フィアンセ
ロッケと婚約者のマスラーは、入籍前ではあるが既に同棲をしている。
二人はレンガ造りの5階建て賃貸アパートの3階に住んでいる。40㎡と狭いが、二人はとりわけ夕暮れ時に窓から見える王宮の荘厳な様がとても気に入っていた。
「おかえりロッケ。」
マスラーはリビングでヨガをやっていたようだが、ロッケが帰るとおかえりのキスをしてきた。
「ねぇ、ロッケ。今日は王宮で何したの?なんかいいこと、それとも悪いことだったりしちゃうの?」
ロッケは新調したばかりの鎧と名剣「ハヤブサ」を洋服ダンスにしまうと、うつむき加減で話し始めた。
「はぁ、俺リストラされてさ・・・。」
一連を話し終わるとマスラーは、一言。
「世知辛い世の中だね。」
そういって、再びヨガを始めた。
しばらくして、マスラーはロッケにさらっと聞いた。
「で、どうすんの明日から仕事?」
「いやっ、何も・・まだ・・」
「ちょっとロッケ、お願い。聞いて!
最近白菜とかの野菜価格が高騰してるって知ってるでしょ?豚肉とかも去年の一点何倍とかなってんの。普段ロッケは騎士のプライドだとかなんだかで市場行かないからわかんないと思うけどさ・・。
主婦が余計に使えるお金ってほんとどこの家庭も減ってるの。みんな生活を切り詰めて、少しでもいいものを家族に食べさせたいって、そんな風に考えてるってわかるよね?
だからヨガスクールに来る生徒さんも最近は減ってきてるの。」
ロッケは付き合って始めてマスラーから強い態度でモノを言われた。騎士時代にはなかったことだけに戸惑いを隠せない。
「生徒さん減ってるんだね?」
「何のんきなこと言ってるの?私達来月結婚式でしょ。式でいくらかかるか位はロッケにも分かるでしょ?」
「300万円だろ。それは俺も知ってるよ。けど、もう前金も振り込んであるし、」
「違うの。もうぅ、ロッケってば全然分かってないよねほんとそういうとこ。その後の話なの。
けどもうあなたフリーターなのよ。なんなのもぅ。」
ロッケは反論した。
「それは確かにフリーターだよ、明日からの俺はね。けど、騎士だったから俺と結婚したって、まるで俺の中身なんてどうでもいいみたいな、それってヒド過ぎじゃないか?」
「そこまで言ってないでしょ。ロッケのバカ。さっさと仕事を見つけて働けって事!」
ロッケはもうどうでも良くなりかけると同時に、イライラが治まらない。押さえるのが必至で、もうほんとイライラしている。
すると突然マスラーはジャージを着替えて、床に座って動かないロッケの手をひっぱり上げた。
「行くよバカ!」
バカなんて今日までマスラーから言われた事など当然ない。
しかしロッケはマスラーの顔を見るなり、本気度を悟った。
「行くってどこにだよ?」
「警備会社。」
そして二人は聖都の反対側にある警備会社に向かった。その間二人は無言だった。