#6.恭二編3
「皐月!どこだ!皐月っ!」
宝の力から解放され降り立った時、辺りは既にガーデン下ではなく……花見をした時の記憶にある校庭だった。
「ごめんなさいっ!私が……皐月お姉ちゃんに、従わなければ……」
その場にへたり込み、両手で顔を覆い泣き崩れる宝。皐月のことは気掛かりだが……一先ずその頭に手を置いた。
「宝は悪くないよ。それに……皐月がまだ無事でいる可能性もあるし」
拘束されている俺たちがいつ解放されるかわからなければ、そのまま一人で先に帰宅しているかもしれない……そう信じよう。
皐月はまだ……生きている。
(うむ。どちらにせよ勝負は決したはずだ、二人とももうこの場にはいまい)
えふの言葉に背中を押され、俺は宝と共に上山女子を後にした。
「宝、遅くなったけど……良かったよ。無事に連れて帰ることが出来て」
途中、皐月がいなくなったことで自分を責めている様子の宝にそう声をかけた。宝も少しでも微笑んでくれたのが今の俺には本当に救いになる。
もし……皐月がアパートにいなかったら、俺はこれからどうすればいいのだろう?
一騎という男を探し、皐月の安否を確認するのが一番早いけど……見つけた時点で殺されているのはほぼ確定してしまう。
出来れば、会いたくない。
それなら……皐月がまだ生きていると信じられるから。
(気持ちはわかるがな、皐月が家に戻っていなければ探す他あるまい)
「わかってるよ……」
「お兄ちゃん?」
えふとの会話にした返事だったが、当然宝には独り言にしか聞こえない。俺はえふ、じぇいのことを簡単に説明する。
「そうなんだあ……不思議な力だね」
感心している宝、やっぱり珍しいんだろうな。
さて、えふの言うように……逃げていてはもう皐月に会えない。何とか前を向かないとな。
そのためには出来るだけ情報が欲しい所だけど……宝にとって、捕まっていたことはあまり思い出したくない記憶のはず。本来なら触れるべきではないのだけれど、今の俺にはあの場所であったことはどんな些細な内容でも有用だ。
「宝……辛いかもしれないけど、教えてくれないか?あそこで何があったか」
「はい……」
曇った表情ではあったが、宝は応じてくれた。
それによると、最上階で安田に捕まってはいたが特に危害を加えられてはいなかったらしい。
「それを聞いて安心したよ。安田も秋華さんに付き合わされただけで、そこまで悪人ってわけじゃないのかもな……」
「私は苦手だけど、あの人……それでね、誰かお客さんが来たからお出迎えして来るって言って、いなくなっちゃったの。その時縛られてたバッテリーを解いてくれたから、他の階に逃げて……お兄ちゃんが来てくれるまで隠れてた。だから、私もあんまり……お役に立てなくて、ごめんなさい」
「いや、そんなことない。少なくとも安田の行動がある程度わかったし」
(そうだな。宝塚の話によると、一騎とやらは正面から塔にむかった。そして安田は恭二たちの前に姿を見せた時同様出迎えた、か)
「ああ。でも、俺と皐月の時は宝を拘束したままだったんだよな。なら何故その時は解いたんだ?」
「??」
宝はまだ俺とえふの会話に違和感があるようで首を傾げている。
(恐らく、恭二たちから菊花のことを聞きこれ以上の侵入者はいないと決め込んでいたのであろう。そこに、予想外の来客……それで宝塚を解放した方が、相手次第では得策と踏んだ。こんなところであろう)
だよな。そして……安田の生死もわからず終い、か。
「着いた。宝、あそこが皐月の部屋だ」
「うん……お姉ちゃん、いるといいね」
カタカタと軋む階段を上る。
胸の鼓動は高鳴るばかりだが、必死に平常心を保つ。
『恭二、おかえり』
その一言が聞きたくて。
皐月、皐月、皐月……。
居て……くれ。
鍵を開け、扉を開く。
皐月は……
居なかった。