#139 運命は廻る
「装備や持ち物を確認する。武器はあるか?」
「有りません……」
「……無いわね」
当然だ。
城に入る為、それらの品は衛兵に預けてたのだから。
「防具は……」
見れば分かる。
俺達の誰一人、鎧の類を身に纏ってはいない。
尚且つ……寒い。
城を訪れる為に身に着けた礼装は薄く、日本の冬を思わせるここ”神域”の気温にはそぐわなかった。
俺は思わず、
「……帰るか」
と口にするも、
「帰り方が分かりません……」
「……転移門も使えないわね」
と言う有様であった。
「ならば……今一度鏡に触れてみるか」
しかし、俺のとった行動に対し、期待した結果は起こらなかった。
それどころか、先程まで映っていなかった俺達の姿が鏡の中に見える。
如何やら、目の前にあるのは普通の”鏡”のようだ……
「困ったな……」
「困りましたね……」
「困ったわね……」
俺を含めた三名が異口同音に心境を吐露する。
その直後、部屋の反対側にある扉を数度、叩く音が響いた。
「えっ!? あっ、は、入ってますよ!」
俺は咄嗟に返事をする。
自身の言葉に違和感を感じるのと同時に、エミが俺の頭を強かに叩いた。
「ちょっと、答えてどうするのよ! 敵かも知れないのよ!?」
俺の先の声やエミの懸念に対して、無情にも開かれる扉。
身構える俺達。
極度に張り詰めた空気。
気のせいか、耳鳴りがした。
その直後、俺達は驚愕の事実を知る。
扉を開いた者……それは”黒騎士”であった。
「なっ!?」
誰かの口から驚愕の声があがる。
と同時に、エミの右腕が素早く上がる。
まるで、何かを投げつけるかの様に。
手の周りに光の輪が輝き出した。
そう、それは”光輪”。
魔力で形作られた”チャクラム”であった。
それが”黒騎士”に対して、正に投げ付けられようとした、その刹那、
『お待ち下さい。私は”敵”では有りません』
「嘘よ!!」
思考転写が頭に届く。
しかし、その言葉は遅かったのだ。
既に賽は投げられていたのだ。
鈍い音と共に、”黒騎士”の頭部が床に落ちた。
「ちょっ、エミ!?」
「お母さん……」
「……何よ!? 見敵必殺でしょ? それに”黒騎士”なのよ?」
「そ、それもそうだな! ママは悪く無い!」
「と、父さん!?」
などと言う、一通りの茶番を繰り広げた俺達に、
『皆様、ご安心を。私は死にません!』
黒騎士の声が再び届いた。
束の間の静寂。
その間、黒騎士は落ちた首を拾って、付け直している。
沈黙を最初に破ったのは俺だった。
「あの……まず最初に謝らせて頂きますね。妻がすいませんでした。それと……ここ何処ですか? ワターシタチ、マイーゴデース!」
次の瞬間、俺の右わき腹に激痛が走る。
俺の悪ふざけに、エミの”教育”が施されたのだ。
『Oh……ダイジョーブデースカ? っ!? も、申し訳ありません! こ、ここは天空の城”ミノス”。賢明にして、慈悲深き主と呼ばれた”創世の王”が最期の時を過ごされた場所にございます』
エミが黒騎士に対しても”教育”を施そうと身構えた直後、奴は慌てて取り繕い、真面目な声音で説明をした。
それも、洗練された執事の様に体を動かしながら。
そう、ここは天空の城ミノス。
空高くにあり、長年無人のまま世界を彷徨っていた、歴史からも忘れ去られた”遺跡”であった。
”城”とそれを内包する街と、それを取り囲む城壁。
その高さは優に十メートルを超えている。
目に映るそれらの表面は白を基調としたマーブル模様を描いていた。
今、俺達は城壁に設えられた物見櫓の様な建物の前にいる。
その”物見櫓”が俺達がつい先程までいた部屋であった。
櫓と言うには、些か立派過ぎるがな。
城壁の外側には霧が厚く、城を多い隠すかの様に垂れ込めている。
不思議な事に、その霧は城壁の内側には一切入って来ない。
いや……入って来れないのかも知れなかった。
それほど、不自然な様相を呈していた。
正確な円形を形作る城壁。
中には城壁と同様、白い大理石をふんだんにあしらった城とその城下町が俺達の目を丸くする。
俺達のいる場所はその城をほぼ正面に見る事が出来た。
”見事な城”としか形容しようがない程、俺の心が驚きの色に染まる。
タージ・マハルの如き完璧な左右対称。
それに加えて、壁面は曲線を描いている。
窓は高く造られ、階層毎の天井は高い。
実に贅沢な空間の使い方。
そして、何よりもこれまで見たどの城よりも”優雅”であった。
この城を設計した者は、今俺達がいる場所こそが最も美しく見えると考えていたのではなかろうか?
