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恋姫†無双-外史の傭兵達-  作者: ブレイズ
第七部:殺戮
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−−ほら生まれたわよ−−


−−…俺も年貢の納め時か…−−


−−あら、まるで嬉しくないみたいじゃない−−


−−いや…嬉しいんだが…実感がな…。俺みたいな人間に子供が出来るなんて…−−


−−人間は誰でもそのくらいの幸せを享受する権利があるわ。ところで……早く名前、考えてちょうだいね?−−


−−…応…自信ないがな…−−




−−よぉ相棒。久しぶりだな−−


−−応。悪いな夜遅くに−−


−−こっちは昼飯の時間だよ。で、なんの用だ?祝儀なら送ったぞ−−


−−あぁ、アレか。ちゃんと名前書いて寄越せ。匿名のお陰で勘繰っただろうが−−


−−そうだったか?…まぁ良いや。で?−−


−−…最近、身辺がどうも怪しい−−


−−尾行けられてるのか?誰に?−−


−−目星がつくと思うか?引退したとはいえ、傭兵は死ぬまで傭兵だ。どんな奴からどんな恨みを買ってるか、皆目判らん−−


−−…判った。俺も日本へ行く。それまでは生きてろよ?−−


−−俺のしぶとさ忘れたか?−−


−−そうだったな…“猟犬”−−










−−…なんてこった…!!おい、しっかりしろ!!カズヤ、ナスターシャ!!!−−


−−…よぉ…相棒…久しぶりだな……って、この前、電話したか…−−


−−…久しぶりね…−−


−−喋るな!!……クソッ…!!−−


−−…助からないだろ?…クラッシュした後、鉛弾も喰らったからな…−−


−−…ちょっとキツいわね…−−


−−…なぁ相棒、頼み聞いて貰っても良いか?−−


−−…なんだ?−−


−−…これ…預かってくれ…−−


−−おい!!冗談は顔だけにしろよ!!!−−


−−…ナイスガイ捕まえて何いってんだよ阿呆。俺とナスターシャの“銃”…時が来たらコイツらに渡してやってくれ。…堅気になってても良い…とにかく…渡してくれ…−−


−−…“この子達”も頼むわ…−−


−−…凄いだろ?流石は俺とナスターシャのガキだ−−


−−…胆が据わってるな…泣き声ひとつあげねぇ−−


−−…将来は大物になるわよ…女の子を誰かさんみたいに泣かせなければ良いんだけど…−−


−−…違ぇねぇな。…相棒の子供だったら間違いなく女泣かせだ−−


−−おいおい…−−


−−……名前を聞いてなかったな。二人の名前は?−−


−−兄は…“翔”。……天空を自由に()べた俺達の昔を忍んで…−−


−−弟は“和樹”。……どうか、この子が私達のような戦争屋じゃなく…平和の大樹になる事を祈って……−−










−−−誰かの声が聞こえる。


何故か−−−温かく、懐かしい声だ。


……眩しいな。


眼を強く瞑りたくなるが………どうも周囲の気配が気になる。


ゆっくり眼を開けてみると−−−−


「…………?」


−−−見覚えのない天井………と言うのは止めておこう。


何故かは知らんが……言うのはなんとなく止めておこう。


身体を起こしてみる。


上手く力が入らない腹筋を使い−−上体を起こす。


「………………」


…しばらくの間、ボーーっとしてみた。


眠気で重い瞼を抉じ開けつつ周囲へ視線を送る。


………なんだ、この状況は?


……何故に……部下を始め、同僚や一応の上官達が居るのだ?


「−−−−−−」


部下の一人が俺を見ながら何かを喋っているが……何も聞こえない。


……あぁ、完全に意識が戻っていないからか。


ならばと、なにやら話し掛けてくる連中へ意識を集中させると−−−世界に音が戻って来た。


「−い−−え−−−たい−−か−−−隊−−ますか−−−−隊長、聞こえますか!!!?」


「−か−−さ−−−和樹様!!?」


「−−−き−−−和−−和樹、大丈夫!!?」


−−−戻らない方が良かったと思うほど、あまりの大声に耳鳴りがした。


「……聞こえてます。…それと少し静かに願えませんか……頭が痛い」


どうも声が嗄れているが……なんとか絞り出すと、周囲が弾かれたように俺へ視線を向け−−−


「隊長ォォォォ−−−ブベッ!!?」


−−部下の一人が手を広げつつ突撃して来たが、反射的に射程圏へ入った所で殴り飛ばしてしまう。


……むぅ……力加減が…。


「……男に抱き着かれる趣味はないぞ」


「……は…い……すびばせ……」


「メメメッメディィィック!!!」


「なにやっちゃってんですか!!?こっちに運べ!!!!」


「しっかりしろ!!傷は浅いぞ!!!」


壁に叩き付けられた後、床へズリ落ちた奴を数名掛かりで部下達が抱えつつ部屋を出て−−−部屋?


