンシェント・ドラゴンの後頭部を強かに打ち据えていた。

 何時の間にか転移門(ゲート)の魔法円は張っていたらしい……

 

「まだよ!」

 

 更には、突如現れた黒き棘が古代竜の全身を覆い隠す。

 その結果、俺の目にした物は、

 

「古代怪獣ガ、ガメ……」

 

 ら、であった。

 首が長すぎるがな。

 

 束の間、身動きが取れなくなった古代竜を執拗に嬲るアレクシス。

 俺はその行為を目の端に納めつつ、更なる襲撃に備えた。

 何と言っても、上空には五十匹を超す古代竜が飛び交い、俺達を睥睨(へいげい)している。

 奴等がこのまま俺達を見過ごすとは思えなかった。

 

 その考えを裏付けるかの様に、

 

『貴様ら! 我らを偉大なる竜王が眷属、古代竜エンシェント・ドラゴンと知っての狼藉か!!』

 

『我が友をよくもやったな!? 許さんぞ、虫けら共め!』

 

『我らが”誇り”を一つ穢す毎に、町を一つ滅ぼしてくれるわ!』

 

 怒声が俺達に降り注ぐ。

 俺はその声の主達に対し、

 

『冷静になれ! さもなければお前達も屈辱にまみれる事になるぞ? 先の古代竜と同じ様に……』

 

 宥めようとするも、

 

『それは我らが朋輩(ほうばい)のことかぁぁぁぁぁっ!!』

 

 決して聞き入れられる事は無かった。

 

 ……もしかして、俺が悪役?

 

 俺は脳裏に浮かんだ邪念を振り払う。

 そして、迫る古代竜らの陣形を素早く確認した。

 

 前衛として古代竜が十匹、突撃して来る。

 残り四十匹の内、半分が突撃隊の背後で散開。

 これが中衛といったところか。

 最後衛にいる二十匹が大きな口を開け、俺に向けていた。

 その中心が眩い光を帯び、周囲が歪んで見える。

 

 なっ!? 超質量もしくは重力弾か!!

 

『朋輩とか言いながら、仲間毎殺す気か!』

 

『ふっ、そ奴は我らが仲間の中でも最弱……生き残っては我ら古代竜エンシェント・ドラゴンの面汚しとなろう……』

 

 くつ!? やっぱり奴等の方が悪役だ!

 そ、そんな事よりもアレの直撃を受ければ……俺は兎も角、他の者が死ぬ!

 直撃を避けようとして、この場から飛んでも……突撃隊もしくは散会した奴等の中衛に捕まってしまう。

 どうする? 俺どうする!?

 

 俺は素早く考えを纏め、それを実行に移した。

 

「アレク、パーン! 俺の側に集まれ!」

 

 それから、不可視の魔法円を幾つも中空に描いた。

 

『滅びよ!!』

 

 竜の咆哮と共に、輝く玉が俺目掛けて放たれる。

 対する俺も、

 

『後悔するのはお前達だ!』

 

 練り上げた魔力と共に、魔法を行使した。

 古代竜の突撃部隊を追い越し、迫り来る光弾。

 それは俺達に直撃するかと思われた瞬間、姿を消した。

 

『き、消えただと!?』

 

 その言葉が俺の脳に響いた直後、光弾が消えた場所から一条の光が突撃する古代竜達に放たれたのだ。

 それは、

 

反射砲(リフレクトキャノン)!』

 

 であった。

 敵の放った魔法を”拡張された空間”に捕らえ、そのエネルギーを拡散させる。

 そして、その力を一点に凝縮した形で逃すのだ。

 それは途方も無い力の奔流として、外に放たれ……

 

『グゥアアアアアー!』

 

 突撃体勢をとり、躱しようの無かった古代竜らに降りかかった。

 古代竜の硬い鱗が膨大な熱量を帯び、白色化する。

 顔に当たった竜は目を潰されたやも知れなかった。

 その全てが、勢いに乗ったまま地表に激突した。

 

『お、おのれ人間如きが!! 覚えていろ!』

 

『フッ、今回はただの様子見。次はこうはいかんそ! 覚悟しておけ!』

 

 上空にいる後衛と散開している中衛が負け惜しみを言い放ち、この場を離れようとする。

 しかし、

 

『それは無事に逃げられた後の台詞だ!!』

 

 俺は決して逃がさない。

 その為の準備はとうの昔に出来ているのだから。

 既に発動されているのだった。

 

