逃げるな!
昨日、というか今日の臨時ニュースのせいで私は一睡もすることができなかった。どれだけ泣いたことだろうか。鏡を見たら目が充血していた。夜中の0時半ごろ、見ていた番組が突然、臨時ニュースにかわり、そのニュースで人類の滅亡が告げられた。最初は嘘だと思っていた。しかし、専門家たちの様々な分析、さらに映像から人類の滅亡は避けられない事実であり、必ず訪れてくるものであるということがわかった。その瞬間、私は死ぬんだと思い涙が溢れてきた。すぐに実家の両親に電話したが両親はすでに寝ていたようで電話には出てくれなかった。あと、17時間で死ぬ。いったい何をしたらいいのかわからず、とりあえずいろんな人に連絡した。そして、実家に帰るために身支度を泣きながらし、始発の電車に乗り込んだ。一睡もしていないが、電車の中で寝る気にもなれなかった。寝たらこの目や耳でこの世界を感じる時間が減ってしまうから寝たくなかった。もう、数時間で死ぬのか、この18年間の人生はたった18年間で終わってしまうのか。電車の中でいままで生きてきたこの18年間を思い出していた。
私の名前は八島 朱子。建築士である両親のもとで私は生まれた。私には姉もいて、喧嘩したりもしていたがなんだかんだで仲良しだった。小中高と不自由もなく過ごしてきた。部活はテニス部で強くはなかったけども、中1から高3の5月までまじめにテニスをやった。そのテニス部も受験勉強のため引退し、勉強にはげんだ。私は両親の影響なのかもしれないが建築士になりたかった。そのため、建築学部のある大学に入るため必死に勉強したのだ。しかし、成績が思うように伸びず、何度も涙をこぼした。逃げ出したいと思った。そんなときに、同じテニス部の青山くんが声をかけてくれた。青山くんはテニス部の部長でみんなからもとても親しまれていた。青山くんは練習の時は顧問よりも厳しい存在であったが、練習以外ではとても優しくそういったギャップ効果的なものが同性からも異性からも好かれていた。そんな青山くんに私は「がんばっても意味無いじゃん。もう、逃げ出したい」と言った。青山くんはそんな私の発言に対して厳しく言った。「逃げるやつは勝手に逃げればいい!それで後悔するのは逃げたやつだ!八島の夢はその程度の夢だったのか?」
私はその言葉で再び勉強に対して逃げずに向き合うことにした。成績はいつのまにか上がり、試験本番を迎えた。私はここまで逃げなかった。逃げなかった努力は結果となって帰ってきた。私は志望大学に合格したのだった。このときの嬉しさは言葉ではいいあらわせない嬉しさだった。親元を離れて下宿生活になるという不安は少しあったが、その不安感よりも嬉しさの方が上回っていた。私が志望大学に合格したのもあの青山くんの言葉があったからだったとおもう。そんな青山くんに対する感謝はいつのまにか片想いという好意に変わっていた。この感情を青山くんに伝えたいと思った。しかし、そんな勇気は私にはなく、告白できないまま、大学生活が始まり半年過ぎてしまったのだった。
私は実家の最寄り駅に着き、そこから実家に向かい、実家に着いた。そして、すぐに私は家で泣きながら両親と姉に抱きついた。私は久しぶりの母の飯を食べた。涙を流しながら最期のご飯を食べたのだ。そして、私は久しぶりで、そして二度と見ることができない町を散歩することにした。今日、人類が滅亡するというのに、セミはいつも通りにないている。セミが成虫になって生きていれるのはたった1週間らしい。でも、今日に限ってはみんな平等にあと8時間弱で死んでしまうのだ。そんなことを考えながら歩いている時、私は後ろから声をかけられた。その声をかけてきた相手は青山くんだった。「青山くん、久しぶりだね」と、私は日常的な会話をした。「八島こそ!どうだ、元気だったか?」青山くんも日常的な会話で返してきた。今日、人類が滅亡することにはやはり触れたくないという思いがあるのだろう。しかし、言葉は制御できても、感情は制御することができなかった。私は青山くんの前で突然ないてしまったのだ。そんな突然泣き出した私を青山くんは私に抱きついて励ましてくれた。「死ぬことは怖いことだ。でもな、1人で死ぬわけじゃないんだ。俺も一緒にいる!」青山くんも死ぬのは怖いと思ってるはず、それなのに、私のことを励ましてくれたのだ。そんな青山くんに対して私は言葉の制御もすることができなくなった。「青山くんの逃げるな!っていう言葉で私は大学に合格することができたの、ほんとうにあの時はありがとうね。私はね、その時から青山くんのことが…」そこまで言って私は目をつぶった。この18年間は今日で終わる。その最期に後悔のないように、最高の人生だったと言えるように、私は覚悟を決めた。そして、目をあけて私は言った。「私は青山くんのことが好きです。」
18時過ぎ、約束通りに最期のときは訪れた。八島 朱子は自分が育った場所で自分が愛した人たちがいるこの町で最期のときを迎えたのだった。