しかし、程無くその疑問は解けた。
いや、俺は先の考えを捨てざるを得なかった。
城壁の上を進む程、城の美しさが徐々に増したからだ。
その城壁と城の真ん前にある広場を繋ぐ道が城壁の中程に設けられている。
そこに到達して、俺は初めて気が付いた。
城の背後に巨大な大樹が立っている事に。
その幹の直径は数百メートル以上はあるだろう。
だが、朽ちて久しいようであった。
その証拠に、大樹は幹の途中から先が無く、その断面は長い間空気に晒されたが為、黒ずんでいる。
「凄く大きな木だったようね。お城と同じが、それ以上に……」
あり得ない、が正にその通りとしかいいようが無かった。
エミは見たままを口にしただけなのだから。
やがて、俺達は緩やかに傾斜した道を降り、城の前にある広場、その端に辿り着く。
案の定、そこに人の気配は無い。
それどころか、城壁から眺めた街の何処にも人が生活をしていた形跡が無かった。
思うに……
「どうやら随分と昔に捨てられた街の様ですね」
レンが言った通りであった。
それに……
「ねぇ、あの辺りを見て! 激しい戦いでもあったかのよう……」
広場の片隅が酷く黒ずんでいる。
「……本当だ。大理石が高熱にさらされたようだな。表面が黒く焦げ付いている」
ただし、大理石なのだ。
表面を削れば元通りとは言わないまでも、綺麗にはなる。
それを為されていない、と言う事はここの住民が去ってからそうなったのだ。
問題は”誰が”、そして”いつ”、”何の目的でやったのか”であった。
しかしだ。
「まぁ、考えても仕方が無い。エミ、レン行こうか?」
俺が二人に声を掛けると、同意する声が返って来た。
そして、その一歩を踏み出すと、俺は気付いた。
俺達と二人の向かう先が異なる事に。
「あれ? 何処行くんだ?」
「それはこっちの台詞よ。貴方達こそ何処に行くの?」
俺は同じ方向へと向かっていた”黒騎士”と顔を見合わせる、俺達おかしくないよね? と。
奴は”さぁ? ”と言わんばかりの身振りをして返してきた。
「いや、ほら、あそこに……」
俺は広場の一点を指差し、そこまで口にして理解する。
またしても、エミとレンはあの輝きが見えないと言う事に。
同時に、エミとレンも事態を呑み込んだ様であった。
「……癪だけど仕方が無いわね。それに、どんな魔法か気になるわ」
そう、広場の中央にはこれ見よがしに魔力結晶が輝いていたのだ。
ただし、それが見えたのは俺と”黒騎士”だけであったがな。
『因みにですが、あのような魔力結晶が城内にも幾つかあります。それをご案内しながら、玉座の間にお連れいたしまするです、ハイ』
怪しさ満点の黒騎士。
広場を離れ、街中を通り抜けた後、城門を潜る最中、俺は問うた。
「何で玉座の間に? それと、街中にガーゴイル像が沢山あったけど、誰か俺達を見てるの? あと……城の周囲を飛んでる白い影。あれ、魔物じゃないのか?」
ここまで口にしなかった疑問を。
すると、奴は答えた。
『そこにお望みの魔法がございますです、ハイ。誰かが貴方様方を覗いているか、ですが”否”とお答えさせて頂きます。この私めは、造られて此の方嘘をついた事がございませんです、ハイ。白い影に関してですが……”大丈夫”でございます、ハイ』
……嘘くせぇ。
貴様が何故、俺達の”望み”を知っている?
