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わりとどうでもいい地球侵略。ver.2  作者: もじ
わりとどうでもいい新章
6/12

#5.由香里編3

灰色に澱んだガーデンにおいて、眩い光を身に纏う一騎と皐月。共に凄まじい速度で進撃し、互いに電光石火の一撃を繰り出す。

結果、破壊力で勝った一騎の拳が皐月の大剣を打ち砕き優位に立つ。


「ふん、こんなものか?次は防げるかな!?」


赤いオーラを帯びた回し蹴りが皐月を捉える。咄嗟に鏡の盾を繰り出し直撃は避けられたものの、それは直ぐに砕け散りそのまま地上に叩きつけられた。

一方の一騎はそのまま着地し、粉塵の巻き上がる現場へとゆっくり歩を進める。


「ガードしたつもりだろうが、生憎その程度の強度じゃ守ったうちに入らないな」


捉えた獲物を嬲り殺しにすべく、じっくりとにじり寄る。皐月には這い出てくる気配はない。

一騎はその窪みの直前で立ち止まり、語り掛けた。


「流石にまだ生きてるよな?仮にも四星なんだろ、もっと楽しませろよ……




なあ!」


一騎の背後から猛追してきた黄土色のゴーレムの胸元を振り向き様に右拳で叩き割った後、言い放った。

そして一つ溜息をした後、地上に減り込んだ皐月の胸倉を掴み引きずり上げる。


「おいおい、気ぃ失ってんのかよ……弱いなお前」


そのまま傍に放り投げ、再び右手にオーラを纏わせる。皐月にそれを迎え撃つ術は無い。


戦いは、終わった。




「死ね」




……。


(終わった……)


結局、一騎くんの圧勝か。皐月という人に見せられた夢の印象が強かったから、途轍もなく強い人だと思っていたけど……そうでもなかったのかも。まあ、一騎くんがそれ以上だったんだ。

どちらにしても、これで家に帰れる。それでいいじゃないか……。


それで……。


(一騎くんは、あの人を殺すんだろうな……)


もちろん私にとっては最良の結果だ、でなければ……私があの人に殺される。


でも……国分さんの立場なら、こんなの……辛いなんてレベルじゃないよね。好きな人が、殺されるとか。


(……)


怖い。

あんな状態の一騎くんに近付いたら、私までとばっちりで殺されかねない。


でも。


やっぱり、知らん顔なんて出来ない!


「やめて……」


こんなんじゃ、聞こえない。

もっと、もっと、力一杯。


「やめて!」


まだ全然たりない!

全力で!全力でだ!




「 や ー め ー て ー え ー ! ! ! 」




(な、何……だと!?)


不思議なことに、最後の一撃を構えた一騎の手が止まった。

油断したわけでも、由香里の声に耳を傾けたわけでもない。それは彼の意思では無かった。


ー封じ込まれたのだ、彼以上の力に。


(ま、まさか……由香里……)


動けない。

そして、今まで気絶していた皐月がその身を起こした。まだダメージが残っているとはいえ……このまま攻撃されれば、一騎の命は無い。


(や、やめろ……由香里……くっ、自分が、こいつに……殺されるん、だぞ……)


徐々に時空に歪みが生じ、スローモーションとして時間が進んでゆく。由香里はその中でなお声を張り上げ続け、皐月はゆっくりと確実に一騎に斬りかかる。


間に合わない。


(この俺が?こんなところで?




死ぬ?




ありえない)


とはいえ、由香里によりもたらされた時間の狭間に捉えられた彼に、死は一歩一歩歩み寄る。

皐月の斬撃はもう一振りで彼を切り裂く。


一騎は……。




三葉(みつば)!やれええぇぇええ!」


叫んだ。




「きゃは、ただいま!」


その一声により、事態は一変した。

一騎を封じていた縛りは解け……それは逆に皐月を包み込む。


「な……に、こ……れ」


「はあ……はあ……ま、まさか俺がこんな不覚を取るとはな……」


片膝を付いた一騎を傍らから降り立った少女、三葉は和かに宥める。


「まあまあ兄さま、由香里ちゃんがここで片鱗を見せてくれただけでも儲け物ですよー」


「ふん……」


不機嫌に顔を背けた一騎の視線の先には、俯せに倒れこむ由香里の姿があった。怒りを滲ませながら歩み寄る彼に、三葉は慌てて声を掛ける。


「に、兄さま!いくらムカついたからといって、由香里ちゃんは大切な存在ですよ!」


「わかっている……」


一騎は横たわる由香里の体を労わるように起こし、抱き上げた。あれだけの力を使ったのだ……命に関わらないとも限らない。心配気に、その口元に耳を寄せる。


(寝てるだけ、か……よかった)


一騎はホッと一息付いた。

自らのプライドと由香里、そんなもの……どちらを優先すべきかなど考えるまでもない。


「安心したですよー。それより、こいつどうするですー?」


「……」


皐月に挑発されたことは癇に障ったが、由香里の力を見る為の囮にはなってくれた。力量的にも脅威になるとは考えにくい……それなら敢えて殺す必要もない。


「そうだな、三葉の好きにすればいい」


三葉の力なら、あの程度の奴でも役立つかもしれない。


「はいですー。じゃーあ、三葉が教育して再利用するですー」




(由香里はあの女を殺すことを嫌った、なら……その意思は尊重すべきだろう。今後の為にも)


こうして上山女子にて行われた長い戦いは一旦、終焉を迎えた。

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