#4.恭二編2
エリザベス、ヴィクトリアのどちらでもないとい一騎という男。しかしえふの予見通り、俺たちにとって敵となる人物であった。
(来るぞ!えふ、いけるか!?)
ー仕方あるまい、とりあえず一撃目に対し爆撃を発しその隙に変幻出来れば……。
つまり俺のままで一発耐えろってか?厳しいなあ!やったるか!
一騎は既にこちらを一完歩に捉えている。タイミングを間違えれば……。ええい、考えても仕方ない。
ー今だ。
(良し!)
俺が力を発する
その直前。
「皐月!?」
「はあ……はあ……間に合った」
一騎の攻撃に備えていた俺の前に、光の大剣を構えた皐月の後姿があった。思わず呼び掛ける。
「皐月、何やってんだよ!ここは任せろ!俺じゃ頼りないけど、えふがいる!あいつなら何とかなる!あの秋華さんと引き分けたんだ!だから……」
その言葉を遮り、皐月は振り向かずに話した。
「恭二、気持ちは嬉しいよ。でも……これはもう、エリザベスとかヴィクトリアの戦いじゃない。私たち以外の異星人が現れた以上、今までみたいにはいかないの。だから……」
「何だよ!」
俺は思わず声を張り上げた。
「そんなのわかってるよ!俺は皐月を守るって決めた!菊花さんと約束したんだよ!お前はエリザベスの希望なんだよ!それだけじゃない!……お前は……」
そこまで言って、俺は再確認させられた。
俺は……皐月が好きだ。エリザベスとかヴィクトリアとか関係ない。ただ一人、好きな女の子を危険な目に合わせるくらいなら……それこそ死んだ方がましだ。
そんな俺の心を見透かすように、皐月は優しく語り掛けた。
「恭二……私、あなたのことが好き。あなたと地球で幸せになりたい。これは私の夢なの……だから」
皐月は振り向かない。それでも今、皐月がどんな顔をしているかが手に取るようにわかった。
「私のこと、信じて欲しい」
「皐月っ!」
「宝、お願い」
皐月は駆け出した。
宝って……まさか。
「ごめんなさいっ!お兄ちゃん!」
「宝……」
後ろから俺に抱き付く。そして、あの技を使った。
「ダークシャドウ!」
「皐月!皐月ーっ!」
俺の声に皐月は振り向かなかった。そして宝の力により、俺は戦闘から離脱せざるを得なくなる。結界により俺は一時的にその場から隔離された。
「話は済んだかい?」
一騎は和かに歩み寄る。一方皐月はそれに反応を示さない。
「なるほど。地球人との恋か、ロマンテックだね」
「…………」
「気持ちの整理は付いた?俺としても女を甚振るのは趣味じゃない、ましてや恋する乙女とか……」
「ふふふ……」
一騎の言葉に、いや、彼が言葉を発した瞬間、彼女は変わった。その変化に彼は気付けたであろうか?
「始めまして。私、エリザベス都の浜中皐月……私たちは地球に資源を求めてやってきたの。でもね、そんなの私にとってはどうでもいいの……名もなき異星人さん」
その言葉に、明らかに一騎は動揺した。それは怒りに近い感情を彼にもたらす。
「ほう、随分雰囲気が変わるね。にしても……言ってくれる。俺も鬼じゃない、君の態度次第じゃあ……彼氏共々見逃すくらいのこと、してもいいんだけど?」
それはもはや嫌味に近いような申し出であった。しかし皐月はけらけらと笑っている。
「ふふふ、面白いこと言うのね。後ろのあなたには見せてあげたよね?」
「!?」
その言葉に、由香里は身震いする。この子、普通じゃない。そこで彼女はピンとくる。
ー国分さん、もしかして彼女に……騙されてるんじゃ……。
さっきの恭二の言葉を聞き、少なくとも由香里には恭二が悪い人間には思えなかった。地球人であるという自らとの確実な共通点も感編みて、彼女は彼に悪印象は抱かなかった。しかし……その彼が必死に守ろうとした人物はあまりにもギャップがある。
「異星人さん、いいの?もしかしてさっきの一撃で油断した?こんなもんかって。ふふふ……それなら尚更かわいそう」
流石の一騎も、そこまで言われ今までみたいに下手に出ようとはしなかった。
「ふん。お前、あまり俺を怒らせるなよ?エリザベスの春星如きが俺に敵うと思っているのか?」
皐月という名前を知っていたのか、彼は素性まで言い当て、彼女を睨み付ける。一方皐月の方は余裕の表情を崩さず、一騎に問い掛けた。
「ふふふ。どうでもいいけど、一つ聞いてもいいかな?」
「何だ?」
「あの塔を作っていた人のこと。あれでもヴィクトリアでは四星だから……あなたが殺したの?」
ここで一騎は考える。エリザベスと名乗っている以上、ヴィクトリアの人間が死んだとなると、それは願ってもないこと。逆に生きいれば、いずれ戦うことになる、つまりここでの返答次第では相手の出方が変わってくるかもしれない。
ーしかし、一騎はそんな打算を一瞬のうちに破棄した。
理由として、元来彼は策士ではなくあくまで自らの実力で進めべき道を切り開いて来たと信じていたからだ。
「……彼はまだ生きている。殺すことも出来たけど、別に今ヴィクトリアに宣戦布告するつもりもないしね。事実、彼は逃亡し、俺はここにいる。それだけのことだ」
「そうなんだ。ならあなたにはお礼しないとね、お陰で私たちは宝を救出出来たんだもの。安田に宝を道連れになんてされてたら……それこそ私、立場ないし」
皐月の言葉に、一騎は苦笑いする。
「それはどうも。で、君は何故そんなことを聞いたんだい?その男の生死に関わらず、仲間を救うことが出来たんだろ?」
「だって……」
皐月は一騎の背後にいる由香里に向け、にっこりと微笑む。そして、表情とは裏腹に、戦場に置ける現実を告げた。
「それによっては、その子まで殺さなきゃいけないし」
ー!?
皐月の言葉に、由香里は身を震わせた。そして……思い知る。
理由は知らない。
それでも、一騎は自分を殺さないと言っている。なら生き延びるためには……彼が皐月という少女を殺す以外、道はないということを。
「さて。もういいだろ?そろそろ始めよう」
「ええ。じゃあ……
いくね」
皐月が言葉を発した次の瞬間、二人は由香里の視界から消え失せた。