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#111 地獄

 火帝歴 三二〇年四月一五日

 

 この日は春の嵐が近づいているかのごとく、空には厚い雲が垂れ込めていた。

 昨日までの、雨季が過ぎ去ったかのような日差しがまるで嘘の様であった。

 雨季が戻ったのかと錯覚する程に空気は重く、ジメジメとしている。

 その所為(せい)か、俺の歩みはことさら遅くなっていた。

 これから……且つて無い程の、困難な試練に挑むにもかかわらず。

 

 俺は”地獄の門”を(くぐ)る決意をし、地下迷宮へと(のぞ)んだ。

 そう、最初に待ち構えるは地下九十階の転移部屋にある、一際大きな”地獄の門”。

 殺生、盗み、邪淫、飲酒、虚言妄言、邪見、犯持戒人(聖者や童子への強姦)、父母・聖者の殺害等ありとあらゆる悪行がその表面に所狭しと彫り込まれていた。

 いや、ただ彫られているだけでは無い。

 俺が開けようと近づくと、その彫り物はまるで生きているかのように声を出し、蠢き出したのだ。

 正に、修羅場の様相を呈しだす。

 故に、俺の手は止まり、足が半歩退いた。

 その余りのおどろおどろしさに、俺はほんの僅かだが気圧されたが為に。

 

「……それでも俺は前に進むしかない」

 

 俺に残された時間は余りに少ないのだから。

 

 俺は今一度、装備品を確かめる。

 武具類は言うに及ばず、マスクも確かめた。

 転移部屋に立ち込める硫黄の香りから、有害ガスが充満していると考えたからだ。

 マスクには地下六十七階で習得した”毒酸無効”魔法が込められている。

 故に、その中の空気は清浄であった。

 ただ、空気の薄さだけは如何にも出来なかったがな。

 

 全ての確認を終えた俺はいよいよ決意を固くする。

 その直後、”地獄の門”を押し開いた。

 

 薄暗い空、まるで雨雲の様な黒いガスが空を覆っていた。

 その下を時折稲光が輝く。

 また、それと呼応するかの様に、赤い光が空へと昇っていった。

 恐らくだが、火柱か溶岩の噴出の類だろう。

 ただ、俺にはそれがまるで、罪人の体から上がる血飛沫とも思えた。

 

 耳には雷鳴と大砲の様な音が聞こえた。

 それらは遠くのものも有れば、極近い場所から聞こえるものも。

 その中に時折、甲高い、赤子のような泣き声や女子供の叫び声が混じる……

 

 黒い大地には花や草は一本も無く、朽ちた木すら見えなかった。

 ただあるのは……地面と同じ色をした、先の尖った、鍾乳石の様な岩だけ。

 

「正に地獄……」

 

 であった。

 俺は、自身の心が滅入るのを感じながらも一歩を踏み出す。

 すると、

 

「お前が俺を殺したんだ!」

 

「貴様か! 俺が大切にしていた物を奪ったのは!」

 

「ああ! いい! 凄くいい! もっと……、もっと! ……」

 

「酒だ酒! もっと呑ませろ! もっと呑め!」

 

「限界だと思うから限界なんです! 限界なんて無いと思えば途中でやめる事も無くなり、大丈夫なんです!」

 

「”限界”では無かったと言う事です。無理矢理にでも続けられたから”限界”は嘘だったんです!」

 

「やめてよぅ、そんな事できないよぅ……痛いよぅ……痛いよぅ」

 

「父さん、暴力は止めてよ! 母さんが死んじゃう! あぁ、お婆ちゃんまで……何てことを……」

 

 怒り、嘆き、悲しみ、呪詛など人の口から放たれるありとあらゆる阿鼻叫喚が聞こえ出した。

 

 耳に入ってくる音によって、俺は気が触れんばかりであった。

 

「……俺はこの世界を一人歩み続けられるだろうか?」

 