それに、何が”大丈夫! ”だ。
そもそも、まともな答えになってないではないか!
因みに、先の魔力結晶で得られた魔法は”魔物召喚”。
古今東西、ありとあらゆる”人型の魔物”が召喚できるらしい。
俺が過去に倒したかにかかわらず。
ただし、その対象の魔物を正確にイメージする必要がある。
便利なのか、便利じゃないのか不明だな。
俺が先の疑問を口にする前に、
「貴方、私達の何を知っていると言うの?」
エミが俺の機先を制した。
右手に光輪を描き、それを何時でも放つ事が出来る様にして。
それに続くレンもまた、同様にしていた。
しかし、その問いに対する答えは意外な言葉であった。
『”殆ど全ての事を”でございますです、グロリアーナ様、ハイ』
「なっ!?」
それはエリザベス女王の愛称……
俺の疑問を他所に、先頭を歩く黒騎士がその言葉に合わせて深く、ゆったりと一礼する。
その黒く大きな上半身が折り曲げられた瞬間、まるでそうしたタイミングを計っていたかの様に”天使”が突然現れた。
それも四翼を持つ天使が。
そう、遠くに見えた”白い影”とは天使の事だったのだ。
無論、遠視魔法を習得していた俺達は知っていた。
故に訊いたのだ、”大丈夫なのか? ”と。
”お前は信用できるのか? ”と。
その結果は……現れた天使はレンの光輪で切り裂かれ、黒騎士はエミので細切れに処された。
「やっぱり信用出来なかったわね。それにしても、この程度の魔物で私達を倒せると思ったのかしら?」
エミの声に俺も同意せざるを得ない。
”何でも知っている”と言う割には……
その刹那、
『ですから、大丈夫と申したのです、ハイ』
黒騎士が何事も無く立ち上がった。
更には、
『次の魔力結晶は此方にございます。得られる魔法は”魔獣召喚”。古今東西の魔獣を使役する事が可能となりますです、ハイ』
至極丁寧に頭を下げて。
慇懃無礼とは、正にこの事であった。
その後、魔虫召喚、死霊召喚、悪魔召喚、天使召喚、魂魄与骸召喚、空間拡張および時間停止と言う実用的? な物から、利用価値が無さそうな魔法を得た俺。
尚、時間停止魔法を得た際に起きた一悶着に関しては割愛させて頂く。
いよいよ、最終目的地へと近づいた折に、俺は黒騎士に対し口を開いた。
「訊ねたい事がある」
『なんなりと、と言いたいところですが答えられない問いもございますです、ハイ』
俺の曖昧な問いに、曖昧且つ予想外の答えを返した黒騎士。
終着地点である”玉座の間”を前にしても全ての問いに返せない理由とはこれ如何に?
だがしかし……その疑問を解消する前に、俺は幾つかの、素朴な疑問を投げ掛ける事にした。
「そもそも、この城は今現在何処を飛んでいるのだ? いや、飛んで無いとか言うなよ? 城壁から下を覗いたんだからな」
『嘘をつくなど、滅相もございません。ご存知無いかとは思いますが……当城の現在地は東経百三十九度、北緯三十五度。賢者の海、その上空二キロメートルに位置します。因みにですが、当城の周囲は厚い雲に覆われ、下界からは積乱雲として認識されておりますです、ハイ』
「どうしてかしら?」
『それは存知あげません。私めが生まれる以前から、としか……です、ハイ』
「この扉の先にある”玉座の間”に魔物はいる?」
『おりませんです、ハイ』
「この先に、本当に私達が望む魔法があるの?」
『勿論でございます、グロリアーナ様。私め、貴方様に嘘をついた事が一度もございませんです、ハイ……』
……そう言う所が嘘臭いんだよ!
