#7.由香里編4
「んん……」
目を覚ました私は、また一騎君におぶられていた、どうやら途中で倒れてしまったらしい。
(あれ……私……)
確か、また灰色の世界にいて、そこで一騎君が戦っていて……皐月っていう女の子が殺されそうになってて……
それを止めようとして。
そこから、どうなったんだろう?
「お目覚めかい?ははは、今回は流石に心配したよ」
返事の代わりに、一騎君に尋ねる。
「あの、私……どうなっちゃったんですか?」
「覚えてないのかい?」
「途中まで、しか」
呼び掛けた所で、記憶が止まっている。一騎君は暫く無言で歩き続け、すぐに家の前に着き、そこで私を下ろした。
「さ、到着だ」
そのまま私に背を向けた。
「何があったか、教えてくれないんですね……」
それって、酷くないですか?
そもそも何で私をあんなところに連れて行ったの?
異星人とか、有馬君のこととか、私に何の関係があるの?
勝手にやっててよ……
私の知らないところで。
「一つだけ」
「え?」
立ち止まった一騎君は、こちらを振り向かずに……話した。
「皐月は殺していないよ。君の望みは叶えた」
それだけ残して、立ち去った。
私はとりあえず安堵する。
(国分さん、よかったね……)
「ゆーかーりー」
「ひっ!?」
扉を開いた先では、怖い顔で腕組みをした有馬君が仁王立ちしていた。意気消沈しきってはいたけれど、何処か日常に戻れた気がしてホッとする。
のも、束の間。
「お尻出しなさい」
「は?」
な、何を言っているのでしょう?
「は、じゃないだろう?今何時だと思っている?余は由香里を夜遊びするような悪い子に育てた覚えは無い。間違いを正すべき、余は泣く泣く由香里のお尻を叩く。生だ」
いやいや、私はあなたに育てられた覚えがありませんよ……。それにお尻叩きとか立派なセクハラだよ?私ちっちゃい子じゃないし……生とか、そんなことされたら……自殺します。
「あの、心配させちゃったのは……その、ごめんなさい。でも、仕方なかったんだ」
俯いていると、有馬君は慌てて駆け寄り、私の両肩を掴んだ。
「まさか!?また、怖い目に遭ったのか!?」
その言葉を聞いた瞬間、何故か涙が溢れてきた。
私を心配してくれる人がいる。
それが……嬉しくて。
「あ、りま……くん……私、怖かった……怖かった、よう……」
泣きじゃくる私を、有馬君はよしよしと抱き締めてくれた。
「一度ならず二度までも由香里を苛めるとは……!何処の馬鹿か知らんが懲らしめる必要がある!」
「うわああぁぁああん!」
泣き止まない私を、有馬君はお姫様だっこで部屋まで連れて行ってくれた。
「由香里、お腹空いてないか?プリンがあるぞ。美味いぞ」
プリンって……あ、そう言えば。
「その、お使い出来なくて……ごめんね」
「ははは、気にするな。お使いの事も……今日の事も。そのうち由香里を苛める連中纏めてとっちめて、土下座させて謝らせてやるからな」
「うん、うん……」
私はまた、有馬君の胸の中に抱き付いた。そして……服を着替える事も忘れ、眠ってしまった。
怖い思いをした春休みも終わり、私も2年生になりました。新しいクラスに馴染めるか心配だったけど……何とか友達も出来て一安心、一騎君にはあれ以来会ってないし、有馬君もいるし……。
有馬君。
一騎君は、あの時の様に有馬君にも襲い掛かるのだろうか?以前の話だと有馬君は一騎君の一番のターゲットみたいだし……二人が出会ったら間違い無く、ただでは済まない。
嫌だ、そんなの……。
有馬君は私の家族なんだ、危険な目になんて合わせたくない。どうすれば、二人の衝突を回避出来るのだろう……。
(でも、私に出来ることなんて……)
無いよね。
国分さんみたく戦えないし、有馬君が襲われても、守ってあげられない。
それに一騎君に関して、知らない事ばかりだ、何に気を付ければいいか教えてあげることすら出来ない。
(有馬君、私……あなたを守りたい)
どうすれば、それが出来ますか?
「きゃは!由香里ちゃん、恋する乙女の顔ですー」
「ひゃ!?……三葉ちゃん」
急に話し掛けられ、危うく転びそうになってしまう。何とか持ち直す。
「もう、そんなんじゃないよ」
私はただ……家族として。
「きゃは!ま、そゆことにしといてあげるです。でも……悩みがあるなら、相談に乗るですよ?」
その新しく出来た友達、三葉ちゃんに励まされ少し元気を貰えた気がした。
「ありがとう、心配してくれて」
そうだ、前向きに考えよう。
ヒントに繋がる事がきっとあるはずだ。
思い出せ、昨日のこと。
あの場にいたのは……一騎君、国分さん、皐月さん、国分さんが背負ってた女の子。一騎君以外、知らない人ばかりで……ヒントなんて。
いや。
あと二人、私は見ている。
それは皐月さんが見せた夢の中……ツインテールの子は、知らない人。
もう一人は……。
!?
いた。
見つけたかも!
あの人なら、何か知っているかもしれない。
うん、そうだよ。放課後、早速会いに行ってみよう。
……やったよ、有馬君。
待ってて。すぐ、あなたを守れる方法を考えるからね。