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突然の解雇通告

パンテゴジュファの西岸にある聖都は今日も安泰だ。

人びとは農作業に精を出し、豊かな実りを称えそして感謝する。


ここ50年は魔物や敵国も襲って来てはいないらしい。


ロッケは先祖代々、由緒正しき騎士の家系に生まれた。祖父は50年前聖都を最後に襲った魔物のボス、ポギーを倒したとされ、王宮のエントランスに銅像が祭られているほどの名家だ。


そんな血を引くロッケも今年で25歳。来月ヨガスクールの講師を務めるマスラーという娘と結婚の予定がある。



騎士といっても普段は稽古場で汗を流す。

今日は水曜日。よって朝から人ほどの大きさのわら人形を切りつける練習を行っている。

2,3体メッタ切りにし終わった頃だろうか、突然騎士団の団長から王宮に来るように呼び出しを受けた。


ロッケは王宮に行く機会などめったにないため、一度家に戻り、最近新調したばかりの鎧を身にまとい向かうことにした。

腰には祖父がポギーをしとめた時に使ったとされる名剣「ハヤブサ」を携えた。



家から王宮までは歩いて30分はある。道中右足と右手が同時に前に出るたび、由緒正しき騎士たるもの、情けないと思ってしまうほどの気構えだ。

というわけで、団長室の前に到着したときは自分で多少の気疲れを感じていた。

そして、ロッケは不慣れな緊張と適度な疲労を緊迫感に変え、勢い良く部屋の戸をたたいた。 

「団長失礼します。ロッケ参りました。」


団長は快く部屋に招き入れてくれた。

そして応接セットにロッケを着席させるとお茶を出してくれた。


お茶菓子などもつまみながら、談笑した後、話は本題に入った。

「ロッケ君、いいづらいんだけど、君は明日から来なくて良くなったから。」



ロッケは突拍子もない話に困惑している。

「団長、明日は木曜日なので馬に乗る稽古があるんですが、中止になったということです・・・か?というか意味が・・・あの、ちょっと分からないんですが・・・。」


「いや、最近聖都は平和そのものだろ。だから先ほど国王から公告が出て、騎士団の予算が大幅に削られることになったんだ。

それで君に声をかけたというわけだ。ただ退職金の方は、国都合退職になるから掛け率は自己都合退職時より厚くなると思う・・。但し在籍期間は3年だけだからな。・・・総額は多少少ないかもしれないけど、勘弁してくれたまえ。」


「すみません団長、いきなり退職金がどうだとか・・・そんなこと言われても困るんですが。」


「私に困ると言われても困るよ。

ましてや私を説得したとしても、ロッケの解雇通告が取り消されることはないぞ。なぜならってこれは国王が決めたことだからな。」


「団長、僕には来月結婚の予定があること知ってますよね?この時期にちょっとヒドイというか、正直かなり辛いんですが。」


「結婚式には、君さえよければ私も是非参加するよ。」


「僕の結婚式に参加してくれるってことは、僕の功績を認めてくれてるってことですよね?なのになんでリストラなんですか?」

ロッケは団長に迫った。というか腹が立ってきた。


「おっと、いやいや参った。これは失言だった。

ロッケの結婚式に参加すると、ロッケの功績を認めたことになりかねないな。後々労働争議とかは面倒だからな。

優秀な社員をリストラした理由なんて、法廷で聞かれても答えようが無いからな。不当解雇とみなされて危うく余計な賠償金を払うところだったよ。悪いなロッケ。俺は結婚式には行かないぞ。」


「団長、そんな言い方ないですよ。」


すると団長は突然自分の財布から3万円を取り出しロッケに手渡した。

「ほら、とっとけロッケ。これは俺個人の祝い金だ。」


「リストラされる人に祝い金なんて人を馬鹿にするのもいい加減に・・・。」

ロッケの顔はみるみる赤くなっていく。


「おい落ち着けロッケ、これはお前の結婚祝いだ。」


「・・・」


団長は言った。

「これは俺が決めたことじゃないんだ。分かってくれとしか言えないんだ。就業規則にもあるだろ「国の都合で解雇する場合もあるが、その際騎士は国の判断を受け入れなければならないものとする」ってな。」



その後ロッケは人事科に顔を出し、退職の手続きと、わずかな退職金を手に王宮を去った。

あっけないものだった。


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