病床のフィアンセへ
あれから2ヶ月が過ぎた。ロッケは今日も病院に来ている。
病床に横たわるマスラーには、未だに何を話しても返事は返ってこない。そしてぶら下がる点滴の瓶よりもずっと遠くを眺めている。
「なぁ、マスラー。騎士だからといって、自分の命を捨てるほど愚かなことってないよね。俺が大切にしてた騎士のプライドなんてさ、そんなもんだったんだよね。きっとさ。
マスラーは気付いてたよね?
リストラされたときだってさ、必至に一緒になって現実に連れ戻そうとしてくれたしさ。俺のこんなプライドかっこ悪いだけって知ってたよね?
けど敢えて何も言わなかった。騎士は俺そのものだから。今まで騎士として生きてきたから。
それでもこんな俺と婚約してくれたこと考えると、マスラーは騎士としての俺じゃなくて、俺そのものを愛してくれてたのかな?
ちょっと都合のいい解釈だったりしてね。
なんかさ、事件以降、自分が騎士の家系のプライドを絶やしたことなんて、何も悪いと思わなくなったんだ。親父に謝りにいくまでは、ほんとどうしたらいいのかさっぱりわかんなかったんだけどね。
リストラされた日にさ、多分マスラーに無理やり仕事探しに連れて行かれなければ、俺もひょっとしたら親父みたいなことってか、別に死んだりはしないと思うけど、いつまでも騎士たるものみたいなことばっか言ってたんじゃないかなって考えたりするんだ。
けど、生まれてから今まで自分が守り通した騎士としてのプライドって、こんな一瞬で無くなるんだって思ってさ。
今までの俺ってなんだったんだろうって・・・。
大切に守ってきたものって、どれだけ小さく意味の無いものだったんだろうってさ。」
ロッケはうつむき、そして泣いた。
窓からはそびえ立つ王宮が見える。
30分ほど経っただろうか。
「じゃ、俺会社行ってくるね。ほら課長にまた怒られちゃうからさ。お前はほんと何にも出来ないバカだなってさ。ほんとにウザイんだよ。いやこれマジで・・。
けど、仕事は頑張るよ。白菜どころか最近は魚も値上がりしてて、結構きついよな、生活がさ。」