#9.由香里編5
お昼休み、私は夢の中で見た人に会う為、生徒会室を訪れた。
(私なんかと、会ってくれるかな……)
意を決して扉をノックする。
「あ、あの……私、2年A組の武由香里っていいます。その、少しお伺いしたい事がありまして……」
「どうぞ」
とりあえず、会ってはくれるみたいだ。良かった……。ホッと胸を撫で下ろしつつ、扉を開いた。
「失礼します。その、突然押し掛けてすみません……」
私がぺこりと頭を下げると、その人はにこりと微笑み掛けてくれた。
「ふふふ、よろしいのですよ。そちらにお掛けになって」
生徒会長に促され、私はソファーに腰掛ける。緊張する……私、ちゃんと話出来るかな?
暫らくして、ティーセットを持った生徒会長が向かい側に着いた。
「紅茶でよろしかったかしら?」
「はい、ありがとうございます……」
生徒会長は和かに話しかけてくれる。私も、こんな風になりたいな。依然俯き気味な私に、生徒会長の方から話を切り出してくれた。
「武さんと仰いましたね。私に聞きたい事とは、どのような?」
「はい……」
真っ直ぐにこちらを見つめる生徒会長。うーん……何処から話すべきなのかな?話が話なだけに、見間違いだったらそれまでだ。
でも、他に当ても無いし生徒会長が夢の中で見た人だと信じるしかない。
「あの……変な事かもしれません。私の思い込みの可能性も高いです。それでも……いいですか?」
「ええと……よくわかりませんが、構いませんよ」
「ありがとうございます。じゃあ……」
生徒会長の言葉にひとまず安心した私は、順を追って説明した。
有馬くんのこと。
一騎くんのこと。
そして私が目の当たりにした灰色の世界、その中で繰り広げられる俄かに信じ難い光景……。自分でも何言ってるんだろって思う、それでも生徒会長は真剣な顔で耳を傾けてくれた。
「なるほど、それはさぞ怖い思いをされたのですね。お可哀想に……」
「はい……」
(生徒会長、信じてくれてるのかな?)
疑っているような感じには見えないけど……。
「仰る事は何と無くわかりましたが、何故それを私に?」
「はい……」
ここから先は、親身になってくれた生徒会長を裏切りかねない。夢の中であなたを見ました、何かご存知では?という質問を……私はしなくてはならない。
でも……言えない。
どうしたら……。
「武さん?」
「あの、ええと……」
やっぱり、来るべきじゃなかったのかな?
私が俯いて、黙り込んでいると……生徒会長は急にくすくすと笑い始める。
「生徒会長?」
「……いえ、お気になさらないで。そうですわね、生徒の悩みを聞くのも私の仕事のうち。出来る限りの事はさせて頂きますね」
「生徒会長……それって」
何とか出来るんですか?こんなわけのわからない問題を……。
「ふふふ、私の知り合いに何とかしてくださるかもしれない方がおりますの。お願いしてみますね」
(これって……)
確信は無いけど……多分、あの人は生徒会長だったのだろう。どちらにしても、その人なら有馬くんを助けてくれるかもしれない。
「ありがとうございました、生徒会長」
「よろしいのですよ。では、放課後にでもまたいらしてね」
私はもう一度、生徒会長に深くお辞儀をし、部屋を出た。凄く緊張したけど……それなりの成果を得られた事に安堵し、教室へと戻る。