 心細さからくる疑問を口にするも、返ってくる答えがある訳でも無い。

 俺は再度覚悟を決めて、一歩、また一歩と”地獄”の大地を進む。

 師匠の

 

「地下八十九階はのう……果てどなく続く苦行、それに耐え得るか、言わばこの後に待ち受けておる”地獄”の前哨戦のようなものじゃった。如何なる困難にも負けぬ意志の強さが試されておったのじゃ……」

 

 その言葉を脳裏に蘇らせながら。

 

 

 

 最初の魔物が現れたのは、俺が転移部屋から五百メートルほど離れた時だった。

 精気の無い瞳は赤く、肌は病的なまでに青白い。

 髪は銀色に輝き、そこまでであればまるでレンの様であった。

 だが、体は幼子の様に小さく、栄養失調であるかのように手足は細く腹は膨らんでいた。

 そして、明らかに人では無い特徴を有している。

 それは額に映えた小さな”角”と背中に見える蝙蝠(コウモリ)の様な黒い”翼”であった。

 それに尻からは先が矢の如く形をした、これまた黒い尾が生えている。

 剥き出しの陰部だけは、まるで大人の様だ。

 それが雄雌合わせて五体ほど揃って飛んできた。

 

 魔物は俺を半円状に囲む。それから、

 

「ウク! ウク!」

 

 と口々に囃し立てながら”鎌風”の魔法を放って来た。

 更には、五体の内雄三体が低空飛行をしながら襲い掛かる。

 直後、魔物が放った”鎌風”は俺が密かに張っていた”魔法障壁”を四発で砕いた。

 その威力の高さに俺は思わず、

 

「化け物か!」

 

 と驚愕する。

 決して魔力を込めなかった訳では無いのだから。

 

 残る”鎌風”が俺を襲う。

 それを俺はヒラリと半身を反らせて躱すも、気が付けば魔物の、千枚通しの様な爪が眼前に迫っていた。

 

「なっ!」

 

 俺は慌てるも、辛うじて魔槍スコーピオンを盾にする。

 瞬間、鳴り響く金属音と起こる火花。

 その輝きに魅入る間もなく、槍を回し、その石突で魔物を打ち払おうとした。

 俺のその一撃を、魔物は大きく退く事で避ける。

 だが、その間にも残る二体の魔物が距離を縮めていた。

 一体は俺が払った隙をつき、槍の柄の下へと潜り、俺のがら空きとなった腹部を攻める。

 もう一体は飛ぶ勢いを殺さずに回転し、足元低くに、尾を鞭の如く(しな)らせてきた。

 

「こ、これは!」

 

 まずい!

 俺は避けられた石突での一撃、その勢いのまま槍をぶん回す。

 そして、百八十度回転した槍先を俺の腹部目掛けて飛んできた魔物に斬りつけた。

 

「ギュゥウ!」

 

 魔物は右肩を切り裂かれた結果、雌型魔物のいる方へと警戒しながら下がる。

 俺はそれを視界の端にとらえながら、

 

「エイッ!」

 

 と叫び、魔槍スコーピオンを地面へと突き刺した。

 魔物の良く(しな)った尾が、槍の刃先に当たる。

 その瞬間、甲高い音が辺りに響いた。

 槍を掴んだ手を通してその一撃の重さが伝わってくる。

 それは途方も無い威力がそれに込められていた事を示していた。

 

 しかし、一連の攻撃はそれで終らなかった。

 最初の一体が再び舞い戻り、弧を描く軌道で滑空しながら俺に近づく。

 その翼には鋭い剣の如き爪が怪しい光を放っていた。

 

 俺は仕方なく槍を諦め、大きくとびすさる。

 だが、それはさらなる追撃のチャンスを魔物達に与えた”悪手”だった。

 