……この部屋……屋敷ではないな。


「−−相棒。気分はどうだ?」


その声に顔を上げると……白衣を着た相棒が俺を見下ろしている。


「……頭痛、軽い目眩、倦怠感……それと腹が減ってる」


「……症状は言えるっと……で、何でここに居るかは判るか?」


「………………なんだっけ?」


「……記憶喪失……自分の名前は言えるか?」


「あぁ」


「俺の名前とかもだな?」


「応」


「ん……その他は特に問題なし…たぶん記憶喪失は怪我によるモノか…」


相棒がブツブツと呟きながら手に持ったカルテらしき書類へボールペンを使い、書き込む姿を見遣る。


「……和樹……大丈夫?」


「…韓甲…」


横たえられていた寝台へ近付いて来るのは伯符殿と華雄−−−だけではなく、孫呉の主だった武将や軍師達までが心配気な眼をしつつ近付いて来た。


「……和樹。私と母様の墓参りに行ったのは覚えてる?」


「墓参り……あぁ、はい。その後−−−−」


二の句を続けようとした所で−−思い出した。


記憶の奔流が脳裏を襲い、あの時、あの場所で何が起こったのか−−その全てを思い出した。


「……ここは建業ですか?」


「えぇ、城よ。黒馗が乗せて来てくれたって」


「……狼は居ませんでしたか?」


「あぁ…あの子達?部屋の外に居るわよ。連れて来る−−−」


「いえ、結構」


この状態で突撃をかまされたら……流石にキツい。


倦怠を感じる身体に鞭を打ち、伯符殿へ視線を向ける。


「…曹操軍との戦いは?」


「心配しないで。向こうは徐州へ全軍撤退したわ」


「…撤退?…しかも全軍が?」


「えぇ。報告だと曹操は許昌へ帰還するそうよ。…あぁ…そうだ。近い内に謝罪の使者が遣わされるみたい」


「…謝罪…?」


「あの襲撃は曹操の意思じゃなかったってこと。…下手人は許貢の残党よ」


許貢の残党……ならば、彼女へ恨みがあって当然か。


そもそも孫策の死因は許貢の残党が放った矢傷が元だったと記憶にある。


「…撤退とは…迎撃に成功した、という事でしょうか?」


『…………』


尋ねると伯符殿だけでなく彼女達全員が眼を伏せ、言葉に詰まる。


「……なるほど……」


その反応で大体の予想が出来た。


「−−大尉、中尉」


相棒の呼称を階級へ改めて、部屋に佇む中尉を呼ぶ。


−−踵が鳴る音は直立不動の姿勢になった事の証だ。


「…生死不明で大尉は部隊の指揮を執った筈だな?」


「はっ、御明察です」


「そして中尉は……大尉の補佐に。違うか?」


「仰る通りであります!!」


デカい声のお陰で頭痛がしたが……まぁ良い。


「…では報告を聞こう。貴様等、何をした?」


「…先程、申し上げた通り、部隊長生死不明の状況につき、不肖ながら小官が指揮権を頂きました」


室内に居る部下や武将達が直立不動で報告を述べる将司と寝台に腰掛ける俺へ視線を交互に向ける。


「その後、部隊に出撃命令を下し、曹操軍迎撃へ向かいました」


「…動員兵力は?」


「小官を含めた120名−−全員であります」


「…戦闘の経過を聞こう」


「はっ。…小官が騎馬による突撃を敢行すると同時に戦車および迫撃砲での砲撃を加え、戦車と共に歩兵も突撃。ヘリによる支援を受けつつ猛進−−ナパームも投下しました」


「……ナパーム……どれほど投下した?」


「58発だったかと」


「……………」


−−つまり、保有していたほぼ全てのナパーム弾を使用したという事か。


「…敵兵力は?」


「−−本隊は約10万、合流を図っていた別働隊も10万だったかと」


相棒に代わり中尉が報告の為、声を発した。


「…当方の損害は?」


「戦死者はなし。負傷者は20名弱。接近戦を行った者がおりましたので」


「…他に報告すべき事項は?」


その問い掛けに二人は黙り込み、追加報告がない事を示す。


「…判った。姿勢を楽に」


命令に二人は腰の後ろで両腕を組む。


何気なく顎に手を遣ると−−随分と伸びている無精髭の感触。


……その内、剃るとするか。


「…孫策軍と共同で戦闘を行ったか?」


「…いえ…単独での作戦行動でした」


「10万の敵軍を相手に、僅か一個中隊で戦う……無謀だな」


結果的に曹操軍を領内から撤退させたこと自体は評価出来る。


正規の軍人であったなら受勲は間違いない。


「初撃で敵軍がビビッてくれたのが幸いだ。…でなければ各個撃破の可能性もあっただろう」


評価を下しつつ煙草が何処にあるか探すが……見付からない。


「…俺が戦死したとしても、それを理由にした戦闘行為は必要ないと何時も言っている筈だ。これは命令として理解していると思ってたんだがな…」


…ふぅむ……俺の煙草…煙草……何処に行ったんだ?