見ろよ、エミもレンも途端に警戒し始めたじゃないかよ!
ま、まぁ、その方が俺も二人に守って貰えるから有り難いんだがな。
その結果、扉を開け先を進むのが俺の役目になるんだよ!
まぁ、仕方が無い。
では、
「参る!」
俺は掛け声と共に大きな扉を押し開く。
そして、俺達を出迎えたのは、
「す、凄いわね……、この……大階段? その上に赤く分厚い絨毯が途切れる事無く奥まで続いているわ……」
であった。
そう、距離測定魔法によると玉座が置かれた場所まではおよそ百メートル。
幅は十メートルにも及んでいた。
そして、その途上、ほぼ三十メートル毎に存在する三つの踊場にそれぞれ一つの魔力結晶が並んでいる。
”黒騎士”の言う事を信じるならば、そのどれかが”元の世界へと戻る魔法”であった。
「おい、本当にあのいずれかが……」
『私めのお役目はここまで。後はお望みのままに……』
俺が問い掛けようとするも、奴はそれを制し、一方的に口にした。
しかも、全てを言い終わる前に突然事切れたかの様に。
まるで電池が切れた玩具の様に。
「父さん、そんなの放っておきましょう。それよりも魔力結晶です。父さんには輝いて見えるのでしょう?」
確かに、その通りであった。
そして、やはりエミとレンにはあの輝きが見えないようでもあった。
俺は二人に周囲を警戒して貰いつつ、玉座へと向かう。
一段一段、慎重に足を踏みしめながら。
そして、最初の魔力結晶に手を翳した。
その瞬間、その魔法のイメージが頭の中に湧き上がる。
それは、
「救世召喚……」
であった。
秘密の部屋に有った物と同一……いや、違うな。
これは……
「言うなれば”近神召喚”!」
言い間違えるとヤバイ魔法だ。
警視総監、警視相姦みたいな。
アーッ!
……いや、そんな事よりも、問題はこれが”異世界”を前提にしていると言う事。
この世界に似た? もしくは何らかの距離が近い世界におわす神を呼び寄せる魔法であった。
これは……この後に控える二つの魔法、それらに対する期待度が俄然高まるな!
「それはつまり……異界の神を呼ぶ魔法……と言う事ですか?」
「ああ、その様だな。これ自体は役には立たない。が、後二つ魔法が残っている。その何れかが……」
「”元の世界に戻る魔法”の可能性が高いわけね! さぁ、次に行くわよ!」
しかし、その次の魔法は期待外れに終わった。
その魔法は”遡行召喚”魔法。
言うなれば、遥か未来より望んだ人を呼び寄せる魔法らしい。
過去からは不可。
この魔法を行使すれば光の帯が世界を駆け巡り、遠い未来との間を繋ぐ……
まるで、特殊相対性理論のワームホールを活用したタイムマシンの様だな。
違ったかな?
「下らない魔法ね……」
「ええ、こんな魔法で未来から只の人を連れて来て何が出来ると思うのでしょうか? それとも、藁に縋る思いで、と言う事なんでしょうか?」
「……さぁ?」
まぁ、それはさて置き。
魔力結晶はあと一つある。
そして……”黒騎士”を信じるならば、アレこそが俺達の望む魔法。
俺達は漸く、帰れる!
俺はこれまでの事を振り返りながら、階段を上っていった。
それもゆっくりと、噛みしめながら。
思えば本当に大変だった。
いきなり死に掛けた事。
レンやエミはそんな事は無かったらしいがな。
なんで俺だけ死に掛けたのだろう?