 並んで後ろに控えていた筈の二体の魔物、それがいつの間にか散開し、魔法の矢を俺に射かけて来たのだ。

 俺は腰に()いた大小の剣を慌てて抜き放つ。

 そして、雨の如く降り注ぐ魔法の矢を、剣に魔力を纏わせる奥技”光剣全斬”で切り払った。

 無論、全ての矢を落とす事は叶わない。故に幾つかは身に受け、その場所から血を吹き出している。

 それでも、その傷はやがて癒える。

 魔力結晶鎧には”回復付与”魔法が掛けられているからだ。

 故に、俺は致命傷となりうる魔法の矢を特に集中して落としていた。

 

 勿論、俺はただ魔法の矢を落としていただけでは無い。

 俺を左右から挟撃しようとする二体の雄型に対しては

 

「真空斬り!」

 

 を飛ばしては牽制し、雌型と傷ついた一体の雄型に対しては少しでも暇を与えぬ様、

 

「光輪!」

 

 を弾幕の如く放っていた。

 因みに”光輪”もパーン先生から学んだ奥義の一つ。

 魔力をチャクラムの如き造形で放つ技であった。

 魔法の様に魔法円を描いたり、魔力を込めるなど発動までのインターバルが少ない為、この様な乱戦に向いている気がする。

 ただし、使用する魔力は多い。

 

 決め手に欠け膠着状態に陥る、その様な雰囲気が垂れ込める中、俺は新たな手を打つ。

 それは”捕縛”魔法。だが、その前に、俺は

 

十光輪(ディス・オレオル)!」

 

 と発し、各個体に対し二つの光輪を投げ、僅かな猶予を得る事に成功していた。

 恐らくこの瞬間、魔物達には俺に十本の腕があるように見えただろう。

 それもまた奥義。今の俺であっても完全に習得出来ていない”技”の一つであった。

 

 光輪が襲っている間に俺は”捕縛”魔法で顕現した縄を魔物のいる場所を掠める様に(ふる)う。

 魔物達はその一撃を躱すも、先の光輪の攻撃と相まって、著しく陣形を崩していた。

 ただ、そもそも、先の鞭の如き一撃は魔物を狙った訳では無い。

 それは俺の手から離れてしまった物を再び手にする為に放ったのだ。

 無論、それは”魔槍スコーピオン”。

 形見の品であり、俺の愛槍であった。

 

 俺はそれを手にした瞬間、最も屠り易そうな一匹を見定め、

 

「隙あり!」

 

 と心の中で叫びながら、槍を突き出した。

 それは瞬時に数十メートルも伸び、易々と手負いの魔物を貫く。

 

「!!」

 

 残る四体の魔物が声にならない叫び声を上げた。

 中には頬に両手をあてがい、驚く者もいる。

 それはまるで人の、幼子が驚く様と何一つ変わらない動作であった。

 

 しかし、俺はこの間隙を逃さない。

 この瞬間こそ、魔法円を描き、魔力を込める絶好の機会なのだから。

 

聖枷(サン・シェーヌ)……」

 

 俺は”聖球”と”捕縛”二つの魔法を組合せ、改変した魔法を行使する。

 その白く輝く蔓と表面を覆う棘が宙に浮く魔物を素早く絡め取った。

 中では魔物達は聖なる力の前に、力を失くし、驚愕した表情を空に晒している。

 後はただそれを、刈取るだけ。

 俺には造作も無いことだった。

 

 

 

 激しい戦闘が行われた場所を離れ、俺は一息入れようかと考えていた。

 すると、早速、次なる魔物が現れた。

 先ほどの場所から数百メートルも離れていないというのに……

 それはまるで、一歩ごとにモンスターと出会うロールプレイングゲームのようだった。

 

「ゲッ! 今度は犬の化け物! それも……オルトロスか!」

 

 その姿、見間違えることが出来なかった。

 双頭の頭を持つ巨大な犬。

 吸血鬼ユアンが従えていた魔物だ。

 しかも、赤黒い燐光を全身から放っていた。

 

