#3.由香里編2
突然私たちの前に現れたのは夢の中で見た男の子。一騎くんは嬉しそうに彼らに詰め寄る。
「こんばんは。少し話さないか?」
穏やかな口ぶりだが、その様子は先日の二人組みを追っていた時と変わらない。獲物を見る目だ。
一方その子はそれに対し一つ頷き、背負っていた女の子を大事そうに下ろし、一騎の下へと赴いた。
「ああ、俺もあんたに聞きたいことがある」
向かい合う二人。一騎も今のところ戦闘態勢ではなさそうだ、それもそのはず……対峙する彼からは相手と交戦する意欲のようなものが感じられない。私の勝手な推測かもしれないけど……。
「そうなんだね。では、聞こうか」
「そか、じゃあ早速……。あんた、ヴィクトリアの連中か?」
ヴィクトリア……その言葉を聞き、私は背筋の凍る思いがした。一騎くんの言い分が正しければ、有馬くんは彼らの言う組織の一員ということになる。つまり……彼は有馬くんの敵ということになる。
となれば少なくとも一騎くんの戦う相手ではないのではないか。それでも彼は特別気を許すような素振りはない。
「ヴィクトリア、ね。その言葉をここで話すということは君は今宵の出来事に関わっているというわけだね」
一騎くんの言葉に彼は若干苛立ちの色を見せる。
「悪いな、俺もそんなに暇じゃないんだ。特に用がないなら帰らせてもらう」
そう発するや否や、後ろを振り向く。まだこの子の素性はわからないけど……それは単純に仲間を気遣ってのことのように思える。
本当に、私の単純な印象だけど……あまり悪い人には見えない。
「ははは、それじゃあ……」
ここで一騎くんは彼の出方を伺うような物言いをした。
「では仮に、だ。俺が君のいうヴィクトリアの人間だとしたら……君はどうする?」
そして、その答えに彼は酷く激情した。
「どうもしねえよ!今更ヴィクトリア……いや、エリザベスに直談判したところで桜花は帰っちゃこねえんだ!ただな、一言文句言わねえと気が済まねーんだよ!わかるか!?友達がな、桜花が……あんたらの争いの巻き添えをくって……」
そこまでまくし立て、やめた。
「悪い……」
一騎くんから顔を逸らす。私も彼を見ていていたたまれない気持ちになった。
「なるほど……君は俺の思っていたものとは違うのかもしれない。名前、聞いてもいいかい?」
何か思うところがあったのか、一騎くんから少しばかり、殺気が薄れた気がする。
「俺は国分恭二。あんたが何者かは知らない、仲間を助けるためここにやって来た。それだけだ……」
「仲間、ね。今の言葉で君たちについて凡そ特定できた。ではこちらも名乗らなくては不公平だね」
一騎くんは口振りを見るにどうやら彼、国分さんは敵ではないのだろう。そう考えると少し体の力が抜けた。
「俺は一騎、君の言うヴィクトリア、エリザベスの人間ではないが、地球人からすれば大差ないかもしれないな」
「つまり、異星人ってことか?」
「ああ。君は違うのかい?」
一騎くんの言葉に国分さんは明らかに動揺している。まあ私も始めて異星人なんて聞いた時は動揺しまくりだったけど……ヴィクトリアとかエリザベスなんて私の知らない人たちと繋がりがあっても、やっぱり驚くんだ。
「俺は……まあわけあって地球人にはない力がある、のかもしれないけど。というか皐月や桜花たち以外の星から来てるやつがいるとか初耳で。すまん」
「なるほど。つまり君は地球人だが何らかの手段で異星人と渡り合える力がある……そういうわけだね」
ここまで話し、一騎くんは一段落置いた。
「まあ……」
ここで。
一騎くんが動いた。
「くっ!?」
国分さんは彼の発した閃光に一瞬怯む。一方一騎くんは直ぐには攻撃に打って出ず、あくまで宣戦布告であったかのように語りかける。
「それを聞いて安心したよ。君が一般の地球人で、ただ巻き込まれただけだったら俺としても危害を加えるわけにはいかないからね」
「待って!」
私は出来る限り声を張り上げ、彼を静止しようと試みる。が……全く聞く耳を持たない。むしろ、一騎くんの後ろにいる私にとって本来相手側となる国分さんがそれを汲んでくれた。
「一騎さんよ、後ろの子はあんたに戦って欲しくないようだけど……いいのか?」
「ははは、君たちを排除することが彼女を身の安全を考えると最善の策となる……いずれわかってくれるさ」
それ以上、彼らは言葉を交わさなかった。一騎くんは間合いを伺い、国分さんは目を瞑り、覚悟を決めているように見える。
そして、一騎くんが仕掛けた。彼のスピードに対し、国分さんは完全に出遅れたように見える。
「避けてーっ!」
叫ばずにはいられなかった。しかし彼は動かない。このままじゃあ……!
…………。
「はああぁぁあああ!」
「!?」
次の瞬間、光の太刀筋が一騎くん目掛け放たれた。紙一重で直撃を避けた彼も大幅な後退を余儀無くされた。
「皐月!?」
「はあ……はあ……間に、合った」
現れたのは先程まで国分さんにおぶられていた、女の子であった。不意を付かれる格好となった一騎くんもその顔からは高揚感が伺える。
「くくく……こうでなくてはなっ!来いっ!異星人っ!」
もはや止めることは出来そうになかった。