『ぐぉおおお!? 何だこれは? ふ、不可視の!? ち、力が吸い取られていくぞ!! 体の自由……が……』

 

 それは彩色魔法と彩色除去魔法を巧みに利用した”透明なグレイプニル”。

 いや、”透明に見える”が正しいか。

 勿論、すえた匂いも消臭魔法で消してある。

 

 古代竜エンシェント・ドラゴンと言えども、それから逃れる術は無かった。

 

 

 

 その後、俺達は最初の古代竜の悲鳴を聞きつけて現れた古代竜とその長も倒す事が出来た。

 ただ、倒すとは言っても殺してはいない。

 額にある魔力結晶を頂き、その代りに小さな魔力結晶を埋め込んだのだ。

 こうすると、竜種は死なない。

 ただし、著しく力は落ちるがな。

 それに加えて知能も。

 その結果……彼らは”飛竜(ワイバーン)”へとクラスダウン? した。

 そう、彼らは得た魔力量によって変態を繰り返す種族なのであった。

 

 目覚め、自らの身体に起きた異変。

 その原因を俺だと知った彼らの視線。

 俺の顔を睨み付け、決して忘れないと、その瞳の色が物語っている。

 俺の心境は正に、”針の筵”だった。

 

『おのれホムンクルス! 我らが誇りを踏みにじりおって!! 我に恥をかかせおって!! くっ……殺せ!!』

 

 その最後の台詞はもしや!?

 まさかの、人化フラグが立った?

 ……いや、そんな事はあり得ない事だ。

 竜は竜。

 それだけで無く、こいつは古代竜エンシェント・ドラゴンの王なのだ。

 人に化けるなど、その誇りが許すまい。

 それよりも……

 

「どうしよう、アレク? 放っておくと人の集落を襲いそうなんだけど……」

 

「うーん、そうよねぇ……」

 

 俺達は難問を抱えていた。

 竜王から魔力結晶を取り、交換してもこの個体だけは飛竜(ワイバーン)化しなかったのだ。

 それに加え、敵愾心丸出し。

 まぁ、当然だろう。

 ”人”である俺が、自らの目的を達する為に非道な暴力を竜王の眷属に、いや家族に振るった。

 ある意味、俺が吸血鬼ユアンに家族を傷つけられたのと同じだ。

 そして、負の連鎖を解消するには……甘い考えは棄てなくてはならない。

 それは、吸血鬼ユアンがアリスに助け出され、俺に報復を考えた事からも明白であった。

 

「でもなぁ……」

 

 俺は迷っていた。

 竜王を殺した場合、その遺骸から新たな幼生体が生まれるらしい。

 その事実は飛竜の王から知り得た情報だ。

 まず、間違い無いだろう。

 

 ……いや、もしかして……そう言う事なのか?

 

『貴様に負けた以上、我は王に戻れぬ! 新たな王が必要なのだ! さぁ、殺せ!』

 

 俺の考えを読んだかの様に、竜王が叫ぶ。

 それでも、俺が躊躇(ためら)っていると、

 

「先生! 介錯して上げて下さい! どうか情けを!」

 

 何故かパーンが口を差し挟む。

 俺はその突然の出来事に目を丸くし、アレクシスに彼はどうしたのか? と目を向けた。

 彼女は、さぁ? と身振りで示し、パーンへと視線を移した。

 意外にもパーンはそれを見返す。

 すると、

 

「……良く分かったわ。パーンの言う事も一理あるわね。現竜王では飛竜を御せない。であるならば……新たに生まれるモノに首を()げ替えた方が上手くいく。そう言う事を言いたいんでしょう?」

 

 どうしたことか、アレクシスがパーンの考えを代弁したのだ。

 

「はい! その通りです!」

 

 ……何故その様な帰結に?

 だが、一理あるのか?

 俺は眼差しを竜王へと向けると、

 

「……本当に良いのか?」

 

 と目だけで問うた。

 

『……構わぬ。それこそが我が本懐……』

 

 ……それって大願成就する時に言う台詞じゃね?

 

 俺が下らぬ疑問を胸に、膨大な魔力を凝縮した光針を竜王の頭部へと素早く差し込んだ。

 

 必殺!!

 

 その刹那、力の奔流が俺に加わる。

 その事を予想していた俺は、何一つ驚かなかった。

 だが、

 

「こ、これが!?」

 

 別の事に目を見開く。

 それは、竜王にのみ起こる”再生の炎”を目の当たりにしたからであった。

 

 虹色の炎が空高く伸び、周囲を彩る。

 やがて、火が落ち着くと中には一匹の小動物がいた。

 一見すると生まれたての仔山羊。

 いや……仔山羊と比較すれば長い首をしている。

 仔アルパカかな?