レンは勇者召喚した巫女コレットの眼前、エミもレンの下に現れたらしい。
まぁ、その事は今更だな。
言葉も理解出来ず、いきなり地下迷宮へと潜り魔物を殺める日々。
良くもまぁ、頭がおかしくならなかったものだ。
それもこれも、レンが掛けてくれた”言語理解向上”魔法の御蔭だった。
喫せずして”感受性が一時的に落ちる”というな。
探索者から騎士となり、数千の魔物を相手にした防衛戦。
今でこそ大した事では無いが、当時は死を意識した。
多くの者と出会い、別れた。
ロン、アリス、オバダイア、ザドク、デニス……その他の騎士団の仲間達。
それに……リリィやファリス、レイチェル、ドリス、エメリナ、エレノアにユーフェミア。
ノエル、ジョエル、パウエルにユリエル。
そして、何と言っても、師匠ドゥガルドとオネシマス団長……とパーン先生か。
後見人になってくれてたからな。
そんな彼らとも今生の別れとなる。
その魔法を手に入れたならば。
そして、俺は迷わず行使する。
元いた世界に戻る為に。
あそここそが、俺が、いや俺達がいるべき場所なのだ!
何故ならば……そこに俺達の家族がいるからだ!
俺達の故郷だからだ!
それ以外に理由は無い。
……訳でも無い。
過ごし易いし、娯楽も充実してるし、飯も美味いし……何よりも寝首を掻かれて死ぬ恐れも無いしな。
何時しか、俺はその魔力結晶の前に立っていた。
エミとレンが周囲を警戒しながら、俺の行動を固唾を飲んで見守っている。
「ハル……お願い……」
「……父さん」
「ああ……分かっている」
俺はエミとレンの期待を一身に受け、目の前にある、赤く光り輝く魔力結晶の上に手を翳す。
刹那、俺の頭の中に恐ろしく複雑な魔法円が描かれた。
神聖文字で描かれたそれは、途方も無く大きく、且つ膨大な魔力を必要する物だと知れた。
複数の魔法円から成り立ち、世界の在り様にすら影響を与える魔法。
しかもそれは……ここだけに留まらない……
「こ、これは……楽園創造魔法? いや、そんなもんじゃ無い! これは……廻……」
俺がその内容に驚愕していると、
「ハル!!」
「お父さん!!」
俺の左右から注意を喚起する声が発せられた。
「なっ、馬鹿な! この魔法円は!!」
俺は新たに得られた魔法から意識を逸らし、周囲に目を向ける。
すると、そこには二つの魔法円。
俺を上下に挟むかの様に出現していた。
そして、そこに書かれていた魔法円は少し前に得た魔法。
その名も……
「”遡行召喚”魔法!!」
遥か未来から”望み”を叶えうる者を呼び寄せる魔法であった。
それはつまり……
「エミ! 泣くな! 俺は直ぐに戻る!」
「馬鹿! あの時もそう言って、結局戻らなかったじゃない! こんな物! この城ごとぶちこわしてやるわ!!」
半狂乱となったエミは俺目掛けて大質量の魔力の塊、光の針を投げ付ける。
それが俺を包む魔法円に接触する瞬間、俺の目からエミの姿が消えた。
いや、違う!
消えたのは俺……だ。
あの場所から、あの時間から”俺”が消えた……
その証拠に、俺は淡い光で包まれている。
これは何時か通りし道。
元の世界から異世界へと連れ去られた時と同じ……
やがて輝きは収まり、周囲は闇に包まれる。
俺は自身の体に触れ、確かめた。
……大丈夫だ。
前回の様な変化は無い。
衣服も身に纏ったままだ。
良かった、何も身に着けて無かったら、召喚者に対して強く出られなかったからな。
そして、その時は来た。
周囲の闇が晴れ、辺りに光が現れる。
俺は何処かの部屋にいた。
頭上には光。
まるで俺だけに用意されたスポットライトの様であった。
素早く周囲を観察すると、目の前に人影が一つ。
その奥にも、その者を見守るかの様に幾つかの人影が存在していた。
俺は目の前の人物に対して口を開いた。
それも、神聖言語を使って。
出来得る限り、尊大に。
「救世を望みしはお前か? 異形異界の少女よ。我は異界の神ハ……”ルト”である!」
第六章 完
第七章 開始話 #140は5/25 18:00公開予定です
乞うご期待!