「いいだろう! 且つての雪辱戦だ!」

 

 と俺は咆哮をあげる。

 そして、まずは小手調べと、俺の扱う魔法の内最速を誇る”魔弾”を数発放った。

 時折、俺達の頭上高くを旋回する、巨大な鳥の影を気にしながら。

 

 

 

 

「あちっ! くっそう……一体何体いやがるんだ! 疲労回復! 思考知覚向上! それと……素早さ向上!」

 

 俺は流れる溶岩を背に襲い掛かる魔物の群れと対峙していた。

 白く艶めかしい女体、だが残念ながら腰から下は蜘蛛。

 顔には赤い複眼が八つもあり、異彩を放っていた。

 都合二時間、この群れと交戦している。

 恐らく、この洞窟の様な場所がこいつらの縄張りだったのだろう。

 そこに休憩を取ろうとした俺がまんまと入り込んだ。

 後はこいつらのルーチンワーク。

 俺を”最も簡単に殺せそうな場所”にまで追い立てたと言う訳だ。

 

「クソッ!」

 

 俺は再度苛立ちを言葉に表す。

 それはこの階層に入ってから一度たりとも、満足な休憩を取れていない所為(せい)でもあった。

 そう、故に余り大技を使えない。

 これまで潤沢な魔力に支えられて来た俺は、ここに来て槍や剣の一突き、一振りを大切に、一度のミスですら許されない精度で振るわざるを得なくなっていた。

 魔力を使えるのは防具類に掛ける”回復付与”や、この階層の魔物に効果覿面な”聖属性付与”。

 それと先の魔法のみ。

 後は極力使わない様に自制していた。

 休む間もない故に、魔力の回復も覚束ない。苦肉の策であった。

 

「うふ、ふふふふふ……」

 

「あはははは……」

 

 この魔物は何が楽しいのか笑いながら俺に迫る。

 複眼さえ無ければ、いや、複眼と蜘蛛の下半身を隠せば愛らしい乙女のそれと変わらない。

 だが、それが近づいては俺にする事が……手に持つ槍を俺に突き刺そうとする事のみ。

 斬り捨てても、笑い声を上げながら倒れていくのだ。

 何時しか俺も、笑いながら槍を揮っていた。

 ……正に地獄。

 気を付けねば俺の心が壊れてしまいそうになる。

 

 

 

 更に数時間が経過した。

 相変わらず俺の背には溶岩の川が流れている。

 その発する熱の為、俺の体は汗で濡れていた。

 いや、汗だけでは無い。

 先の魔物の返り血を(おびただ)しく浴びていた。

 その為、肌着の白い部分が青黒い色に染まっている。

 ただし、目の前には動く姿は見えなかった。

 俺は数時間を掛けて”アラクネ”の巣から奴等を掃討出来た様だ。

 俺は(ようや)く気を休めさせる時を得た。

 ここで野宿でもしようか?

 そう考えた瞬間、

 

「ギャァアアアアー!」

 

 俺の左足を猛烈な熱さが襲ってきた。

 俺は何も考えずに槍を、サッと揮う。

 すると、

 

「ゴァア!」

 

 と威嚇するかのような獣の声が聞こえた。

 俺は咄嗟に前に跳ぶ。次に、音の発した場所に目を向けた。

 そこには溶岩の川の中から半身を出した、全身を赤い炎で飾り付けたかのような大トカゲが一匹。

 溶岩で出来ている様にも見える舌をチロチロと出しては、俺を鋭い目つきで睨んでいた。

 俺の左足首にはその舌と同じ太さの物が巻き付いている。

 

「フ、フ、フ、フレイムリザード!?」

 

 間違いないだろう。炎から生まれ、炎で出来たかのような大トカゲだからな。

 かなりの強敵だと推察される。

 生半可な冷気では奴を留める事も出来ない。

 ”水球”など一瞬で蒸発してしまう。

 その熱さはフレイムジャイアント以上ではなかろうか?