無精髭の生え具合からして一週間やそこらは寝ていたのだろう。


身体がニコチンを欲していて仕方がない。


「…命令に背いた場合は?」


「…処刑、であります…」


「判っているなら良い。引導を渡してやる」


「か、和樹様ッ!!?」


…子明殿。デカい声を出す前に煙草を探してくれませんか?


なにせ俺が重度の喫煙者である事は承知の筈なのだから。


………えっと……何処まで話したか……あぁ銃殺云々までか。


どうも頭が上手く回転していない……ニコチン不足の所為……普通は逆だな。


溜息を零し、改めて二人へ視線を向ける。


「……だが…結果を鑑みれば、曹操軍の撃退に成功した。それを考慮すると特に問題は無いだろう」


そう告げつつ、唇の端を軽く持ち上げる。


「第一、現在は指揮権を有していない上、銃が無い。咎めはせんよ」


「和樹って、素直じゃないわね〜♪」


……伯符殿、横から入らないで頂き−−……あぁ…頭痛がする…。


「…自分は素直な人間です…。二人共、以上だ」


二人は敬礼をするが……踵を鳴らす音が妙に頭に響く…。


「…なぁ相棒…」


「ん、なに?」


「…耳…」


地味に頭痛がする額を押さえつつ、相棒を手招きすると野郎は求めに応じて顔を近付けて来た。


「……なにか特殊な解毒でもしたのか?」


「いんや。ってか、俺が診た時には毒の症状なんか無かったぜ。たぶん−−これを打ったからじゃねぇ?」


白衣のポケットを漁り、相棒が差し出して来たのは−−あの時、打った注射器。


何故、野郎が持っているのかは……気にせんようにしよう。


というか考えるのが面倒臭い。


「…かなり、ダルいか?」


「…あぁ…ついでに頭痛がする」


「お前のトランシーバーで神に聞いたんだけどよ……コイツの副作用って、それらしいんだわ」


「……あん?」


「だから、ダルかったり頭痛したりとかが一ヶ月くらいは続くってさ。筋肉の瞬発力は今まで通りだけど……しばらくは持久力が落ちるみてぇだ」


「……あぁ、さっきので経験済みだ。…妙に疲れる…」


申告すると相棒は身体を離し、俺を見下ろす格好になる。


一ヶ月も倦怠感と頭痛が続く……地味にキツいな…というか地獄だ。


……二度と神印(仮名)の急拵え薬剤なんぞ使ってたまるか。


「しばらくは安静だな。鈍るとヤバいから軽い運動−−城内を散歩したりしてリハビリしねぇと」


「…そうしよう−−…ちょっと待て、城でか?」


「動けんのか?」


「…………」


……はい……満足に動けません。


立ち上がるのもキツいです。


「医者の言う事は聞くんだな」


「…判った。……あぁ、所で…」


「ん?」


「徐盛はどうしてる?」


使用人の姿が不意に脳裏を掠めた。


「あの子なら、隣の部屋よ」


「うむ。お前の意識が戻るまで看病すると言い張っていたが……流石に限界だったのか倒れてな」


「慕われてるのぅ。あの歳で何日も徹夜するとは…いやはや見上げたモノじゃ」


顔を上げてみると……武将達が何故か温かな視線を俺へ向けていた。


彼女達には好印象の徐盛の行動だが……あの歳で徹夜はマズいだろう。


後々になって“身長が伸びない云々”と言われても俺は責任を取れない。


……待て…“後々”…?


…何故に阿呆らしい事を考えたのやら…。


「………寝よう」


「お眠か?」


「……訂正したい発言だが……まぁそうだな。…少し寝かせてくれ…」


「判った。……という訳で…」


「そうだな。雪蓮、我々は−−」


「−−ちょっと待って」


相棒の催促に応じて彼女達が部屋を出ようとした時、伯符殿が寝台へ寝転んだ俺に歩み寄って来る。


身体を起こそうとするが−−それよりも早く彼女の顔が近付けられ、耳元へ唇が寄せられる。


「遅くなったけど……ありがとう和樹…護ってくれて…」


「…礼には及びません」


「ううん…ありがとう…」


「…………」


「…早く、元気になってね」


「…御安心を。そのつもりです」


「…うん…」


顔を離した彼女は俺の頬を軽く撫で−−そのまま身体を翻した。


「じゃあね、和樹。あっ、部屋の外に警護の兵がいるから何かあったら声かけてね♪」


「…感謝します」


「一応、ウチの連中にも警護させるからな。用があったら声を掛けろ」


「…判った」


「じゃあな」


口々に俺へ声を掛けつつ全員が部屋を後にした。


……妙に静かだな……まぁ当たり前か。


…しかし−−


「…横になるのはどうもな…」


何年振りに身体を横にした所為か……背中がしっくりこない。


……慣れるしかないのだろうか−−


「−−…あ…」


−−重要な事を聞くのを忘れていた。


……俺の煙草は何処なんだ?





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