仕事探し
二人は夕刻頃にようやく警備会社に到着した。
そしてマスラーは受付の女性に問いかけた。
「すみません。仕事を探しているんですが・・。」
「あの、ガードマンの仕事ですか、それとも経理とか内勤ですか?」
マスラーはロッケに対し、しばらくぶりに口を開いた。
「ちょっと、ロッケ何出来るのあんた?」
「ガードマンって俺そんなのあんまりなんだけど、ってかまだ気持ちの整理も」
受付の女性は
「ガードマンの仕事でしたら先ほど内定の方がまとめて5名程出まして、すみませんが欠員はないんです。というのもどうも王宮の騎士の方が多数リストラに合われたとかで・・・。」
マスラーは丁寧に受付の女性にお礼をし、事務所の外にロッケを連れ出した。
「ほらっ、みんな考えていることは同じなの。わかる?騎士だったとかそんなの関係ないの、平和な世の中で何が騎士なのよ、まったく。みんな生活のために騎士をやってたの。なのにロッケは・・ぶつぶつ。」
ロッケは何をマスラーに話せばいいのかがさっぱり分からなくなった。
自分の気持ちにそもそもの整理が出来ていないからだ。
由緒正しき騎士の家系の血を受け継ぐ者として、自分に誇りを感じ、国に忠誠を尽くしてきた。そして忠誠が不要とされ、過去の栄光すらないがしろにされているこの状況だ。
マスラーは言った。
「ほらっ、帰るよ。」
少しマスラーの言い方がさっきよりやさしくなったような気がする。
仕事がないと分かって少し冷静にならなければと感じたのかもしれない。
そして「今日からうちは毎晩お粥だから。」と呟くマスラーの目からは強い覚悟が伺えた。
4、
晩ご飯は本当にお粥だった。
というかお粥だけだった。ただ梅干はある。
ロッケはそれを一口食べると「お粥おいしいね。」と言った。
すかさずマスラーは怒った。
「美味しいわけないでしょ。こんな米と水だけなんて。」
そして、一言。
「余計なお世辞とか要らないから、明日からどうするかちゃんと考えなさい!」
久々のお粥が本当に美味しかっただけなのに・・・。ロッケはきっと何を言っても説教されるであろう状況を悟った。この感じは本当に嫌だ。
だから本心であるかは別として、この場を落ち着けたくて、マスラーにこう言うことにした。
「俺は、明日からヨガスクール手伝ってもいいかな?」
「ちょっとロッケ、いいからそんな適当な回答は。
昼間も言ったでしょ、生徒さんが減ってるって。だから私一人で大丈夫なの。だからヨガスクール以外での収入が大事だって。」
ロッケの騎士をあきらめる覚悟は、逆にマスラーの油に火を注いでしまった。
「ねぇ、ロッケ、あなた強いんでしょ?」
「どういう意味?」
「聖都に魔物を連れてきなさいよ。そしたらまた騎士として雇ってもらえるかもしれないじゃない。」
「ちょっとそれはマスラー、言ってもいいことと悪いことってあるよ。」
ロッケは冷静にマスラーに伝えた。
「魔物が来たらみんな毎日恐怖に怯えて生活することになるんだよ。俺だってマスラーにそんな生活させたくないよ。」
「だって・・・」
マスラーは困惑しきっている。
しまいに泣き出してしまった。張り詰めていたものが溶け出した。
5分ほどしてからだろうか、ロッケは再び話し始めた。
「ねぇ、マスラー。俺明日からちゃんと仕事探すね。ほらっ、毎日鍛えてたから体力には自信あるしさ。きっと見つかるよ、それっぽい仕事。」
「何、そのそれっぽい仕事って。例えば何?」
「ほら、宅急便とか自動販売機に飲み物補充するやつとかさ。」
「あんた車運転できないでしょ!馬でしょ、いつも乗ってたの。」
「いやっ、助手みたいな仕事あるじゃん。車の横に乗ってお手伝いするのって。」
「そんなの経費削減の風潮からここ10年で無くなってるでしょ。今は全部ドライバーが一人でこなしてるの。しかもそんな大変な仕事を続けられる根性なんてロッケには無いでしょ。」
そしてマスラーはため息混じりに
「ロッケさ・・、お願い。もう騎士時代のことは忘れて、普通の人になろっ。」
ロッケはしばらく考えて、
「けどさ、冷静になればなるほど、俺に何の仕事出来るかってわかんないんだ・・・。それに、先祖代々の騎士の家系を途絶えさせてしまった責任について、どうすればいいのかも分からない。」と話した。
二人の間に微妙な時間が過ぎ、マスラーは言った。
「わかった。一緒にお父さんのところに謝りに行こっ。おじいさんのお墓にもね。
あとね、えっとうちの親もいい?」
ロッケはマスラーに分かってもらえたことが嬉しかった。これから夫婦になるもの同士、序章として一つの困難を乗り越えられた安心感と無敵感すら感じた。
但し、騎士の家系を途絶えさせたことに関しての考えのまとまらない、モヤモヤ感は倍増しているのが分かった。