 それにあの時の様に魔法を使う事は出来ない。

 残された魔力に限りがあり、些か心許無いからだ。

 

「チッ! ここでも休むことが叶わないのか!」

 

 俺は再び迫り来る戦いへと、心を奮い立たせた。

 

 

 

 地下九十階、この階層に入って何日が経過したのだろうか?

 俺には全く分からなくなっていた。

 幾度と無く、優に百を超える数の疲労回復を掛けても、体の疲れは癒えても頭のそれにまでは効果を及ぼさなかった。

 空気が薄く、ぬかるむ道が続く。

 その所為(せい)か幾ら疲労回復を掛けても、直ぐに必要となっていた。

 

 休みなく襲って来る魔物達。

 それはまるで果てどなく続く”苦行”の様でもあり、俺自身が地獄に落とされた極悪人となり責め(さいな)まれている様でもあった。

 

「寝たい……眠りたい……その前に湯船に浸かりたい……」

 

 それが今の俺の唯一無二の望み。

 ただ、その事だけしか考えていなかった。

 

「フンッ!」

 

 俺を手軽な獲物だと思った魔物を俺は一刀の下に斬り伏せる。

 次に、”魔力結晶探知”魔法を行使した。

 

「ああ、もう……少し……か……」

 

 思えば、これまでの階層は何と楽だったことか。

 工夫をすれば何とか休めたからだ。

 ところが、ここではそのどれもが通用しない。

 魔法障壁も結界も”金縛りの悪霧”を充満させても奴等は構わずに現れた。

 

 ああ、ここに来る直前の、”デニス大隊長昇進祝いパーティ”が懐かしい。

 デニス隊長がはにかみながら皆の祝福に答える。

 それを涙を浮かべながら見つめる彼の愛妻エメリナ。

 彼女は相変わらず美しく、魅力的な肢体を見せつけるような衣服を身に纏っていた。

 そして彼らの子供達。

 長男ディオンは既に騎士となり、上からの覚えも目出度いらしい。

 長女ディビナと次女ディクシーはマリオンの紹介でとある家の侍女として仕えている。

 ゆくゆくは名家に連なる家に嫁ぐ事も可能らしかった。

 その下のディランはまだまだ腕白盛りだ。

 一番下の、末娘のディーナを連れて両親を困らせている。

 それを困った顔を作りながら、嬉しそうに話すデニス、エメリナ夫婦が本当に羨ましかった。

 俺も、あの様な幸せ溢れる、温かい家庭を作りたい。

 その為にも……

 

「退けっ!」

 

「グァア………」

 

 エミに会わなくちゃいけない。

 それが、俺の新たな夢への、スタートラインになる筈……なのだから。

 

 

 

 

「……見えた」

 

 俺の目に映ったのは青く光り輝く魔力結晶であった。

 その側には大きな一頭の魔物が寄り添っていた。

 いや、一頭と言って良いのだろうか?

 頭が三つもあるのだ。一頭でも三頭なのだろうか?

 分からない。

 分からないが……どうでも良い。

 ここで魔法を習得しても、まだこの階層の半分を踏破したに過ぎない。

 まだまだ……先は長いのだから。

 

 俺は試しに、

 

「去ね!」

 

 と言わんばかりに睨み付ける。すると、

 

「グルルルル……」

 

 三つの頭がそれぞれに唸り声を上げだした。

 

「しまった……笛を持ってくればよかった……」

 

 そう、俺は以前、笛を習っていたのだ。

 パーン先生から手解きを受けていたのだ。

 それがあれば……奏でた音色によってこの魔物は寝入ったかもしれなかった。

 

「ケルベロス」

 

 それが目の前にいる魔物の名前。

 冥界の王ハーデスの忠犬にして、”地獄の番犬”であった。

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