 その背中の上では未熟な羽がせわしなく動いている。

 小さな山羊角を持ち、目は澄んだ空の如き碧眼をし、頭部は卵型をしている。

 先細りした方にある、愛らしい口元からは「モプー? モププ?」と耳をくすぐる音を発していた。

 アレクシスをして、

 

「か、かわいい……」

 

 と言わしめる、その愛らしい生き物こそが、

 

『我は新たな竜王。名をアングルボザ。全ての空を舞うものである』

 

「しゃ、しゃべった!!」

 

 であった。

 

『……今は羽が小さくて舞えぬ』

 

「モプー……」

 

 必死に羽ばたこうとしている姿とその言葉を、俺は聞こえぬ振りをした。

 

 

 

 寄り添って立っている俺とアレクシスの足下に新竜王アングルボザがいる。

 二人の体に自身の体をスリスリしながら。

 何が楽しいのか、時に跳ねたり、後ろ脚で立ち上がり抱き付いたりして。

 時折、首や耳、羽の付け根や掻いてやると、気持ち良さげな声を上げた。

 アレクシスはその柔らかな毛の感触が好ましく思ったのだろう、しきりに撫でている。

 それも新竜王アングルボザを喜ばせていた。

 

 だが……俺どうする?

 この場に捨てて帰るか?

 確か……家(隠宅)はペット禁止だった筈だ……

 パーンも猫アレルギー気味だしな。

 

『う、嘘を申すな! それにお前は我を養う義務があるのだぞ!』

 

「モプー! モププー!」

 

 瞳に涙を溜めて俺を見上げる新竜王。

 何故か、切なげな泣き声まで出している。

 

「モプ……」

 

「な、何でだよ! 俺は前任者の意向を踏まえただけだろ!?」

 

如何(いか)にもじゃ。故に我を育て上げねばならぬ。力ある者が無闇に力を振るった代償よ』

 

 頭を撫でて貰おうと手に押し付け、甘い声を上げる新竜王。

 それでも動かぬ俺の手を、甘噛みしたり、舐めはじめた。

 

「そ、そんな……聞いてないよー!」

 

『今言ったでは無いか。それにじゃ、お主は我が眷属が住まう地に加え、餌場を荒らしたであろう? その罪も償って貰わぬとな』

 

 俺から離れた新竜王はアレクシスの足に抱き付き、見事な腰のピストン運動をし始めた。

 

「やだ……ちょっと、どうして? あぁ、でも可愛い……」

 

 ……盛りの付いた犬か!

 

「モプ!」

 

『犬とは失敬な! だが、許せ。我が体は今しばらく本能の赴くままに動くでな』

 

 何それ便利な設定!

 いや、冗談抜きで凄いな。

 ある意味、俺が会話しているのはこの小動物の背後霊的な何か?

 

『概念としては近いな。まぁ、それよりもお主は少なくとも向こう百年間は我らを養わねばならぬ。然もなくば……』

 

「さもなくば?」

 

『竜王の呪いがお前やお前の愛する者達を襲うであろう。その結果……汝の宿願は……皆まで申さなくとも分かるな?』

 

「くっ!? だが……」

 

『無論、我からも汝の欲するものを提示しよう。知りたいのであろう? ”異界から人を浚う魔法”そのあらましを……』

 

「なっ! 知っているのか、アングルボザ!?」

 

『我は知らぬ!』

 

「えっ? じゃぁ……」

 

『案ずるな! 我は知らぬとも知っておる者が、いや、その魔法円を直接見た者がおる!』

 

「そんな馬鹿な!? この世界では未だに使われた形跡が無い筈なんだぞ! それなのに……何処だ! そいつは何処にいるんだ!?」

 

『クックックッ……その通りだ。この世界では汝が言うたとおり。だが……分からぬか? その者が連れ去られし時、その者は(くだん)の魔法円に封じ込められたのだぞ?』

 

「……まさか、お、俺? 俺の事か?」

 

『そう、我が汝の記憶、その奥深くに眠る物を引き出してやろうぞ。それが我らを百年に渡りし養う”対価”である!』

 

 正にこの日から、俺は飛竜(ワイバーン)に生涯恨まれる事となったのだ。

 それと同時に、”楽園創造魔法”……魔人族がこの世界を去り、新たな世界へと向かう為の魔法、その本格的な準備が始まったのもこの日の事であった。

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